今度のヨーロッパの行方を決める~ドイツ与党の新党首選挙
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月15日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。ドイツの与党CDUが党首選挙を開くというニュースを受け、メルケル首相引退後のEUの今後について解説した。
ドイツのキリスト教民主同盟CDUが党首選挙を開催~メルケル首相の後継者選びの前哨戦
ドイツの与党キリスト教民主同盟(CDU)は1月16日に党首選挙を開く。2021年9月の連邦議会選挙後にメルケル首相は政権を引退することを表明していて、新たなCDU党首は次の首相の有力な候補となる。2005年の首相就任以来、EU=ヨーロッパ連合の実質的なリーダーとして君臨して来たメルケル首相の後継者選びの前哨戦として、今回の党首選は注目されている。
飯田)ということですが。
EUは「内閣総理大臣がいない全国知事会」
宮家)私はEU、ヨーロッパの専門ではないので、ざっくりとした話しかできないのですが、EUの本質というのは「ドイツとフランスの握り」なのです。第二次世界大戦後、米ソ冷戦のなかで、ヨーロッパはどうやって生き延びて行くかと考えたときに、ドイツとフランスは喧嘩している場合ではないのだと。彼らが一体になって、ヨーロッパの力をもう1回復興しようと欧州経済共同体(EEC)というものをつくり、成功したのです。しかし、逆に言うと、限界もあるわけです。私は「EUとは何か」と聞かれたとき、「内閣総理大臣がいない全国知事会だ」と言っています。どういう意味かと言うと、内閣総理大臣がいないから、誰も決められないのです。
飯田)決める人がいない。
宮家)ええ。EU各国の首脳は知事さんだと思えばいいのです。全国知事会だからみんなが集まるのです。日本は47都道府県で、EUは20数ヵ国あるわけです。みんなで決めるのだけれど、強制力があるわけではないから、数が多くてなかなか物事が決まらないし、その上、なかでも強いところがありますよね。日本ならば、他の都道府県の方は申し訳ないですけれど、東京都と大阪府です。ドイツは東京都なのです。仮にフランスが大阪府だとすると、そこが握ってEUというものはできているのです。
ドイツから見れば、踊ってばかりで働かない国もある
宮家)しかし、よく考えてみると、EUのなかには、ドイツ人の目から見れば「踊ってばかりいて、まったく働かないではないか」という国もあるわけです。自分たちは一生懸命働いているのに、「補助金を出せ」と言って来る。「自分で働け」と言いたいわけです。
飯田)挙句の果てに財政破綻まで起こしかけた国もあるではないかと。
宮家)似たようなことが日本国内の全国知事会でも起きていて、東京都には企業が集中していて税収が多いから、お金が余る。それを配ってくれと他県の知事が言う。それに対して、何を言っているのだと。「東京都の人たちが一生懸命働いたのだから、東京都のために使うのは当たり前だ」と。こういうことがあり得るわけです。
飯田)よくそこも揉めていますよね。
宮家)同じことがEUでも起きています。ドイツはユーロを導入した段階で、構造的にドイツに有利なシステムができあがっていますから、ドイツが黒字になるのは当たり前なのです。もちろん効率も悪くないですし、生産性も高い。ドイツの人たちは自分たちですべてやったと思っているのですが、周りの国は「何を言っているのだ」と。「恵まれていてお金が儲かるのだから、それをよこせ」と言う国もあるのです。
飯田)確かにそうですね。
ドイツの次期首相によって影響を受ける今後のヨーロッパ
宮家)こういうことを考えると、フランスとドイツが手を握っている限り、EUはしっかりしているけれども、そうでないと大変だということですよね。それを守って来たのはフランスとドイツの首脳です。特に過去十数年で言えば、やはりメルケルさんですよ。EU主義者ですからね。それにマクロンさんが乗っかっているという状況。そのドイツのメルケルさんが引退するのです。そして、1月16日に後継者が決まる。その人が、もしトランプさんのようなドイツ第一主義者で、ドイツのお金はドイツのお金で配る必要がないだろうと。
飯田)俺たちの金だと。
宮家)そうなれば、EU内部の格差をどうやって是正するかというときに、ドイツが果たすべき役割があるはずなのに、それを放棄することになります。保守系の人がなったときに、EUに背を向けることはないにしても、「いままでのような形でEUに貢献するというのは違うだろう」という人が出て来るかも知れません。一方では、メルケルさんの直系の後継者が「やはりEUは大事だ。フランスや各国と協調しながら」と言う。これがもし大きく割れるような形になる場合には、ドイツがどちらの方向に行くかということは、今後のEUにかなり大きな影響を及ぼすでしょう。そういう意味でも、今回の選挙は注目です。
ドイツとフランスがEUのために犠牲を払って頑張って来た~それが変わるのかどうか
飯田)日本の国内だと全国知事会の場合は、確かに東京都は多くの税収があって、それは地方交付税交付金という形で配りますけれども、最終的には「同じ日本人だから」と何とか納得する理由があります。しかし、EUの場合はそれぞれが国で、一国一城なわけですよね。
宮家)そう。地方自治体ではないのですよ。主権国家ですから、鳥取県が主権国家、鹿児島県が主権国家であるということです。同格だとなればますます難しいですよね。
飯田)そこで再分配と言っても、「自分たちの税金を勝手に使うな」と言われたら、そちらにも正当性が出て来てしまうわけですものね。
宮家)冷戦があったから、あれだけヨーロッパが一致団結できたのですが、その冷戦が終わってしまって、どうやって一体感を維持するかというので、彼らに言わせれば、「ドイツとフランスが犠牲を払って頑張って来た」と。それがまた曲がり角に来るのかどうかというのが、今年(2021年)の焦点だと思っています。
飯田)その遠心力が強くなって、バラバラになるという可能性はどうですか?
宮家)イギリスが抜けてもバラバラになっていないでしょう。イギリスはコアメンバーではないのです。ヨーロッパのコアメンバーはドイツとフランスです。その意味では、当分は維持できるでしょうけれども、ドイツ次第では方向性が変わる可能性があるということです。
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