「でも」「しかし」「いや」……感情を逆なでする『地雷言葉』に気を付けよう

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フリーアナウンサーの柿崎元子による、メディアとコミュニケーションを中心とするコラム「メディアリテラシー」。今回は、「何気ない言葉づかい」について---

ニッポン放送「メディアリテラシー」

「そうだね、でも……」

「あなたは文句が多いね」

あるとき、夫がこう言いました。「私は“文句”を言っているのだろうか?」と、自らに問いかけました。夫の言葉によると、何か面白い出来事やうれしい話を聞いても、必ず「そうだねぇ、でもさ……」と私は言い出すようなのです。「文句」という言葉は辞書を調べると、こうあります。

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【文句】

(1)幾つかの語が続いたもの。語句。

(2)不平・不満・不賛成などの言い分。

(新明解国語辞典 第八版/株式会社三省堂)

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あとに続く言葉が大抵、否定する内容であることに照らすと、2番目の「不満や不賛成」の意味になります。「いまのドラマ面白かったね」「そうだね。でもさ、ちょっと途中わかりにくくなかった?」あるいは「日本が銅メダルを取ってよかったね」「ほんとだね。でもさ、きのうの段階ではダメだと思ったんだよね」という感じです。

私自身は文句を言っているつもりはなく、自分の意見や感想を話すときの「接続詞」のニュアンスで使っていたのですが、相手はそう感じないのです。「でも」は前に続く文章に反するときに使う接続詞です。ということは、「相手の意見を否定している」と取られても全くおかしくはありません。

私が多用しているパターンは正しくないばかりか、人間関係にマイナスの影響を及ぼしそうです。この話法は使ってはいけないと思い、心して直す必要がありました。

ニッポン放送「メディアリテラシー」

話の行方を予想する言葉

ビジネス上は反論する際、まず一旦相手の意見を受け入れて、そのあとに反論する順番にすると相手に届きやすくなるとして、「Yes,but」の形が推奨されています。私はその話法を使っているつもりでした。

しかし、どうやらいつもこのパターンで話しているようなのです。自分にこのようなクセがあるとは思いもしませんでした。「でも」や「しかし」は逆説の言葉が続き、同調にはなりえなかったのです。

一方で、日本語には前の文章に続いて必ず使う用法があります。例えば、「試験は全然できなかった」の「全然」のあとには「できない」と否定形が続きます。また、「果たして猫はそこにいるのでしょうか?」と、「果たして」のあとは疑問形になります。

ただし、皆さんお気づきのように、髪を切ったあとに「おかしくない?」と言われて「全然いいと思う」と言ったり、「果たして(予想通り)猫はそこに居た」という言い方もあります。前者は「全然問題ない。いいと思う」が短くなったものであり、後者は用法が長い間に変化してしまったと言えるでしょう。

いずれにしても、日本語では文章の途中で、その文の行方を予想できる副詞や助詞があり、多くの人はそれを手がかかりにして話の内容を予測しています。言葉の用法をまちがっていないか考えるきっかけになりました。

北京冬季五輪のエンブレム=北京市延慶区(共同) 写真提供:共同通信社

ネガとポジが結びつく?

そんななか先日、変な事例に遭遇しました。テレビの情報番組で司会者が、北京オリンピックで失格が相次いだ話をしていました。

「オリンピックの大舞台でまさか失格になるとは、選手の気持ちになると熱いものがこみ上げて来ます。さて、熱いと言えば、餃子です。(餃子を焼く映像:ジューと音がしている)……おいしそうですね。さて、餃子の日本一はどこの都市でしょうか?」

「熱い」という言葉がポイントです。選手の気持ちを慮り、失格という事実を鑑みて込み上げて来る熱いものは何でしょうか。悲しみ? 怒り? 私は「悔しい、残念、涙」などの言葉が当てはまると思いました。皆さんはどんな言葉を想像したでしょうか。

少なくとも、いいイメージの言葉ではないと思います。それで「熱いと言えば餃子」とつながるでしょうか。ここで生じた誤解は、ネガティブとポジティブが続いて結びついたことにあります。

失格が相次いだことはネガティブな話題です。一方、餃子の日本一の話はポジティブなものです。同じ「熱い」を使っていますが、イコールでは結び付けられません。正反対のニュアンスで使うべき用法でした。別々の話題を無理につなげた印象です。

選手の気持ちを代弁するのは難しい上に、ミスリードになりかねないため「熱いもの」と使ったのかも知れませんが、違和感がありました。

ニッポン放送「メディアリテラシー」

正しい日本語とは

日本語には「~していただけます」という言葉があります。相手に対しての敬語の種類なのですが、「いただく」は自分がへりくだる際に使うため、少し変な気がします。

「こちらのエレベーターはご利用になれません」という紙が貼られたエレベーターがあったのですが、「使えない」という否定の言葉の印象がよくないとして、「修理点検後ご利用いただけます」と張り替えてありました。ダメだと思ったものが、「一定の条件のもとなら大丈夫なんだ」という印象に変わりました。少しホッとしました。

日本語は常に変化しています。デジタル用語が会話に入って来たり、単語を組み合わせて造語となったり、これまでと違う用法で使われたりしています。絶対的に正しい日本語が存在するのではなく、使う状況や場面によって正しいかどうかが変わるのだ、と認識した方がよいかも知れません。

どんな言葉が発せられても、その人が何を言おうとしているのかを汲み取り、言葉に込められた感情を理解しようとする心が求められるのだと思います。

ニッポン放送「メディアリテラシー」

地雷となる言葉

今回は、私が踏んだ地雷の言葉「でも」を取り上げましたが、他にも「~っていうか」や「知らないと思うけど」など、何となく使っている危ない言葉がいくつかあります。相手の意見を否定することになったり、知らないことを指摘して不快にするなど、感情を逆なでしてしまう地雷の言葉には気を付けなければなりません。

何気なく発した言葉の裏にある悪意。これらは相手がそう感じた時点で、人間関係が危うくなります。それを防ぐには相手への敬意を忘れず、感謝やリスペクトが最大の対策になります。クセになっているとなかなか直せないので、言葉を発するのが怖いという方もいらっしゃるでしょう。ただ、練習しないとよくならないのも明らかです。

私は「でも、しかし、いや」という言葉を使わないことにチャレンジしようと思います。常に相手への敬意を示すことを大切にし、コミュニケーション能力を高めたいと思います。 (了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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