気持ちは言葉に表れる……あなたは大丈夫?

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、旅先でのやりとりについて---

ニッポン放送「メディアリテラシー」

ここはおいしくない……

緊急事態宣言が明けて、母と大学生の姪と私は、女3代で京都に出かけました。青森、大阪、東京と3方向から京都に集まったのです。初日の夜は食事を奮発し、有名懐石料理店を予約していました。

「すみません、○○旅館までお願いします」

薄暗くなりつつあるなか、足が悪い母を連れまわすのは気が引けたので、私たちは京都駅からタクシーに乗りました。私は助手席です。

「運転手さん、八坂にある○○旅館にお願いします」と伝えたところ、「え? 何旅館?」と聞き返されました。「八坂の○○旅館です」と言うと、「あのさ、京都は旅館がいっぱいあるわけよ。住所を教えてくれる?」との返答。

「あ、すみません。懐石料理がおいしいところで、旅館なので宿泊もできるんですが」

「だからさ、いっぱいあるのよ。泊まるところ、どこ?」

「八坂神社に隣接しているところで、住所は……」と伝えました。メインストリートを走ると、バスや乗用車が行きかい、信号にもかかりやすくなります。タクシーは何度もブレーキを踏んでいました。車に酔いやすい私は、すぐに気持ちが悪くなってしまいました。

「おいしいって言うけどさ、知らんのよ、我々は」

顔が青ざめ始めた私に、運転手さんは唐突に言葉を発しました。「無言なのがまずかったかな」と、気持ち悪さを我慢しながら、「そうですか。京都はおいしいところが多いですものね。観光客は増えて来ていますか?」と尋ねました。すると、「さあ、どうかね。いつのころと比べるかにもよるけどな」とぶっきらぼうです。

「紅葉には少し早いでしょうか」と質問すると、「まだまだ全然早いよ、何でいま来るかね……」という返事。その間にもブレーキをたくさん踏んでいます。気持ちの悪さが増して来た私は、大きく深呼吸をしました。

すると携帯を取り出し、ネットで経路検索をしてくれていた姪が、「もとこおばちゃん、だいたいわかると思うよ」と信号の先を指さし、「ほら、八坂神社が見える」と言いました。

私は「それなら、右に曲がったところで止めてください。止められそうな場所で構いません」とお願いしました。すると、運転手さんはこう言ったのです。

「ここな、あまりおいしくないで」

筆者撮影

相手の言葉を否定しない

私たちは旅行者で、これから楽しみの1つである夕食に行こうと思っています。そういう人を前に、「ここはおいしくない」と言うのはどうなのでしょうか。コミュニケーションは双方向で成り立つものです。常に相手の立場を考えて言葉を発するのが、よい関係性を保つポイントです。

タクシーのなかでのやりとりを思い返してみましょう。「知らない」「いや、全然」「おいしくない」と、否定語のオンパレードでした。よりよいコミュニケーションは、相手の言葉や気持ちを否定しないことです。自分を否定されると普通は気分を害します。そのことが心理的に作用し、次の言葉が敵対するのはよくあることです。

会議などのビジネスシーンでも、相手の意見を頭から拒絶すると険悪な雰囲気になります。それを防ぐために、そして建設的に議論を進めるためには、相手の意見を一度受け止める必要があります。

「そういう見方もある」「なるほど、一理ある」と相手を尊重した上で、自分の意見を言うことが肝要です。そこで「そうではない、その考え方はおかしい」と言う必要はないのです。

筆者撮影

否定表現に反撃する

翌日、私たちは東山の高台寺へ向かいました。高台寺は豊臣秀吉の奥方、北政所=ねねが晩年に移り住んだお寺です。

国の重要文化財に指定された建築物や、桃山文化を偲ばせる寺宝が数多くあります。私たちはここで、またしても“変なタクシー”に乗ってしまったのです。

「高台寺までお願いします」と助手席の私は言いました。すると、「はあ? 寺が好きだね。何でみんな寺に行きたがるんかな」と返されます。「歴史的な人物の日常に触れたいと思いまして」と、戦国時代に興味のある母が言えば、「はぁ、得にもならんとちがうかな」という返答。

出ました……またも否定的な表現です。「このままでは嫌な気持ちになるだけだ」と思った私は、反撃に出ました。

「運転手さん、私たちはキリスト教なのですよ。だからお寺に興味があるんです。教会と違って、仏教のお寺はとても個性的ですね」

確かに母はクリスチャンです。教会にも通っています。ときどき私も車で母を送迎するため、教会へ出入りしていたことがあるので、「私たち」と表現してみました。

「運転手さん、小学校の音楽の時間で讃美歌に触れたことはありませんか? 有名な曲がいくつかあるので知っていると思いますよ。最近は信者が少なくなりましてね。コロナ禍で歌も歌えず、残念に思っているのですよ」

さらに私は、怒涛のように言葉を並べました。布教していると思われたのかも知れません。すると「そんなもんかね……」と言ったきり、運転手さんは黙ってしまいました。後部座席で母と姪が笑いをこらえている気配がしていました。

筆者撮影

気持ちに寄り添い会話する

インタビューのコツの1つとして、「如何に気持ちよく話をしてもらうか」という技術があります。よい質問を投げかけることも大事ですが、相手が気を悪くしたら何も話してもらえません。一方、気持ちがよければ話は弾むものです。

その心理を利用して、褒めたり、感嘆したり、話しやすいようなあいづちをうち、アクティブに反応します。これだけで話はどんどん膨らんで行きます。逆に話を止めたいなら、相手の興味がなさそうな話を間髪入れずに繰り出すこと。今回はこれが成功しました。

コロナ禍でタクシーの運転手さんたちは、お客さんが来ない、苦しい日々が続いた辛い状況だったのかも知れません。そこへ能天気な旅人たちがやって来てワイワイ、ガヤガヤというのは、嫌な気持ちだったことでしょう。あらためて気持ちと言葉の関連性を再確認することになりました。

ところで、夕食の懐石料理はお安くもないですが、雰囲気がとても素敵でした。また、サービスも行き届いており、楽しめました。何より母が料理のおいしさに大満足していて、お店をチョイスした姪もとてもうれしそうでした。(了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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