それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
香川県東かがわ市。徳島県との県境も近い、人口2万9000人あまりの小さな町です。全国的には、「手袋」や「和三盆糖」の産地として知られています。
東かがわ市には、香川県で唯一の動物園があります。その名は「しろとり動物園」。自治体などが運営する動物園ではなく、ほぼ家族経営の民間動物園で、30年あまりの歴史があります。
副園長の松村一史さんは、昭和59年(1984年)生まれの37歳。主に経営を担うお兄様と一緒に、現場で動物たちの世話に当たっています。
松村さんのお父様は、動物好きが高じてサーカス団などの動物指導員を務めていました。サーカスのメンバーが海外へ行ってしまうと、猛獣たちを自宅で預かることもありました。この動物たちを引き取る形で、「しろとり動物園」を開園。松村さんも物心ついたときには、当たり前のようにトラやライオンたちが我が家にいて、猛獣たちの啼き声を子守歌のように聞きながら育って来ました。
松村さんは地元の高校を卒業後、お隣・岡山の大学に進学。下宿して生物について学び始めましたが、どうもしっくり来ません。授業はサボりがちになり、トラやライオンの鳴き声が聞こえない生活に物足りなさを感じるようになって行きました。悩みに悩んで、大学の先生に相談すると、思わぬ答えが返って来ました。
「いますぐ家へ帰れ。そして、動物園をやりなさい!」
松村さんは、先生の言葉に決心がつきました。「あとから後悔するよりも、やって後悔しよう!」と、せっかく入った大学でしたが、わずか1年で退学届を出しました。
「しろとり動物園」には、開園当時からの名物があります。それは、トラやライオンの赤ちゃんとの「ふれあいタイム」。大きくなると「怖い存在」になってしまう肉食動物にも、可愛い子どもの時期があります。その時期を、肌の温もりを持って知ることで、生きとし生けるものへの愛を育んで欲しいと、お父様が始めた取り組みです。
松村さんは、動物たちとの「ふれあい」をより進めて行くことにしました。園内には、猛獣たちの檻は設けるものの、放し飼いの動物たちもたくさんいます。飼育員さんの立ち会いのもと、動物と人間を隔てる柵を取り外す場所もつくりました。
多くの動物たちへのエサやりも、自由に行われています。そんな風景がSNSやテレビ番組などで話題となり、しろとり動物園は、いつしか「自由すぎる動物園」と呼ばれるようになりました。
順調に見えた動物園ですが、コロナ禍の状況は重くのしかかりました。最初の2ヵ月を何とか乗り切ったのも束の間、都道府県をまたぐ移動の自粛が求められたことで、他県からの入園者の足がパタリと止まりました。
次第に可愛い動物たちのエサ代すらおぼつかなくなり、クラウドファンディングで全国の動物ファンに支援を仰ぎました。一方、この話を聞いた近くの農家さんたちも、軽トラで動物園に駆けつけました。
「野菜が余ったから、動物たちに食べさせてやって」
地元の皆さんの温かい気持ちに、松村さんは思わず胸が熱くなりました。
2021年9月、「しろとり動物園」に嬉しいニュースがありました。3年ぶりに、ベンガルトラの赤ちゃんが双子で生まれたのです。しかも1頭はホワイトタイガー。松村さんは2頭の赤ちゃんが、動物園の「希望の星」のように見えました。
女の子のホワイトタイガーは「ハク」ちゃん、男の子の茶色の赤ちゃんは「ムク」くんと名付けられました。10月の「だっこ会」に続き、11月中旬からは赤ちゃんとの撮影会が開催されています。特に年末は、2022年の年賀状として使うため、トラの赤ちゃんと一緒に写真を撮る家族連れが動物園に多くやって来ました。
笑顔でカメラに収まる家族連れに目を細める松村さん。動物とのふれあいタイムを案内していると、お孫さんを連れた年配の常連さんに声を掛けられました。「最近、お父さんと同じ姿になって来たね」……その言葉に嬉しさもありますが、まだまだという気持ちもあるそうです。
「動物園をもっと広くしたい。より動物たちが自由で生き生きとした場所にして、人間がそこにお邪魔するようなフィールドをつくりたい」
親子の絆が支える「自由すぎる動物園」は、まさに「虎の子」たちと一緒に、新たな千里を駆け出します。
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