ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月31日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。30日に死去した台湾の李登輝元総統について解説した。
台湾の李登輝元総統が死去
台湾の李登輝元総統が7月30日夜に亡くなった。97歳だった。終戦後に中国大陸から渡って来た蒋介石、蒋経国親子による独裁が続いた台湾で、台湾出身者として初の総統に就任。12年間の在任中に直接総統選挙を導入するなど民主化を進めた。「私はかつて日本人だった」と公言する親日家で、日台関係の発展にも尽力した。
飯田)日本の政界からも、悼む声が続々と出されています。
多彩なバックグラウンドを有効に活用した稀有な政治家~親日家であるだけではない
宮家)台湾が生んだ偉人です。日本の新聞を読んでいると、京都大学に入って、学徒出陣で陸軍に入隊してと、日本との縁が深いことが書かれています。それはそれで正しいのです。しかし、李登輝さんの本当の姿というのは、いい意味で、もう少し複雑です。彼はいろいろなバックグラウンドを持っていますが、そのいいところを全部集めたような人だと思います。まず、台湾のなかで彼は、いわゆる外省人と言われる大陸から来た人ではない。台湾に昔から住んでいる台湾人でもない。昔に大陸から台湾に来た「客家(はっか)」と呼ばれる人なのです。何百年もそこにいるけれども、まだ客人なのです。客家は台湾のなかに2~3割いるのですかね。
飯田)海峡を挟んで、大陸側と台湾の両方にいるということですか? 香港にもいますか?
宮家)そうです。います。例えば、鄧小平さんもそうです。彼らはいろいろなところへ行く人たちですから、台湾にも何百年も前に渡ったのです。しかし、ユニークな文化を持っていますから、現地化しなかったということでしょうね。それがまた彼の魅力でもあると思います。
台湾の民主化を進め総統直接選挙制を導入
宮家)それと同時に、彼はアメリカにも行っています。はじめにアイオワ大学に行って農業を勉強し、その後プロテスタント、長老派のキリスト教徒になるのです。そして奨学金をもらい、コーネル大学で農業を勉強するのですが、そのころはもう40代の留学生でした。そして、台湾に帰って来て抜擢されて行くのです。彼は日本のバックグラウンドだけではなく、中国のなかでも客家という独特な文化を持つ人の代表であり、プロテスタントでもあり、アメリカ通でもあるのです。だから、アメリカに行くときもコーネル大学に、「母校に帰る」と言って渡米する。またそれが中国との関係で問題になるわけです。単なる親日家で日本の兵隊さんだったということだけではなく、いろいろなバックグラウンドを持って、それぞれをいいとこ取りした、非常に稀有な例だと思います。そして、客家なのだけれども、彼は台湾独立運動をするのです。独裁政権であった国民党にいながら、民主化を進めたのです。
飯田)そうですよね。
宮家)中国に脅されたけれども民主化をして、総統選挙をやった。いまの台湾があるのは、彼があらゆる困難を乗り越えて決断した結果だと思います。その李登輝元総統が亡くなったということは、1つの時代が終わりつつある、日本語を話してくれる世代の台湾の人たちがいなくなって来るということです。彼は日本語を流暢に話す最後の世代だと思います。ご冥福をお祈りしたいと思います。私にとっては、非常に大きな存在でしたね。
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