かしわめしの老舗駅弁店が「立ち売り」を守り続ける理由~折尾駅弁・東筑軒

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

100周年を迎えた鹿児島本線・折尾駅(福岡県)の名物駅弁「かしわめし」。製造・販売する東筑軒は2019年、新たに遠賀工場を稼働させました。コロナ禍で厳しいとされる駅弁業界にあって、設備投資を行った背景には何があるのか? そして、この状況をどのように乗り越えようとしているのか? 絶大な人気を誇る「かしわめし」「立ち売り」の今後の展望など、トップにたっぷりと語っていただきました。

BEC819系電車「DENCHA」・普通列車、筑豊本線・藤ノ木~若松間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第28弾・東筑軒編(第6回/全6回)

洞海湾を望みながら走る筑豊本線のBEC819系電車。非電化区間もバッテリーで走行できることから「DENCHA(デンチャ)」の愛称があります。福岡県北九州市の若松と筑紫野市の原田(はるだ)を結ぶ筑豊本線。筑豊炭田が華やかだったころは、遠賀川の水運に代わって、石炭輸送も盛んで、多くの人やものが複線の線路を行き来していたと言います。いまは2両編成の普通列車が、日中は約30分間隔で運行されています。

堀川

折尾の駅前を流れる「堀川」。この川は江戸時代、福岡藩により遠賀川の治水対策の一環として、洞海湾まで人工的に掘り進められた約12kmの運河です。折尾は、この堀川とともに発展してきました。いまから130年前の明治24(1891)年、筑豊興業鉄道(いまの筑豊本線)の開業で人やものの流れが水運から鉄道に移り、折尾駅は、九州鉄道(いまの鹿児島本線)との結節点として大いににぎわうこととなったわけです。

東筑軒代表取締役・佐竹真人社長

その折尾駅に大正10(1921)年、東筑軒の前身の1つ「筑紫軒」によって、名物駅弁「かしわめし」が誕生してから、2021年7月で100年を迎えました。駅前の本社売店にも「創業100周年」の装飾が施され、個数限定で復刻掛け紙の「かしわめし」とともに、記念の汽車土瓶も販売されました。そんな東筑軒の舵取りを担うのは、4代目の佐竹真人社長(64)。インタビューの最終回は、これからの駅弁について、アツく語っていただきました。

東筑軒遠賀工場

●働き方改革で、新たに遠賀工場を建設!

―JRになり、平成・令和と、駅弁の販売事情は大きく変わりましたね?

佐竹:10年ほど前、社長に就任したころは、駅弁ブームで百貨店などの催事は大変賑わったのですが、近年はマンネリ化が否めなくなっています。加えて、旅のお供としての駅弁だったのが、とくに九州では新幹線の開業もあって高速化の影響を受け「車内で駅弁を食べる時間がない」というのが実情です。このため、駅弁のラインナップも「かしわめし」をメインとした売れ筋に絞り込むことで、「選択と集中」を行っています。

―そのなかで、令和元(2019)年には新たに遠賀工場を稼働させました。このタイミングで、新工場を作ったのはなぜですか?

佐竹:「働き方改革」の影響です。これまで東筑軒は従業員の皆さんに夜中に出社してもらって、炊飯や調理をし、当日のうちに折に詰めて出荷、次の日の仕込みをするという勤務でした。新工場には大型のフリーザーを導入し、一部のおかずを冷凍化することで、夜間勤務を極力減らしました。また、自動炊飯システムを導入し、重い鍋の持ち運びなど、従業員の体力的負担を軽減しましたが、コロナ禍でフル稼働とはいかないのが実情です。

かしわめしの盛り付け風景(東筑軒本社)

●百貨店が“密”を警戒するほどの絶大な人気を誇る、折尾の「かしわめし」!

―コロナ禍の1年半あまり、どのようなご苦労がありましたか?

佐竹:いちばん苦しかった2020年5月は、売り上げが前年比3割ちょっとまで落ち込みました。その後も、前年比5割に届くか届かないかの売り上げが続いています。駅弁はもちろんですが、仕出しは、運動会や敬老会、企業のレクレーションといった際に愛用いただいていましたが、軒並み減ってしまいました。また、駅弁大会への出品も、航空便の減便でコンテナが取れず、出品できなかったケースもありました。

―この苦境をどのように乗り切ろうとしていますか?

佐竹:製品づくりの効率化で人件費を抑制するしか方法がない状況です。いまは、地元の大型ショッピングモールなどの量販店への出品も行い、売り上げの減少をカバーしています。九州のある百貨店系のバイヤーさんは、以前、東筑軒の「かしわめし」を折込チラシに載せて集客を図ったら、大変な“密”が生まれてしまったと言うのです。このため、「かしわめし」を置きたいのに、なかなか上司のGOサインが出ないと話されていました。

東筑軒100周年記念丼

●安全・安心を第一に、「駅弁の原点」を守りたい!

―次の100年へ向けて、佐竹社長が開発したい駅弁、やってみたい分野はありますか?

