カザフスタンの政変は偶発的なもの

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月18日放送)に東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が出演。カザフスタン情勢について解説した。

2022年1月6日、カザフスタンの最大都市アルマトイに配置された兵隊ら(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

燃料価格の高騰にカザフスタン各地でデモが発生

カザフスタン当局は1月15日、西部マンギスタウ州の石油ガス価格を不当に釣り上げたとして、エネルギー省のカラガエフ副大臣を拘束したと発表した。カザフ政府は同日、同氏の解任を発表した。燃料価格引き上げに端を発した抗議デモの責任を取らせる狙いとみられる。

飯田)カザフスタン情勢についてお伺いしたいのですが、スタジオにはジャーナリストの有本香さんがいらっしゃいます。

ジャーナリスト・有本香)カザフスタンはロシア頼みで、自国のいろいろな暴動の鎮圧をしなければいけない状況なのですか?

小泉)カザフスタンに関しては、そもそも発端がよくわかりません。自動車用燃料の価格を自由化したら、高騰してしまい、国民の不満が爆発したと言われています。

国民の不満も加わり、ナザルバエフ前大統領とトカエフ現大統領の間の権力闘争に発展

小泉)西部の方の貧しい地域で暴動が起こったことはわかるのですが、第2の都市であるアルマトイに飛び火して、「あれよあれよ」という間に、中央アジアで最も安定していると思われていたカザフスタンが不安定化してしまいました。

飯田)安定していたカザフスタンが。

小泉)多分、ナザルバエフ前大統領とトカエフ現大統領の間の争いのようなものが、そこで同時に起こってしまった結果、国民の不満から権力闘争に発展して収拾がつかなくなったのだと思います。

ロシア軍やベラルーシ軍は暴動を鎮圧しているのではない ~前大統領のナザルバエフ派を排除した新体制ができつつある

小泉)その結果として、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」に対し、「平和維持部隊を送ってくれ」という要請があり、実際にロシア軍やベラルーシ軍が入って行きました。ただ、現地での彼らの振る舞いを見ていると、別に暴動を鎮圧しているわけではありません。政府や軍の重要施設の警備にまわっています。おそらく、彼らは政治的なシンボルとして送り込まれたのだと思います。

飯田)政治的なシンボルとして。

小泉)現状、トカエフ現大統領とナザルバエフ前大統領の間の政治的な闘争は、一応、現大統領のトカエフ氏が、前大統領のナザルバエフ派を完全に排除しつつあるようです。看板は変わっていなくても、事実上はナザルバエフ派を排除した新体制ができつつあります。

飯田)そうですか。

小泉)それに対して、政治的にロシアや旧ソ連の国々が「我々もそれを認めますよ」というシンボルとして、部隊が送り込まれたのだろうと思います。シンボルなので、実際は特に何もせず、13日ごろに撤退を開始しています。

偶発的にナザルバエフ派を排除しようと考えたトカエフ派

飯田)「プーチンさんと現大統領のトカエフさんが最初から組んで、舞台回しをやったのではないか」という妄想も膨らんでしまうのですが、そういうことではないのですか?

小泉)そうであれば面白いのですが、ウクライナ側にロシア軍が集まって圧力を掛けている最中に、中央アジアで騒ぎを起こすメリットがロシアにあるのだろうかと考えると、あまりない気がします。

飯田)ウクライナに圧力を掛けている最中に。

小泉)もう1つは、「こういう問題を起こして、うまくナザルバエフ派を排除する」というシナリオが描ければ、トカエフ側も考えるかも知れませんが、あまりにもリスキーです。実際に、国民をコントロールしてうまく治められるかどうかは、わからなかったはずです。事実上の影の権力者は、ずっとナザルバエフ氏でしたから、返り討ちに遭う可能性も相当高かったはずです。このように考えると、暴動が起きたこと自体は偶発事態で、その最中に「どさくさに紛れてナザルバエフ派を排除しよう」と、トカエフ側が考えたのではないかと思います。

中ロ首脳会談=2019(令和元)年6月5日、ロシア・モスクワ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナに集結するロシア軍 ~プーチン大統領が命令を下せば、大規模な軍事作戦ができる体制が整いつつある

飯田)ウクライナの方は、西側の報道だと「17万5000人規模の部隊がいた」という話も出ています。この推移は今後どうなるとお考えですか?

