ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月7日放送)に元内閣官房参与で前駐スイス大使、現TMI総合法律事務所顧問の本田悦朗が出演。政府税制調査会が新型コロナウイルスによる財政悪化を懸念し、消費税増税も検討しているというニュースについて解説した。
政府の税制調査会が財政悪化を懸念、消費増税も検討か
8月5日、政府税制調査会はウェブ会議方式で総会を開催した。会合では新型コロナウイルス対応で財政悪化が一層深刻になっていることを懸念し、消費税増税を中核に添えた骨太の議論が必要ではないかといった意見が出たということである。
飯田)「いま増税か?」という話ですよね。
本田)信じられないですね。
「増税が必要」だと誰が言っているのか~1千兆円を超える借金を返済することは不可能
飯田)しかもその理由が、「財政悪化」ということです。「借金がたくさんあるのだ」という、よく聞く議論ですよね。
本田)そうですね。こういうことをおっしゃる方のバックグラウンドは、どういうバックグラウンドなのか、本当に知りたい気持ちです。アベノミクスのもとで、我々は7年間もがき苦しんで来たのです。そして返済しても、借金は1千兆円を超えています。無理ですけれど、毎年2兆円ずつ返して行っても、1千兆円ですから……。
飯田)500年かかる。
財政を健全化にするために、減税から始まって、経済規模を大きくして税収を上げて行く
本田)500年かかります。そういうことをやってはいけないのです。問題は債務の総額をGDPで割った値、つまり経済規模に対して借金がどれだけあるのか、それを徐々に減らして行くのが財政再建なのですね。いままではデフレの真っ最中で、それが上昇して来た。つまり、GDPは増えずに若干減り気味で、財務省も一生懸命デフレから出ようとしてお金を使った。そして債務が増え、GDPが減ってしまい、もう完全に破算してしまいました。デフレの状態が続いたら、日本の財政は破綻します。日本の財政を健全化するためには、増税ではなく減税から始めて、経済規模を大きくして税収を上げるということを、まずやらなくてはなりません。増税から入ってしまえば経済が収縮して、かえって悪くなります。そういう見やすい論理をどうしてわかってくれないのかと、私自身も歯痒い気持ちがします。
政府と家計は比較できない~政府に借金の返済期限はない
飯田)よくアベノミクスの出発のときに、これだけ借金があるのだからと、家計に例えて借金を返さなくてはならないという議論がありました。それはまさに増税から入るという道ですよね。アベノミクスは、そちらではない方法を取ろうとした。
本田)そうです。
飯田)稼がなくてはならないと。
本田)日本経済には家計がたくさんあるのです。日本には人口が1億2600万人いますから、そこには家計がたくさんあります。その家計1つ1つと公共セクター、日本の政府セクターは1つしかありません。ですから、政府と家計はまったく比較できないのです。政府はまず永遠です。クーデターがあれば別ですが、そうでなければ永遠にありますので、いつまでに借金を返さなければいけないという期限はありません。また、政府は通貨発行権があります。ですから、論理的にデフォルトは起こりません。お金を刷ればいいのです。もちろん、刷りすぎるとインフレになりますけれども、いまはインフレにならなくて困っているのだから、その心配は当分ないのです。
飯田)よくインフレターゲットと言って、2%を超えたらインフレになるではないかと言われましたが、いまはそこにすら行きません。
国民の消費が上がらない限り、日本経済は浮上できない
本田)半分も行かないです。コロナのせいで、いまは足元がマイナスですから。これは異常ですが、コロナの前から消費者物価指数はほぼ0です。ですから先は長いのです。しかも、仮に2%を超えても何の問題もありません。5%、10%となったらそれは問題です。しかし、3%くらいはオーバーしても問題なくて、むしろオーバーしておいて上からゆっくり軟着陸させて行く、「オーバーシュート型コミットメント」と日銀がよく言っていますが、そういうことなのです。将来、国民の消費が活発化して来ると、自然と緩やかに消費者物価も上がって来る。そうすると賃金も上がって来るということを実感して欲しいのです。それがない限り、日本経済は浮上できません。
飯田)90年代から始まったと考えれば、まもなく30年以上この状態が続いていて、GDPが伸びていない状態が続いている。「もう日本は成長しないのだから、借金をきちんと返して行かなくてはいけないのだ」ということを言う人もいますが、日本は成長しますか?
2014年の消費税増税以後、経済が上がらない日本
本田)成長します。しないと、先進国の地位から転げ落ちます。すでに半分転げ落ちていますけれどね。いろいろな指標を見ても、例えば20年くらい前は1人あたりのGDPでも、労働生産性でも日本が1位だったのです。指標によってはアメリカを凌いでいました。ところが、いまや30位を超えています。OECDの先進国クラブのなかでは最下位に近い。それだけ伸びなくなったのです。若い人の開拓精神というか、アントレプレナーシップ、企業家精神が萎えてしまった。国民も消費しなくなって、ひたすらお金を貯めようとする。将来に対して不安があるからです。悪循環がまた始まりつつある。アベノミクスでようやく少しよくなり、特に2013年の初年度はものすごくよかったのです。しかし翌年、2014年の消費税増税で水をかけられてしまって、その後はなかなか浮上できない状態が6年間続いてしまった、というのが事実ですね。
飯田)アベノミクスには3本の矢というものがありました。財政と金融政策、それから構造改革なども含めて、特に財政と金融をきちんと打ち込んで行くのだと。そこでメディアがやって来たことは、財政をガンガン出すという、公共事業重視の古いタイプの経済なのだというレッテル貼りがありました。しかし、実際に決算の書類などを見ると、初年度はきちんと出していたけれど、その後はけっこう渋かったりしました。ここをもう一度起動すれば、また浮上して行くということですか?
財政出動が必要な理由
本田)財政だけではダメです。アベノミクスを最初に始めたとき、いちばんの中心は金融の緩和でした。黒田バズーカと言われた、1年間で60兆、翌年には80兆にしましたが、1年間で80兆円の長期国債を買って行ったのです。そうすることで、お金が民間にたくさん出るはずだった。しかし、民間の資金需要は出て来ませんでした。そうなると、国債を買いますから、国債の代金を民間に払おうとするのですが、銀行が引き出さないものだから、日銀に溜まっている準備預金が莫大な量になってしまったのです。だからマインドが変わらないと、せっかく日銀が準備預金という形でお金を刷っても、それが民間経済に流れて行かないのです。それを助けるためには、やはり財政が必要です。財政というのは、強制的にお金が出て行くのです。財政出動をすればお金が民間に行きますから。金融だと、みんながお金を借りてくれなければ先に進めない。
飯田)溜まってしまうわけですね。
歳出をカットしたために勢いが失速してしまった
本田)ええ。しかし、財政はどっと流しますから、両方やるのがいちばんいいのです。日本の運用を見ると、アベノミクスでも名目GDPは若干増えて来て、税収は上がっているのです。ところが、歳出をカットしているから、勢いが失速してしまっている。それがこの6年間だったのです。せっかく成長率が戻って来ているのに、なぜ勢いがないのか。消費者物価指数が0と1の間です。よく考えてみると、知らず知らずの間に財政は緊縮していたのです。なぜ財政が緊縮したかというと、歳出をカットしているからです。つまり、プライマリーバランスの2025年目標を守ろうとして、財務省は真面目な役所ですから、一生懸命頑張ったのです。しかし頑張り過ぎて、早過ぎたのです。もっとゆっくりやって、「まずは経済だ」という考え方に基づいて行かなかったのが、間違いのもとだったのです。
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