「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
関門海峡と洞海湾に面した福岡県北九州市。明治以降、筑豊炭田の豊富な石炭と大陸からの天然資源によって、鉄道とともに日本の重工業をリードしてきた地域です。そんな北九州市にある、鹿児島本線と筑豊本線が交差する折尾駅の名物駅弁「かしわめし」が2021年7月で発売100周年を迎えました。一体、「かしわめし」はどのようにして作られているのか、その厨房を見せていただきました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第28弾・東筑軒編(第1回/全6回)
北九州のシンボルの1つ「若戸大橋」をバックに、大分行の特急「ソニック」が駆け抜けて行きます。昭和38(1963)年に門司、小倉、若松、八幡、戸畑の5市の合併で誕生した北九州市。古くから交通の要衝として、明治以降は日本の重工業を牽引した地域として栄えたこともあり、市内にはいまも駅弁業者2社が健在です。今回は八幡西区の折尾を拠点に駅弁を製造・販売する「株式会社東筑軒」に注目してまいります。
東筑軒は、今年(2021年)7月1日、前身となった会社の1つ「筑紫軒(ちくしけん)」が創業して100周年を迎えました。この筑紫軒こそが、いまに続く折尾の名物駅弁「かしわめし」を発売した会社。現在、「かしわめし」をはじめ、食材の調理などは、一昨年(2019年)に稼働を始めた遠賀(おんが)工場(福岡県遠賀町)で行われています。まずは鹿児島本線・遠賀川駅からタクシーで10分ほどの新しい工場にお邪魔いたしました。
遠賀工場で見せていただいたのは、もちろん名物駅弁「かしわめし」の製造工程。7月の1ヵ月間、「かしわめし(小)」(700円)と「かしわめし(大)」(800円)は、創業100周年を記念した復刻掛け紙で販売されました。
こちらの掛け紙は、大正の終わりから昭和の初めごろにかけて使われていたものだそう。じつは東筑軒にこちらの掛け紙は残されておらず、掛け紙収集家の方が寄贈して下さったものをもとに復刻させたと言います。
調理場に伺いますと、さっそく鶏肉のいい香り! 大きな鍋でむね・もも・正肉の3種類が煮込まれていました。決められた時間で揚げられた鶏肉は、1日じっくりと寝かされてスライスされ、かしわめしの上に載っているかしわへと姿を変えていきます。
一方、煮汁には、新たに鶏肉のガラと脂が加えられ、さらに時間をかけて煮込まれていきます。この煮汁が、かしわめしを炊き上げる際のスープの一部になっていきます。
鶏肉の煮汁に、創業者の奥様によって開発されて以来、創業家の女性により一子相伝の味として受け継がれている「秘伝の調味料」とオリジナルの醤油、水が加えられて、かしわめしを炊き上げるためのスープが完成!
これを白米が入った丸釜に一気に注ぎ込み、約1時間をかけてご飯が炊きあがっていきます。東筑軒では、5升炊きの釜で4升分を炊くのがルーティンなのだそう。
約1時間後、炊飯機械から、いっぱいの湯気とともにいい匂いが立ち込め、炊きあがったかしわめしが盛り出されていきます。ほんの少し、おすそ分けして貰ったご飯をいただくと、じつにまろやかな味わい!
この炊き立てのご飯はスグに冷やされ、保存が可能となります。一方、そぼろに近い状態までスライスされた鶏肉は、醤油などで味付けされ、コチラも大鍋で煮汁がなくなるまで炊き上げられ、盛り出されていきます。
遠賀工場からクルマで約15分、JR折尾駅前にある東筑軒の本社工場へ移動しました。現在、本社工場では「かしわめし」をはじめとした弁当の盛り付け作業が行われています。本社の4階で組み立てられた経木の折箱に、遠賀工場から冷やされて運ばれてきた炊き込みご飯、炊き上げられたかしわ肉、刻み海苔、錦糸玉子が、手際よく盛り付けられていきます。手作業で掛け紙が掛けられ、紐が結ばれると、駅弁「かしわめし」の完成です!
【おしながき】
・かしわめし 鶏肉 錦糸玉子 刻み海苔
・しそ昆布
・うぐいす豆
・奈良漬け
・紅生姜
かしわの茶色、錦糸玉子の黄色、刻み海苔の黒と、彩りのいい3色が食欲をそそる東筑軒のかしわめし。経木の折を開けた瞬間から、そこには鶏肉と経木の香りが入り混じった「これぞ駅弁!」という香りが広がります。この経木の折が炊き込みご飯の水分を程よく吸収し、心地よい食感を演出。折箱にべっとりと付いたご飯1粒1粒に愛おしさを感じるくらい、素晴らしい味わいを作り上げていくのです。
東筑軒の本社があるJR折尾駅は、鹿児島本線と筑豊本線(福北ゆたか線・若松線)の乗換駅。鹿児島本線の列車は、博多~大分間で運行されている「ソニック」などの特急列車や福岡都市圏の快速列車など、多くの列車が停まります。この折尾駅のホームには、日本の駅弁文化を語る上で絶対にスルーすることができない、希少な販売形態が残されています。次回は、折尾駅のホームにお邪魔することにいたしましょう。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/