小泉)「17万5000人」というのは、2021年12月に「ワシントン・ポスト」が挙げた数字で、「そのぐらい揃ってから行動するのではないか」という話でした。「100個大隊戦闘団、17万5000人」ぐらいと。現状、どのくらい人数がいるのかということは、カウント方法の問題もあって難しいですが、ウクライナ国防省やアメリカの軍事専門家たちの推定を見ていると、「50個大隊戦闘団か60個大隊戦闘団」くらいのようです。

飯田)半分程度ということですか?

小泉)「ワシントン・ポスト」が報じたアメリカの情報機関の見積もりに対し、半分~6割ぐらいが集まっているということになります。いずれにせよ、これだけの規模のロシア軍がウクライナ周辺に集まるのは見たことがありません。2014年や2015年ごろ、実際に紛争で武力行使がなされている間も、これだけの数は集まっていません。

飯田)紛争中も。

小泉)今回、ウクライナ周辺にいる南部軍管区や西部軍管区の部隊だけではなく、中央アジア方面の中央軍管区の部隊がいて、極東の部隊、つまり日本周辺の部隊も集まりつつあります。極東の部隊は、以前から鉄道でウクライナ周辺に移動していまして、徐々にウクライナ周辺に到着しはじめています。ロシアが実際に戦争をするのかどうかはわかりませんが、少なくともプーチン大統領が「やれ」と命令すれば、大規模な軍事作戦を実行できる体制が整いつつあることは、間違いありません。

懸念される集められたロシア軍の動向

小泉)実際、この件も含めて、「ロシアとアメリカ」「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)」「ロシアと欧州安全保障協力機構(OSCE)」の3つの協議が連続して行われましたが、ほぼ完全に決裂しています。ロシア側としては圧力をかけるフェーズ、圧力をもとに対話するフェーズというところまで行った。でも西側はロシアの要求、例えば「これ以上NATOを拡大させるな」という話などには一切応じないというところに来ているので、「では、集めた軍隊をどうするのだろうか」ということは非常に懸念されるところです。

飯田)そうですね。

小泉)古典的な戦争をはじめるかどうかは、わかりませんが、少なくとも集めた軍事力を使って、何かしらはして来ると思います。特に1月~2月にかけての時期は、懸念しながら見守ることになるでしょう。

「台湾・ウクライナ同時有事」はいまのところない

飯田)北京オリンピックのタイミングも考えると、中国という、もう一方の大きなプレイヤーと連動している可能性はあるのですか?

小泉)「連動したら、すごく嫌だな」という感じはあるのですけれども、現状、連動しているという証拠はありません。ロシア軍がこれだけ集まって来ていて、ウクライナに対する軍事力行使の準備が完成するのが、1月~2月ぐらいになるだろうと見られています。

飯田)軍事力の行使の準備が完成するのは。

小泉)それを越えると、あの辺りは春に地面がグチャグチャになって、軍事作戦がやりにくくなります。やるのであれば、早いうちにやるのだと思います。ところが、その時期を考えると、中国はオリンピックがあるから、そんなことはしたくないでしょう。さらに言うと、仮に中国が台湾に侵攻するのであれば、アジア側でもウクライナ周辺で起こっているのと同じような、大規模な軍隊の移動がなければおかしいのですが、それは観察されていません。そういうことを考えると、いま言われている「台湾・ウクライナ同時有事」に関して、そうなれば嫌なシナリオですが、現状では起こっていないと考えられます。

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