佐竹:まずは、新工場で可能になった「かしわめし」の冷凍商品化を実現したいと考えています。冷凍化すると、どうしても味や美味しさが変わってしまうんです。今後も研究を続けまして、クオリティを保った形で冷凍化を実現できたらと考えています。合わせて強化したいのはインターネットによる通信販売です。今回の創業100周年に当たっては、自慢のうどん・そばと100周年記念の丼を販売いたしました。

―改めて、「東筑軒」が駅弁作りで最も大切にしていることは、何でしょうか?

佐竹:安全・衛生です。これがいちばん大事です。次が伝統の味の維持です。東筑軒は「かしわめし」の味を高く評価していただいています。この味を落とさずに、次の世代へ守っていくことが大事です。合わせて「立ち売り」は、採算は別にしても、駅弁文化を守るために、できる限り続けていきたいです。立ち売りは、「駅弁の原点」だと思うんです。

BEC819系電車・普通列車、筑豊本線・中間~筑前垣生間

●遠賀川の流れを思い浮かべて、経木の折箱で「かしわめし」を!

―佐竹社長は、これからニッポンの駅弁をどんな形で盛り上げていきたいですか?

佐竹:立ち売りもそうですが、「昔ながらの駅弁」をできるだけ継続していきたいと考えています。その1つが経木(きょうぎ)の折箱に掛け紙という駅弁のスタイルです。正直、コストはかかっています。いまでは折箱に使う木材そのものも、国産では賄うことができず、インドネシアなどからの輸入材に頼っています。じつはこの折箱も、東筑軒の社屋のなかで組み立てているんです。

―佐竹社長お薦めの、東筑軒の駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓は?

佐竹:この地域の母なる川・遠賀川(おんががわ)の鉄橋を渡りながらいただくのが美味しいと思います。できれば、筑豊本線(福北ゆたか線)のほうが、のどかな雰囲気を楽しめるかも知れません。いま日中の列車はほとんど「DENCHA」になっていますが、比較的空いている時間帯やクロスシートの列車が来る時間帯でしたら、ぜひチャレンジしていただけたら。折尾は、この遠賀川から引いた「堀川」とともに発展してきたまちですので。

新・驛物語

平成21(2009)年に撮影された、かつての折尾駅舎の写真が使われている駅弁は、「新・驛物語」(1080円)です。九州地区で時折開催されている「九州駅弁グランプリ」に向けて開発された駅弁で、現在は幕の内駅弁の1つとして位置付けられ、2日前までの予約制で販売されています。まるで迷路のようだった折尾駅ですが、いまは改築が進み、レトロな雰囲気を活かしながら、いまどきの駅へと生まれ変わっています。

【おしながき】
・かしわめし 鶏肉 錦糸玉子 刻み海苔 紅生姜
・白飯
・焼き魚
・蒲鉾
・玉子焼き
・鶏肉の唐揚げ
・白身フライ
・コロッケ
・牛肉しぐれ煮 きぬさや
・煮物(しいたけ、かぼちゃ、里芋、花にんじん、れんこん)
・うぐいす豆
・しそ昆布
・桜大根

新・驛物語

駅舎のふたを開けると、かしわ・錦糸卵・刻み海苔の“三色”のかしわめしに、焼き魚・蒲鉾・玉子焼きという、幕の内“三種の神器”をしっかり押さえた駅弁が登場しました。折尾の新しい駅舎が出来上がり、新しい駅の物語が始まったいまこそ、いつもの「かしわめし」よりチョット奮発して、懐かしの駅舎に思いを馳せながら、たっぷりのおかずと一緒に味わえば、それは感慨もひとしおというものでしょう。

東筑軒・小南英之さん

100年の節目に東筑軒・佐竹社長にお話を伺って、いちばん嬉しかったことは、「立ち売りは駅弁の原点なので、できる限り守りたい」と力強く語って下さったことです。佐竹社長曰く、担当の小南さんがホームに立っているだけで、全国から多くの方がいらしてくれるとのこと。鉄道で最優先される「安全」への取り組みが厳しくなるなか、100年にわたって続けられる駅弁の立ち売りは、いまや“無形文化財”と言っても過言ではない存在です。

東筑軒のかしわうどん

「文化を守れ」と言うのは簡単ですが、文化を守るためには経済的な裏付けも必要です。今回、折尾をはじめ東筑軒のお店を訪ねて、お客様とのやり取りを見ながら感じたのは、地元の方との間に味への確かな信頼関係ができていること。この関係があるから「立ち売り」の文化を守ることができている……。折尾駅の立ち売りは、地元の皆さんの「かしわめし」や「かしわうどん」への温かい愛情によって支えられているのかも知れません。

BEC819系電車・普通列車、筑豊本線・筑前垣生~中間間

かつて、蒸気機関車が率いる石炭列車がたくさん渡っていた遠賀川を、バッテリーで走ることも可能な2両編成の電車が軽快に渡って行きます。明治の最先端だった筑豊本線は、いまも最新鋭の列車が走ります。その列車が停まる駅でしっかりと守られている、昔ながらの駅弁の伝統。駅弁に興味がある方もない方も、まずは自分の足で折尾駅を訪ねて、名物の「かしわめし」を味わってみてはいかがでしょうか。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/


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