アメリカの“プロの外交”の復活~米外交政策の大きな転換期になる「米露首脳会談」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月18日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。スイスで対面で行われた米露首脳会談について解説した。

アメリカの“プロの外交”の復活~米外交政策の大きな転換期になる「米露首脳会談」

バイデン米大統領(左)とロシアのプーチン大統領(アメリカ・ワシントン)=2021年3月17日 AFP=時事 写真提供:時事通信

米露首脳会談~サイバー攻撃やナワリヌイ氏の収監などでは隔たりも

アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領は6月16日、スイス・ジュネーブで初めて対面での首脳会談を行い、核戦争のリスクの低減や核軍縮に向けた対話の枠組みをつくることで合意した。一方で、アメリカがロシアの責任を主張するサイバー攻撃をめぐっては、バイデン大統領が攻撃を受けた場合は相応の措置を取ると強く警告したが、プーチン大統領は「ロシアも被害を受けている」として議論は平行線をたどったということである。

アメリカのプロの外交の復活

飯田)共同での会見はなく、各々が会見をするという形になりました。どうご覧になりましたか?

宮家)プロのビジネスが復活したということです。バイデンさんが面白いことを言っていました。記者会見で「あなたはプーチンさんを信用するのですか?」と聞かれたとき、バイデンさんは「信用? 違うよ、俺たちがやっているのはビジネスだ。信用するもしないもないのだ」と。そしてプーチンさんに「我々アメリカはロシアに反対しようと思ってやっているのではなく、アメリカ国民のためにやっているのだ」と言ったということです。

飯田)ロシアに反対しようとしてやっているのではなく。

宮家)アメリカは4年間、トランプさんの下で、「何が起こるかわからない」アマチュア外交をやっていて、国力に見合わない下手な外交をやった結果、アメリカの国益は相当害されたと思うのですが、バイデンさんはさすがですよね。今回はプーチンさんに対して周到な準備をして、ある意味で封じ込めようとした。もちろん完全には封じ込められず、言うことは聞かなかったのだけれども、まずプーチンさんには遅刻ができないようにした。

飯田)そうですね。

宮家)そしていい意味で脅しをやった。「サイバー攻撃をやってみろ、やったらやり返すぞ」ということをバイデンさんは平気で言うわけですよ。そういうことをトランプさんは絶対に言えません。報じられている通り、米露間で意見は違って、合意があったわけではないけれども、間違いなくプーチンさんはアメリカからのメッセージを受け止めたと思います。このあとどうなるかはわかりませんが、「これはプロの外交、ビジネスだな」と思いました。外交は信頼関係でやっているわけではないですから。

この米露首脳会談が9・11以来のアメリカの外交政策の大きな転換期に

宮家)プーチンさんが考えるようなバラ色の世界というものはなく、ロシアの力は衰えていて、中国はどんどん伸びています。NATO方面でもロシアが気がかりなことはたくさんあるのです。NATOがどんどん拡大しているわけだから。「よく考えてごらんなさい」とバイデンさんはプーチンさんに言って、プーチンさんもある程度わかっているのだろうと思います。

飯田)プーチンさんも。

宮家)英語の新聞に向けて、コラムを18日朝に書き終えたところなのですけれども、簡単に言うと過去4年間ではなくて、もしかしたら2001年以来、9・11以来のアメリカの外交政策の大きな転換が実際に起きているのではないかと思うのです。

飯田)2001年ということは、テロとの戦い。

宮家)テロとは中東で20~30年ずっと戦って来たのだけれど、その間に中国が台頭してしまったのだから、もう中東でそんなことをやっている暇はないでしょうということです。ロシアが問題だと言うけれど、中国の方が大きくなってしまった。ロシアは所詮人口が日本よりも少し上で、GDPが韓国よりも少し上である程度の国です。核兵器を持っているし、プーチンさんのような怖い人がいるから大きな顔をしているかも知れないけれども、実際はそれほどでもない。それよりもアメリカにとって怖いのは中国なのです。

飯田)そうですね。

宮家)その部分で、ようやくロシアとアメリカが、その話をし始めることができるかどうか、というところまで来たのです。トランプさんの時代は全然できていなかったと思うし、その前は中東でのテロ対策でそれどころではなかったわけです。あと10年~20年して振り返ってみたら、このジュネーブでの米露首脳会談が転換期になるのではないかと思います。

ロシアが中国の方に行かないようにする~そのための実践が始まっている

飯田)一部アメリカのメディアで、ホワイトハウスのなかで「ロシアとどう向き合うか」という激論が交わされたという報道がありました。

宮家)それは当然です。

飯田)ブリンケンさんはどちらかと言うと、制裁をしてロシアに対して強く出るべきなのだと。一方で大統領補佐官のサリバンさんなどは、対中ということを考えると、あまり強く出過ぎるのもよくないと。その辺はある程度、選択肢のようなものはあったのですか?

宮家)どちらも一理あるとは思いますけれども、いま大事なことは、中国が台頭しているなかで、ロシアがアメリカとの関係を悪くさせないことです。つまりいまの状態で現状維持をして、ロシアが中国の方に行かないようにしてくれればいいわけです。それでアメリカとしては十分戦略的な目的を達成できると思います。その準備が始まった、もしくは実践が始まっている。それに対して今度はロシア側がどういう球を返すのか、関心が高まるところです。例えば人質の交換など、いろいろな形で水面下で球を投げてくると思いますから、注目して見るべきだと思います。

その先にある習近平氏との米中首脳会談

飯田)そしてその先、バイデンさんがどこかのタイミングで習近平氏と会うことはありますか?

宮家)そうだと思います。ロシアと会うときも、日米2プラス2から始まって、首脳会談があって、G7があって、NATO首脳会談があって、それでロシアに行っているわけです。ロシアとある程度、話が進むようになれば、そこが中国と話すときです。そのように布石を打っているのだと思います。中国を何とか詰もうとしているのでしょう。なかなか詰めませんけれど。

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