航空会社が生き残るためには~国際線を統合以外に道はないか
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月7日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされる航空業界の今後について解説した。
苦境の航空会社、生き残り策を議論する
日本航空の2020年4~6月期は本業の損益が1200億円規模の赤字(前年同期は210億円の黒字)となった。四半期としての赤字額は12年に再上場してから最大で、新型コロナウイルスの感染拡大で乗客が急減している。
飯田)一方で全日空(ANA)の同じ期は、過去最大の1600億円の営業赤字であったそうです。各社厳しい状況です。
イベントリスクに弱い航空業界~国内線3割減、国際線9割減
須田)「イベントリスク」というものは、民間企業にとって多かれ少なかれ影響があります。イベントリスクとは、事前に予知できない出来事によって引き起こされるリスクのことです。例えばテロや戦争、自然災害、もちろん今回のような感染症なども大きな影響を及ぼして来ます。そして、イベントリスクにいちばん弱いとされているのが、航空業界なのです。SARSや鳥インフルエンザのときも大きな影響を受けましたが、今回の新型コロナウイルスは、航空会社にとって戦後最大のイベントリスクと言われています。
いろいろと取材していますと、4月7日に始まった緊急事態宣言から大きく業績が落ちて行きましたが、5月25日に最終的に解除されて以降は、徐々に持ち直しの状況になっています。6月の段階で、国際線は飛行機が飛んでいませんから、平時の9割減、1割くらいまで落ちてしまった。しかし、国内線に関しては3割減程度まで戻って来たのです。「国内線は3割減、国際線は9割減」という状況まで戻って来た。その結果、全日空の場合ですと、国際線の売り上げが年間5000億円、国内線が5000億円と、大体イーブンになっているのです。
月間マイナス1000億円~借り入れ金1兆円では10ヵ月しか持たない
須田)そのことを前提にして考えると、月間の人件費をはじめとしたキャッシュの流出が、およそマイナス1000億円です。これは第2波前なのです。第2波が来て、どの程度の流出があるかはまだ見通せないのですが、少なくとも国内線の売り上げが3割減で済んでいるはずはないので、もっとキャッシュの流出が大きくなっているのではないかと思います。
そのなかで、2020年春に政府系金融機関、または政府保証を受ける形での民間銀行からの借り入れ等々を含めて、1兆円ほどのお金を確保しています。1兆円のキャッシュが手元にあるのですが、先ほど言ったように月間のキャッシュの流出額は1000億円ですので、10ヵ月しか持ちません。
飯田)そうか、1年持たないのですね。
須田)1兆円では、とてもではないけれど足りない。お金を出す側にとっても、1つは民間金融機関、または政府保証を入れることになったとして、将来の見通しが立たないなかで、無尽蔵に入れて行くことができるのかどうか。入れたお金は戻って来るのか、という問題が1点目。2点目は、最終的に公的資金を注入するとなった場合、税金の投入になりますから、大義名分が立つかという問題が出て来ます。
国内航空事業の再構築が必要~国内線は2社での競争が必要、国際線は統合する方が効率的
須田)そうすると、国内の航空会社全体での事業を再構築しないと、返済が成り立つかどうかわからない。また、公的支援を注入する場合にも大義名分が立ちません。では、どういうことが考えられるかと言うと、国内線と国際線を分けて考えるということです。国内線が1社体制になると、競争原理が働かないために運賃が高くなります。消費者にとってみれば、再編、統合してしまうとデメリットが大きい。やはりここは、全日空と日本航空がきちんと競争してもらうという状況がベストになります。一方で、国際線は全日空と日本航空の2社体制が必要なのか、という問題が起こって来ます。ライバルは海外の航空会社なのだから、ここは統合した方が効率的ではないかということです。その辺りが1つの焦点になるのではないでしょうか。
飯田)歴史を紐解くと、80年代くらいまでは、国際線は日航が1社で請け負っていた。そこにチャーターから入って行った全日空が、最初はグアム線を飛ばしたり、いろいろやりながらここまで来た。全日空からすると、手放したくないという気持ちは当然あるのでしょうね。
須田)国際線の売り上げは、新型コロナウイルス以前の状況では、全日空の方が上回っていたのです。日本航空は、民主党政権時代に経営破綻していますからね。
飯田)路線もあのときにかなり整備しましたよね。
須田)ここでまた政治が絡んで来ますが、政治家として全日空にいちばん近い存在が、菅さんなのです。
民主党時代に経営破綻して再建した日航と自民党に近い全日空
飯田)自民党は完全に全日空ですものね。
須田)逆に日本航空は、稲盛さんが会長に就いたという経歴もあります。民主党政権下に多額の公的支援を注入したこともあって、民主党色の付いた航空会社になっているのです。もちろん、民間のビジネスに政治が関与するのは避けなければならないのですが、航空事業というのは国策的な色合いが強いから、どうしても政治色が強くなってしまうのです。全日空は、菅さんが総理大臣に就くということで、喜んでいるのではないかと思います。
飯田)そう考えると、フラッグキャリアの交代まで起こるかと。諸外国を見れば、そういう例もあるのですがね。
須田)いま、政府専用機は全日空ですから。
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