宇宙開発、中国の現状

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「報道部畑中デスクの独り言」(第249回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、中国の宇宙開発の現状について---

国際宇宙ステーション(NASA・JAXA提供)

画像を見る(全5枚) 国際宇宙ステーション(NASA・JAXA提供)

国際宇宙ステーションでは2人の日本人宇宙飛行士が、昨年(2020年)11月から切れ目なく長期滞在を続けています。

1人目の野口聡一さんは5月2日に帰還後、現在はリハビリの最中です。その合間を縫ってと申しましょうか、5月27日には日本のメディア向けに帰還後初めての記者会見に臨みました。アメリカ・ヒューストンをオンラインで結んでの会見でした。

「和気あいあいとしゃべり続けながら帰還を楽しんだ。外がオレンジ色に染まっている様子、景色の変化がはっきり見られたのはよかった。着陸は“子ども用のプール”で滑って来るような感じ」

大気圏突入から着水までの様子を語る野口さん。新型宇宙船「クルードラゴン」のなかは、これまでのスペースシャトルやソユーズと違い、大変リラックスした雰囲気だったようです。そして着水の瞬間は、「水の惑星に包み込まれるという感じ」と表現しました。

一方、野口さんから“たすき”を受け取り、長期滞在中の星出彰彦さんは、ステーションの船長としての活躍が期待されています。これまで小欄でもお伝えした通りです。

地球帰還後、初めて日本メディア向けの記者会見に臨んだ野口聡一さん(5月27日撮影)

地球帰還後、初めて日本メディア向けの記者会見に臨んだ野口聡一さん(5月27日撮影)

ところで、宇宙開発の分野、最近は中国の動きが目立ちます。1つは無人探査機「天問1号」が火星の着陸に成功したこと。探査機の火星着陸は旧ソ連、アメリカに次いで3ヵ国目で、国営新華社通信は「中国の宇宙探査の道程の重要な一歩」としています。

一方、もう1つは大型ロケットの残骸が地球上に落下したこと。こちらはあまり歓迎するものではなく、物議を醸しました。

このロケットは「長征5号」と呼ばれ、4月29日に打ち上げられました。中国が独自に建設を進める宇宙ステーションの中核部分を軌道にのせるのに寄与したということです。しかし、残骸が大気圏で燃え尽きず、地球上に落下する恐れが懸念されていました。

結局、残骸は5月9日、モルディブ近くのインド洋に落下したとのこと。中国当局の発表では、大気圏再突入の際に大部分が燃え尽きたと説明しています。

中国の宇宙開発情勢に詳しい、元JAXA国際部参事の辻野照久さんに聞きました。今回なぜ残骸の落下が懸念されたのか……それは、ロケットの構造に起因します。

長征5号はロケット1段目とブースターで構成される、単段式のロケット。全長は54mですが、フェアリングと呼ばれるカバーの部分が20mほどと大きいため、分離後のロケットの残骸の全長は33mとなります。このような大きさのため、残骸が燃え尽きずに地球上に落下するのではないかと懸念されたわけです。

ちなみに、この場合、燃料はほとんど使い切るため、落下したのは外側の機体とタンクの金属部品だけとみられます。

月の本格的な利用 想像図(JAXA提供)

月の本格的な利用 想像図(JAXA提供)

さらに今回、やきもきさせられたのは、残骸の落下地点が二転三転したことです。当初はニュージーランド周辺、そしてインド南方、ポルトガル沖と予想地点を転々とし、結局、インド洋に落下したとされています。辻野さんによると、基本的に制御不能の大型衛星はどこに落ちるか全くわからず、こうした予想地点の変更は珍しくないということです。

欧米では推進装置を使うなどして、大きな残骸は無人の海に誘導するそうです。NASA=アメリカ航空宇宙局は「中国が宇宙ゴミに関し、責任を果たしていないのは明らかだ」と批判しました。打ち上げ後の処理について、辻野さんも「中国はあまり考えていないように思える。制御落下の機能を追加する余地はなかったのか」とその姿勢を疑問視しますが、「今後改良する可能性もある」と話します。

厳しい批判を受けながらも、慌ただしい動きを見せる中国の宇宙開発、その現状はどうなっているのでしょうか。

ロケットの打ち上げ回数を見てみます。日本で報じられるのは国内の打ち上げや、国際宇宙ステーションに向かう米ロの動きが中心ですが、実は至るところでロケットの打ち上げが行われています。なかでも中国は昨年39回(失敗4回を含む)を打ち上げ、回数としては世界一でした。ちなみにアメリカは37回で2位(失敗3回を含む)、ロシアは15回です。

ロシアはアメリカが新型宇宙船を開発したことで、宇宙ステーションへの輸送も減るとみられ、回数が減少することが予想されます。また、ニュージーランドは7回打ち上げていますが、これはアメリカの「ロケットラブ」という企業が打ち上げに関わっています。中国はこれを含めてアメリカの回数を44回とみなしており、自らを「世界一」とは謳っていないようです。

ちなみにアメリカの37回のうち、スペースXによるものが25回、3分の2以上を占めており、民間による宇宙飛行の時代に入って来ていると実感します。

JAXA 種子島宇宙センター造成現場/(C)KAJIMA

JAXA 種子島宇宙センター造成現場/(C)KAJIMA

こうしてみるとまさに、米中両国の角逐は続いているように見えますが、両者には意外や意外、共通点もあるようです。それは中国当局とスペースXについてです。片や「宇宙強国を目指す」という独裁国家、片やイーロン・マスク氏というカリスマ的な存在の下で、持てる力を発揮しています。

「スペースXは何か問題があれば、会議より先にモノをつくる。早く進めることで彼ら自身の健全性を保っているようなところがある。立ち直りの早さ、スピード感を持って改善して行くのはすごいと思う」

こう話していたのは宇宙飛行士の野口聡一さんですが、中国の決断、実行のスピードについては、ロケットの打ち上げペースを出すまでもなく目を見張るものがあります。

宇宙ゴミ対策にしても、一度必要と決断すれば(当然、我々は必要と考えますが)、これまでにないスピードで驚くような方法を編み出すかも知れません。むしろこうしたことができるかどうかが、中国が真の「宇宙強国」になれるかどうかのカギと言えます。

「批判はすれども、侮ることなかれ」……宇宙開発の分野でも、中国を見るスタンスはこのようにあるべきだと思います。

一方、日本は……最近興味深かったのは、JAXAが鹿島建設と共同で進めている遠隔操作研究です。JAXA種子島宇宙センター内の道路をつくる建設機械を、1000km離れた相模原キャンパスから遠隔で操作し、自動運転による高い精度の作業を確認しました。これは地上での自動制御技術に寄与することはもちろん、月や火星に有人拠点をつくる際、遠隔操作により、工事が無人で行えることにもつながります。

こうした地道で確実な技術の研鑽こそが日本の“お家芸”であり、宇宙開発でも存分に発揮できる分野ではないかと思います。(了)

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