ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月24日放送)に東京2020パラリンピック競技大会・開閉会式のステージアドバイザー、栗栖良依氏が出演。ステージアドバイザーとして心がけたことについて訊いた。
障害のある人もない人も「フラットな関係性」を築く~心理的に安全な環境をつくることを心掛けた開会式、閉会式
SDGsが採択された9月25日(Global Goals Day)が含まれる約1週間を国連は、SDGs週間「Global Week」と定めている。そこで今回の番組では「国内および国家間の格差を是正する」をテーマに、東京2020パラリンピック競技大会の開閉会式でステージアドバイザーを務めた栗栖良依氏に訊く。
新行市佳アナウンサー)パラリンピック、本当にお疲れ様でした。
栗栖)ありがとうございます。
新行)ステージアドバイザーとして携わるにあたり心掛けていたこと、また、どういうことが求められていましたか?
栗栖)障害のある人もない人も、みんなそれぞれに自分の特技や個性があると思うのですけれども、それをしっかり発揮できる環境をつくりたいと考えていました。お互いの違いを認め合って、誰が上とか下とか、支援するとかされるではなくて、「フラットな関係性」を築く。「心理的に安全な環境をつくりたい」と思いながらやっていました。
新行)まさにあの空間というのは、すごくアットホームな雰囲気も感じられたのですけれども。
栗栖)今回は「多様性と調和」がテーマの大会でした。私が考える多様性と調和とは、人と人の関係性だと思うのです。それはプロセスのなかでしか築き上げることのできないものですし、実際に現場自体が多様性に溢れていなくてはいけない。きちんと調和が取れた関係性になることが大事だと思ったので、そこを意識していました。
新行)調和の取れた関係性。
栗栖)本番直前のドレスリハーサルや競技場に入ってからというところが、半年近くかけてみんなでつくりあげて来た関係性が見ていてわかる状況で、「早くテレビを通して皆さんに見せたい」という気持ちでいっぱいでした。
重要な存在であるアカンパニストとアクセスコーディネーター
新行)例えば開会式を見ていると、和合さんが車いすに乗っているときにさりげなくサポートする方や、一緒にパフォーマンスする方々の姿もありましたけれども、障害のある方と一緒にパフォーマンスをする上での工夫はどんなことがありましたか?
栗栖)NPO法人スローレーベルの方で、アカンパニストやアクセスコーディネーターというスペシャリストを、この大会に向けて生み出して来ました。アクセスコーディネーターとアカンパニストというのが、まさにフラットな関係性を築けるような、心理的に安全な環境、そして身体的にも安全な環境をつくり出すスペシャリストだと思うのです。
新行)安全な環境をつくり出すスペシャリスト。
栗栖)アクセスコーディネーターは外から見守っていて、例えば体温調節ができない人がいて、「少し体温が上がり過ぎているな」と思ったらアイスノンを持って行って冷やすなど、外から気を配るということをしているスタッフです。
新行)アクセスコーディネーターの方は。
栗栖)アカンパニストは伴奏者として実際にショーのなかに入り、見えないところで事故が起こらないようにいろいろなケアをするなど、アカンパニスト自体が障害のある人とない人の間に通訳として入りながら、「このように聞いたらいい」とか「こう伝えたらいい」と実践する。それを見ながら、みんながお互いに学んで関係性の築き方を広げて行く。そういう存在は大きかったと思います。
障害のあるなしに関わらず、一緒に1つの舞台をつくり上げて行くには「体験することが大切」
新行)障害のあるなしに関わらず、一緒に1つの舞台をつくり上げて行く、その可能性をどういうところに感じていますか?
栗栖)「実際にやってみなければわからない」というところが大きいと思うのです。共生社会やダイバーシティについて、レクチャーを聞く機会、人に教わる機会が増えていると思います。でも、見たり聞いたりするだけでは限界があって、実際に体験することが大切だと思います。今回、スタッフがパラリンピックの開会式だけで1200人、キャストが600~700人でした。それだけの数の人たちが成功体験を経験できたことは、とても大きいと思います。その人たちがそこで感じたものが、自分の世界を広げて行ってくれるだろうと思います。
サーカスのエクササイズを使って、人との関係性を変えて行く「ソーシャルサーカス」
新行)栗栖さんがいま具体的に予定していることはありますか?
栗栖)私たちは2019年から「ソーシャルサーカス」と呼ばれる、「サーカスのエクササイズを使って、人との関係性を変えて行く」というプログラムをつくっています。それをいろいろな場所で、いろいろな人を対象にやって行こうとしています。また、そこで生み出された人を、エンターテインメントの世界につないで行きたいと思っています。
ここからがスタート
新行)開会式をきっかけに興味を持っている方もいらっしゃると思いますから、その輪が広がって行くといいですね。
栗栖)一瞬の熱で冷めないで欲しいです。
新行)ここからがある種のスタートですものね。
栗栖)そうなのですよ。やっとスタート地点に立てたという状況だと思うので、ここからだという意識をみんなで持って行きたいと思います。
パラリンピック開閉式を観ていない方は「見逃し」配信で
新行)番組をお聴きの方に伝えたいメッセージがありましたら、お伝えいただけますでしょうか。
栗栖)パラリンピックの開会式を見逃してしまったという方もいらっしゃいます。まだNHKの見逃し配信がネットでやられているので、観ていない方は観ていただきたいと思います(編集部注:2021年9月24日時点の情報)。「こんなことができるのだ」と感じていただけたら、それを皆さんの日常のなかに置き換えていただきたい。「WE HAVE WINGS」というテーマ通りに1人ひとり、障害のあるなしに関係なく、必ず皆さんの個性や魅力があるはずです。それを活用し、大きく羽ばたいて、社会をみんなでいい方向に変えて行けるようになるといいなと思います。「皆さん一緒に頑張りましょう」と言いたいです。
コロナ禍の厳しい状況のなかで構築したお互いの信頼関係
新行)「WE HAVE WINGS」、開会式ではパラ・エアポートを舞台に、飛ぶことを諦めている片翼の小さな飛行機が主人公でしたけれども、1つの物語がどんどん紡がれて行く様子に本当にドキドキしましたよね。
飯田)そこにパフォーマンスで、アカンパニストの方やアクセスコーディネーターの方など、裏方さんや裏と表の中間をつなぐ人たちが、たくさんいて支えていた。障害の有無は関係なく、「1つの舞台をつくる」というところにみんなが集中したということですよね。
新行)特に新型コロナウイルスの影響もあって、練習しようとしていた場所が緊急事態宣言で使えなくなるということもあったそうです。練習が終わったあとにご飯に行くことも難しい状況だったけれども、限られた時間で、お互いに信頼関係を構築して行った。それは、お互いにお互いのことを考えながら、というのもありますし、飯田さんが言っていたようにアクセスコーディネーターの方やアカンパニストの方が間に入って、一緒にみんなで考えてつくられた舞台だったのだなということを感じました。
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