ワークマンを成功させた「エクセル経営」
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黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に「株式会社ワークマン」専務取締役の土屋哲雄が出演。ワークマン式「しない経営」を支えるエクセル経営の内容について語った。
黒木)今週のゲストは「株式会社ワークマン」専務取締役の土屋哲雄さんです。2020年10月にダイヤモンド社から発売された『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』という土屋さんがお書きになった本には、「エクセル経営、データを活用する経営」ということが書かれているのですが、この「エクセル経営」というのは具体的にはどのようなものなのですか?
土屋)儲けを計算するのではなく、「エクセルを使って社員が全員で考える」という組織的な話です。小売店でしたので、「上の言うことを聞いてやればいい」という風潮が強く、「報連相」とよく言いますが、報告・連絡・相談などを大切にするような会社でした。それをまったく変えてしまおうと思ったのです。小売なので、店で何を売るのかということがいちばんの関心ごとです。どのような品物にするのか、お客様が来たときにないと困るし、売れないものを置いていても業績は上がらない。
黒木)お店で何を売るか。
土屋)それを「スーパーバイザー」と呼ばれる若い人たちが加盟店を回って指導していますが、いろいろな実験をしてもいいということにしたのです。実験をしてもいいけれど、それが正しかったかどうかは、データで検証して、その結果を上に報告しなさいと。「このようなことがありました」と事実を報告するのではなく、「実験してこのような答えが出ました」ということを報告してもらう。ですので、現場で完結してしまうのです。いまのような変化の激しい時代ですと、経営者がいちばん現場をわかっていません。コロナが起きて業態がどのように変わったのかを最も知らないのは私なのです。しかし、現場の人はよく知っています。現場で気付いたことをデータで確認する、実験したことをデータで検証する。「現場が強くなるような頭脳を持つ」ということを考えています。
黒木)自分の頭で考えてきちんと行動するということですね。
土屋)そうです。結果が出たら上に報告をする。その結果を地域で採用するのか、全国一律で基準を変えるのか、ということを判断するのが上の役割なのです。下で結論が出たら、それは1店舗として正しいのか、全国規模で正しいのか。もし全国で正しければマニュアルを書き換える、というようなことが幹部の仕事となります。
黒木)この本のなかでも、「実験をする」ということが書かれていますね。
土屋)ある店は大きいサイズが売れて、ある店は大きいサイズが売れない。調べると、大きいサイズが売れない店は普通のサラリーマンなど、現場仕事をする職人さんではない人がたくさん来ているのです。小さいサイズが売れ残る店は、職人さんがたくさん来ている。なぜなら職人さんはサイズが1つ上なのです。女性は、オーバーサイズでワークマンのジャンパーを買うことが多いのです。女性のMの方はLを買います。Lの方はLLを買う。これもまた、誰が買っているのかわからない理由です。「どうして売れないのか」ということには3つ~4つの要素があるのですが、それを分析して売れる売り場をつくることが、現場を監督して加盟店を回る人たちの役割なのです。それをやる手段がデータ経営なのですが、トップダウンの激しい会社でしたので、下の方が忖度して意見を言えないのですよ。ところがデータなら言えます。意見が間違っていたら、データの読み方が間違っているか、扱っているデータが古いというようなことです。「分析をしたらこうなっている」というデータについて、人格とは関係ないところで議論ができるので、上と下が対等に議論できるのです。
黒木)データがあることによって。
土屋)はい。忖度もないし人格を傷つけることもなく、客観的に数字の読み方として議論ができる。そんな会社をつくりたいと思っていました。
黒木)それがエクセル経営ということですよね?
土屋)そうです。エクセルがいちばん簡単なので。
土屋哲雄(つちや・てつお)/株式会社ワークマン専務取締役
■1952年、埼玉県深谷市生まれ。
■東京大学経済学部を卒業後、三井物産株式会社に入社。
■1988年、社内ベンチャー制度を利用して三井物産デジタル株式会社を起業。
■その後、三井物産経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司董事兼総経理、三井情報開発株式会社の取締役執行役員などを歴任。
■2012年、株式会社ワークマンに入社。常務取締役として情報システム部・ロジスティクス部を担当。2017年から経営企画部も担当し、2018年出店の新業態「WORKMAN Plus」を仕掛けた。
■2019年からは専務取締役として開発本部と情報システム部・ロジスティクス部を担当。
■2020年10月に初の著書『ワークマン式「しない経営」 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』を出版。
<株式会社ワークマン>
■1982年8月設立。本社は群馬県伊勢崎市。日本全国800店舗以上。
■主に現場作業・工場作業など働く人に向けた作業服や関連商品を取り扱う専門店。
■ブルーワーカー向けの高機能で低価格な商品が数多く揃っていることもあり、仕事だけでなく、バイクの運転手やアウトドア愛好家の間でも人気。滑りにくい靴底の靴が、安全性に着目した妊婦さんに売れるなど話題となった。
■2018年にはカジュアル性を加えた「ワークマンプラス」を開店。2020年には作業着ではない女性向けの商品を扱う「#ワークマン女子」を開店。圧倒的な知名度と機能性でアパレル業界を席巻している。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