「健康保険証で利用」ではマイナンバーは普及しない「これだけの理由」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月6日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。厚生労働省がマイナンバーカードの健康保険証としての利用を全国で本格運用するというニュースについて解説した。

「健康保険証で利用」ではマイナンバーは普及しない「これだけの理由」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

マイナンバーカード、健康保険証として利用

マイナンバーカードの健康保険証としての利用について、厚生労働省はトラブルのため先送りしていた全国での本格運用を10月20日から始めることになった。マイナンバーカードの健康保険証としての利用は、2021年3月に一部の医療機関で先行して運用が始まったが、医療機関で患者の情報が確認できないなどのトラブルが相次ぎ、当初予定されていた3月末からの本格運用は先送りされていた。

病院は読み取りリーダーを新たに導入しなくてはならない

飯田)マイナンバーカードの普及のキーとして、健康保険証や運転免許証との併用などが言われますけれど。

佐々木)将来的にはいいと思うのですが、入り口としては「筋悪」だと思います。

飯田)筋悪ですか?

佐々木)まず、病院側としてはあまりメリットがないですよね。新たに読み取るための機械を導入しなければならないですし。

読み取りリーダーがある病院等は5.6% ~ほとんど使えず、病院に行く際、保険証と両方持って行かなくてはならない

飯田)カードリーダーの普及は5.6%に留まると。

佐々木)5.6%ですから、20病院に1つくらいしかないわけではないですか。

飯田)割合的には、そうなりますね。

佐々木)ほとんど使えないわけですよ。そうすると利用者は、病院に行くときにマイナンバーカードと健康保険証の両方を持って行かなければならない。それでは意味がないですよね。「それなら健康保険証だけでいい」という話になる。

病院側にも利用者にもメリットがない

佐々木)病院側にとってもメリットがないし、普及しなければ利用者側にとってもメリットがない。おまけにマイナンバーカードは、ナンバーが書いてあるところを隠さなければならない。私は渋谷区で取得しましたが、透明な袋がついていて、袋には数字のところが見えないように覆いがしてある。そんな、「数字を人に見せてはいけません」というものを、病院に行って見せていいのかと。そういう心理的抑制もあります。

飯田)そうですね。

佐々木)だから、健康保険証として使えるというやり方を、最初の入り口にするのはよくないのではないかと思います。

「健康保険証で利用」ではマイナンバーは普及しない「これだけの理由」

ワクチンの高齢者優先接種に向け、愛知県豊川市が発送準備を進めている接種券やチラシが入った封筒=2021年3月23日 写真提供:共同通信社

マイナンバーを国が持っていれば、大規模接種もスムーズに行えた

佐々木)一方、コロナ禍で「給付金を全国一律に10万円ずつ配ります」というときに、「マイナンバーカードがあれば、自治体を経由しないで国から直接配布できたのに」という話になりましたよね。ワクチン接種も同様に、自治体に任せないといけない。自衛隊の大規模接種会場を国が大手町などに開設しましたが、住民の情報を自衛隊は一切持っていないので、予約はできるけれど番号などは打ち込めないと。

飯田)そうでしたね。

佐々木)打ち込めるのだけれど、それが照合されていないという問題があったではないですか。

飯田)正しいかどうか照合されないから、偽の番号でも予約できてしまうという。

佐々木)それで大騒ぎになり、メディアが叩いていましたが、あれがなぜ起きたかと言うと、住民の情報を自衛隊が取得できないから、という当たり前の話です。

飯田)そうですね。

佐々木)マイナンバーを国が持っていて、マイナンバーごとに接種するという形でやれば、別に自衛隊でもどこでもできてしまうし、自治体に任せる必要もなかったわけです。

給付金の際、金融資産と毎年の所得が紐づけされているマイナンバーがあれば、不公平なく給付金を支給できる

佐々木)あとは金融資産の問題です。

飯田)金融資産の問題。

佐々木)70年代~80年代から、国民識別番号を導入する話は出ているのだけれど、最初の目的は「給料とは別に金融資産を把握しなければならない」ということでした。例えばお金を給付するときに、「10万円以上配ります。お金持ちの人には10万円しか配らないけれど、一定資産しかない人、給料が少ない人には20万円を配ります」という方法で支給するとします。そのときに、いまの状況では、収入はある程度捕捉できるのだけれど、金融資産は捕捉できないですよね。

飯田)「年金でいくら」というのは月々あるけれども、それとは別の貯蓄などに関してですね。

佐々木)サラリーマンの現役世代で、金融資産はゼロだけれども、年収が100万円の人には給付金を配らず、年金生活をしているけれど、金融資産を1億円持っている人には給付金が配られるという、バランスの悪いことが起きてしまうではないですか。

飯田)バランスが悪い。

佐々木)ここで国民IDを導入すれば、金融資産と毎年の所得が紐づけされるから、不公平がなくなるというメリットがあるのです。これは80年代からずっと言われているのだけれども。

飯田)言われています。

佐々木)「そんなことをしたら、国に自分の貯金が全部ばれてしまう」と怒る人がたくさんいて、全部潰されてしまった。

みんながメリットを感じられるようなものを入り口にするべき

佐々木)ようやくマイナンバーカードができたけれど、金融資産の捕捉や給付金をくまなく配れる、またはワクチン接種ができるという、みんながメリットを感じられるようなものを入り口にしない限り、おそらく普及しないと思います。

飯田)みんながメリットを感じなければ。

佐々木)健康保険証でしょう。将来的には運転免許証も一緒にして、できればアプリ化をして欲しいとは思います。でも、「そこを入り口にしても、誰も利便性を感じない」という問題があるのではないでしょうか。

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