-新行市佳のパラスポヒーロー列伝-
ニッポン放送アナウンサー・新行市佳が、注目選手や大会の取材などを通して、パラスポーツの魅力をあなたと一緒に発見していきます
3月4日、いよいよ北京2022パラリンピックが開幕します。日本代表選手29人が出場予定で、3月13日まで熱戦を繰り広げます。
そこで2月21日からの1週間、「新行市佳のOK! Cozy up!」では、北京パラリンピック直前企画をお届けしました。そのなかでパラアルペンスキー日本代表の小池岳太選手にインタビューした模様をご紹介します。
今大会で5大会連続の冬季パラリンピック出場となる小池岳太選手。平昌パラリンピック後、東京パラリンピックを見据えて自転車競技にチャレンジしました。
「2014年のソチパラリンピック後から、夏限定で自転車競技に取り組んでいました。平昌以降は、より専念しないと東京大会に間に合わないというところで、自転車に専念するため、伊豆に引っ越して挑戦しました。1年目はパラサイクリング連盟の強化指定をいただいていたのですが、レベルが足りず、半年余りで強化指定は外れました。その後は母校・日体大の自転車競技部に参加させてもらって、2019年は学生とともに練習していました。最後は、個人で3ヵ国の大会をまわって記録更新を目指していましたが、届かなかったんです。そんななかでコロナ禍が始まり、世界中の大会が中止になったことで、東京への道が途絶えたという状況でした」
そんななか、お手伝いで子どものスキーの指導をする機会があり、改めてスキーの魅力を感じ、自転車で培って来た筋力や体力がスキーに活きることを実感したそうです。「もう一度スキーで成長できるかも知れない」という思いが芽生えたとき、ナショナルチームのコーチからの誘いがあり、スキーでの再挑戦を決意しました。
2020年春ごろにアルペンスキーに復帰した小池選手の再出発の舞台は、長野県の野沢温泉。健常者スキーチーム「スノーバスターズ」で練習をスタートさせました。
「子どもたちのなかでも、トップを目指している選手のハングリーさは物凄いものがあるので、『自分の覚悟はまだまだ甘いんだな』と学ぶこともあります。私の場合は障害が軽い分、健常者に負けないレベルでないと、パラリンピックで通用しないんです。彼ら、彼女らに負けないように……目の前にいい目標があって、質の高い練習ができていました」
2021年1月、スイスで行われたワールドカップ・ヴェゾナ大会では、滑降7位に。
「この種目で7位に入るまで、他の種目はボロボロで、スキーをやる資格はないなと思っていたんです。滑降で7位に入ったときは、『まだやっていいんだな、まだ成長できるな』と感じて涙が溢れました。他の海外のトップ選手たちも背中をポンポンと叩いてくれたり、『また戻って来たな!』と声を掛けてくれたり、転機になったレースでした」
パラアルペンスキーには立位、座位、視覚障害のカテゴリーがあり、障害の種類や程度によってクラス分けがあります。小池岳太選手は、立位でいちばん障害が軽いLW6/8-2のクラスです。右手でストックを持ち、1本のストックで滑ります。
「頸椎損傷で左腕がかなり細く、左半身の体重が軽くて、右半身は重い身体になっています。左右の動きのなかでタイミングをずらして滑りながら、最終的に板の動きは帳尻が合うようにしています。骨盤の動きで調整するなど、自分なりに工夫して反復練習しています」
アルペンスキーに復帰してからは、自転車競技で鍛えられた筋力に加えて、走る筋力を底上げし、いままで見逃していたという左肩周りの強化(肩甲骨周りを動かすリハビリ)、内転筋の強化に力を注ぎました。
「自転車競技では、お尻周り、ハムストリングス、もも裏、背中などを鍛える地道な筋力トレーニングをしていました。スキーではできていなかった高負荷の練習が、結果的に膝回りの筋力をバランスよく鍛えることにつながっていて、膝の保護にも役立っていたということで、自転車競技がスキーでも成長できる身体に変化させてくれました」
本来ならば、事前に開催されるテスト大会で会場の地形・雪質の把握、ワックスの調整などをして本番に臨むはずが、今大会はコロナの影響でそれが叶いませんでした。
「映像だけでどこまで把握できるか難しい面はありますが、オリンピックの映像が送られて来ているので、それをひたすら見ています。この音(滑っているときの音)はあそこの国の雪質に似ているなとか、3パタ-ンくらい準備しながら進めています。地形の把握は絵を描いて覚えるようにしているんです。かなり映像を見て、地形は把握できていると思います。あとは現地に行って滑ってみて、雪質で微調整かなと思っています」
得意の高速系種目、滑降とスーパー大回転でメダルを狙い、他の種目は身体のコンディション次第で選ぶ予定です。
「大けがのリスクがありますが、この1本で人生が終わってもいいという覚悟を持って滑るのが高速系ですね。それに取り組むことが好きです」
「過去いちばん技術力が上がっている」と語った小池岳太選手。自転車競技への挑戦を経て、さらにパワーアップした滑りで北京パラリンピックに挑みます。
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