料亭と駅弁、その根底で共通するものとは? ~金沢駅弁・大友楼
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駅弁屋さんのルーツを調べていくと、かつて「料亭」を経営していたお店が数多くあります。しかし、鉄道網の発達で、駅弁を製造する“弁当部”が賑わってくると、駅弁専業となり、いまでは「駅弁屋さん」として認識されていることがほとんどです。そのなかにあって、金沢駅弁「大友楼」は、令和のいまも料亭と駅弁の兼業を貫いている、ある意味“本寸法の”駅弁屋さん。どのようにして“両立”しているのか、8代目の方に伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第33弾・大友楼編(第5回/全6回)
IRいしかわ鉄道の津幡駅と和倉温泉駅の間を結ぶJR七尾線。かつては朝市で有名な輪島までを結ぶ路線で、穴水から能登線も分岐していました。いまは、和倉温泉以北が第3セクターの「のと鉄道」に移管され、穴水以北は能登線とともにバスに転換されました。北陸新幹線開業後、金沢~和倉温泉間には「能登かがり火」と観光列車「花嫁のれん」、大阪~和倉温泉間に「サンダーバード」の各特急列車が運行されています。
「能登牛は一定の知名度がありますが、私が注目しているのは能登豚です。能登豚の弁当を作りたいんです」
そう夢を語るのは、江戸時代から金沢で料亭、明治時代からは、駅弁を手掛けている「株式会社大友楼」の8代目・大友佐悟(おおとも・さとる)常務取締役(38)です。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第33弾・大友楼編、今回は、食材のこだわり、そして料亭と駅弁の料理の違いについて伺いました。
●「石川県産コシヒカリ」にこだわる大友楼の駅弁!
―幕の内が多い大友楼の駅弁ですが、その分の製造工程があるわけで、食材の仕入れにもご苦労はありませんか?
大友:確かにそうですね。ただ、昔からお付き合いのある業者さんがおりますので、シーズンごとに、新しい食材が出てきたら提案していただけるような関係を築いています。そこのお付き合いのコミュニケーションは大事にしています。長い業者さんでは、100年以上になるところもあります。とくにお米屋さんは長いですね。お米の選定も一緒にやっていて、その時々に最適なお米を仕入れるようにしています。
―米はどのようなものを使っていますか?
大友:石川県産のコシヒカリを使用しています。価格も品質も、長期的に安定してご提供できるのは、やはりコシヒカリなのかなと。なお、排水を抑える環境面と節水の観点から、15年以上無洗米を使用しています。炊き方もいろいろ試した上で、ガス釜が最も美味しく、短時間で炊くことができるという結論に至りました。弊社の駅弁では、最もこだわっているポイントかと思います。
●料亭の味と駅弁の味、その両立の苦労とは?
―「料亭の味」を、駅弁の折に詰めこむ上での工夫はありますか?
大友:料亭と弁当部で共通している仕入れ先は、概ね2~3割程度です。あとはそれぞれの仕入れ先を持っています。料亭でも駅弁でも、「お客様に美味しいものを召し上がっていただく」という点は共通です。ただ、料亭は「温かいものは温かいうちに」、駅弁は「冷めても美味しいもの」と、基本コンセプトが変わります。この点は、料亭の料理人のアドバイスを受けながら、(駅弁の保存性を高めるため)味を濃くするなどアレンジをしています。
―確かに駅弁は「保存性」あってのもので、そこが総菜弁当との大きな違いですね。
大友:駅弁には「美味しかった」とおっしゃって下さるお客様と、「ちょっと味が濃かった」とおっしゃるお客様がいらっしゃいます。料亭の味と駅弁の保存性との間で、せめぎ合いがあります。ただ、駅弁のコンセプトに合わせて、なるべく地産地消を心がけ、地場の醤油や味噌を使うようにしています。例えば、醤油は「大野醤油」を使っています。金沢の海沿いに醤油蔵が建ち並ぶ地域があって、ここで醤油が作られているんです。
●料亭のおもてなしの心を、金沢駅でも!
―「料亭」のお客様と、「駅弁」のお客様、鉄道草創期とは違って、客層が異なるようにも感じますが、作り手としてはどのように考えていますか?
大友:確かに駅はフラッと立ち寄られるお客様が多く、料亭は、観光で金沢の雰囲気や、料亭の特別な空間を楽しみたいというお客様が多くいらっしゃいます。でも、調理法の違いはありますが、弊社の料理を召し上がっていただくことには変わりありません。ですので、料亭にお越しいただいたお客様にも、金沢駅に駅弁の売店があることはお伝えしていて、「よかったら、立ち寄ってみてください」とお声がけしています。
―金沢市内にはいくつか老舗料亭がありますが、金沢駅にお店があるのは、「大友楼」ならではですね。
大友:その意味でも、金沢駅の売店は、料亭でお食事をされたお客様はもちろん、金沢にお越し下さったお客様を、最後までお見送りする場所としての役割があるのかなと思っています。金沢は「おもてなし」のまちなんです。そういう心で、お客様と接することができるところにも、料亭と駅弁を兼業している価値はあるのではないかと考えています。
2つの味の両立という意味では、平成26(2014)年の「大友楼あんと店」オープンを記念して誕生した弁当をルーツに持つ「特撰日本海かにめしと能登牛しぐれ丼」(1250円)は、石川県が誇る海と山の幸を詰め込んだ、やや横長のパッケージが目を引くお弁当です。大きく書かれた商品名の背景には、かにと牛の絵も描かれていて、どんなお弁当なのか、ふたを開けるのが楽しみになりますね。
【おしながき】
・白飯(石川県産コシヒカリ) 能登牛しぐれ煮 グリーンピース 紅生姜
・かにご飯 錦糸玉子 きぬさや
・揚げボール煮
・笹かまぼこ煮
・煮物(竹の子、ふき、蓮根、信田巻、生麩)
満を持して紙蓋を開けると、左に能登牛も使用した柔らかな牛肉のしぐれ煮、右にはふんわり華やかなかにめし、そして、真ん中には、大友楼自慢の煮物が詰められていました。駅弁は濃いめの味付けとのことでしたが、牛肉もかにも決して濃すぎることのない、素材の味を活かした上品な味付けが“料亭の味”を演出。ご飯も牛肉は白飯、かには五目御飯と2つの味が楽しめるようになっていて、しっかり手間をかけているのがわかります。
金沢と能登半島随一の温泉・和倉温泉を結ぶ七尾線は、平成3(1991)年に電化され、大阪・名古屋・越後湯沢からの直通特急列車も数多く運行されました。新幹線の開業に伴って運行体系は変わりましたが、令和2(2020)年にデビューした新型車両には、「電化30周年」を記念したヘッドマークシールが取り付けられています(3月下旬までの予定)。次回で「駅弁屋さんの厨房ですよ」大友楼編は完結。これからの駅弁について伺います。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/