明海大学教授で日本国際問題研究所主任研究員の小谷哲男が6月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。首脳宣言のなかで、2年連続で台湾海峡について言及したG7サミットについて解説した。
G7首脳宣言 「台湾海峡の安定が重要」と2年連続明記
ドイツ南部エルマウで開かれていた主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)が6月28日、閉幕した。首脳宣言で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と2年連続で台湾海峡に言及し、2021年のG7首脳宣言で初めて盛った文言を踏襲した。中国が軍事的威圧を続ける東シナ海や南シナ海の現状に懸念を表明した格好だ。
飯田)ウクライナ情勢に関しては、29日の各紙1面で報じていますが、世界の食料安全保障への取り組みに45億ドル(約6100億円)をG7で追加拠出するということです。ウクライナ情勢が中心でしたが、東アジアに関しても言及がありました。
小谷)昨年(2021年)に比べると、当然、ウクライナの問題、ヨーロッパの問題が大きく取りあげられていますけれども、引き続き中国や台湾についても言及がありました。G7としては、「引き続き中国の問題も重視している」というメッセージを出したのだと思います。
東シナ海のガス田についての言及は、日本からのインプットがあったため
飯田)現地で政府高官がブリーフィングしたところ、セッションのなかでは、東シナ海のガス田の話にも言及があったということです。この辺りを見ると、言うことは言ったという感じでしょうか?
小谷)南シナ海の問題は国際的な問題であり、ヨーロッパもそこを通って貿易を行っていますので、G7で議論されるのは自然なことです。しかし、東シナ海の、しかもガス田の問題はローカルな問題ですので、日本側のインプットがかなりあったと考えられます。
飯田)東アジアに暮らしている人間からすると、南シナ海も東シナ海も同じくらいの重要性だろうと思うのですが、ヨーロッパやアメリカから見るイメージとは違うのですね。
ローカルな問題なので、日本側からのインプットがなければ取り上げられない
小谷)東シナ海の問題も、広い意味では国際法に基づいたさまざまな問題解決の重要性は変わらないのですが、東シナ海のガス田の問題にどれだけ国際社会が干渉するかというと、なかなか難しいところがあります。今回のG7では、日本側のインプットがなければ東シナ海のガス田については言及がなかったかも知れません。そういう意味で、日本政府は重要なインプットをしたのではないかと思います。
飯田)そこは中国と日本の2国間の問題でしょう、という感じになるわけですか?
小谷)そうですね。
海洋調査する際、事前報告する取り決めを日中間でつくっている ~石垣島沖での中国の海洋調査
小谷)一方で、これは沖縄にも関連してくる話ですが、いま参院選が始まり、石垣島の近辺で中国が海洋調査をしたという話もあります。日本政府としては、この問題を国際的な場で議論することで、一定程度、沖縄に関するアピールということもあったのではないかと思います。
飯田)ロシアの艦艇が日本を1周するような形で南西諸島の辺りを通っていきましたし、中国の艦艇、航空機もかなり来ています。
小谷)南西諸島を越えて、日本列島全体に中国やロシアの軍事的な威圧がかけられていますね。一方で海洋調査というのは、経済的な面で日本の利益を損なう可能性がありますので、そこもきちんと日本として国際社会にアピールしたということだと思います。
飯田)そもそも国連海洋法条約などを考えると、EEZ内で日本の許可なく調査するということ自体がおかしいですよね。
小谷)できない話ですし、国際法を除いても、日中間で「お互いに海洋調査をするときは、事前に通報する」という取り決めを2001年につくっているのです。それも無視しているということですから、やはり国際的な圧力を中国にかけていく必要があるのだと思います。
「一帯一路」ではなく、欧米諸国とともに質の高い透明性のあるインフラを世界中に広げていく
飯田)対中国という意味で言うと、G7サミットのなかで、発展途上国に対して約81兆円のインフラ投資を促進する枠組みをつくりました。「一帯一路」に対抗するという話もありますけれども、中国もかなり反発していますね。
小谷)ここ数年、中国の一帯一路なのか、それとも日米などが主導する質のよいインフラなのか、という対立が続いてきました。一時、日本政府は中国の一帯一路にも事実上、協力するというような姿勢がありましたが、それが再びなくなり、欧米諸国と一緒に質の高い透明性のあるインフラを世界中に広げていくというスタンスに変わってきたことが言えると思います。
台湾有事の際、日本はウクライナ情勢におけるポーランドの役割を果たすことになる
飯田)世論調査などを見ると、ウクライナ情勢から「台湾海峡に波及して我々にも影響があるのではないか」と懸念する方々が、8割くらいにのぼるものもあります。一方で、「では何をすればいいのか」という対策については、難しいところがあります。台湾で仮に有事が起きた場合、日本の役割として、どのようなことが考えられますか?
小谷)台湾有事がどのようなシナリオで起こるかにもよりますが、日本と台湾は近いので、ミサイルなどが飛んでくる可能性は否定できませんし、台湾周辺で中国が海上封鎖を行うことも十分考えられます。
飯田)そうですね。
小谷)そうなった場合、台湾から邦人も含めて外国人が脱出することになります。その際、日本を経由して脱出したいということもあるでしょう。ウクライナ問題では、ポーランドが欧米から供与される武器の玄関になっていますし、多くのウクライナ人の方がポーランドから国外に避難しています。台湾有事の際は、日本がポーランドの役割を求められる可能性を考えておかなければならないと思います。
台湾有事の際、台湾在留邦人、外国人、さらに脱出する台湾の人をどのようにして日本に受け入れるのか
飯田)ウクライナの地図を見ると、西側にポーランドがあり、キーウからはそれほど離れていないので、かなりの方々がそこから逃げて行きました。日本がその役割を果たしていくということになると、かなりの数の避難民が来ることを考えておかなければなりません。
小谷)コロナ禍の前になりますが、台湾には邦人が2~3万人、外国人は60万人くらいいるだろうと言われています。これだけの数の人々を、日本を経由して避難させるためには何が必要なのかということを、いまから考えておく必要があると思います。
飯田)加えて、ウクライナでもそうでしたが、脱出してくるウクライナの非戦闘員の方々をポーランドは受け入れています。同じように、台湾から避難してくる人たちが出る可能性も当然ありますよね。
小谷)台湾の人たちの避難先として、日本がどういう役割を果たすのかということも考えなければなりません。
本州に避難民を一時的に収容する施設が必要
飯田)かつて朝鮮戦争のときに、朝鮮半島から避難民が来ました。それに対して、当時は長崎県の大村にある復員兵の方たちが一時的に収容されていた収容施設を使ったという話を聞いたことがあるのですが、入管の施設だけでは足りないですよね。
小谷)これは特別な措置が必要になってくると思いますし、そのための施設、場所を確保しなければなりません。台湾には南西諸島がもちろん近いのですが、南西諸島は攻撃対象になる可能性があるので、できるだけ本州に収容施設を確保する必要があると思います。
中国が海上封鎖をするなか、日本から台湾へ武器を運び、帰りは避難民を乗せる ~その護衛の役割は自衛隊に求められる
飯田)海上封鎖という話が出ましたけれども、危険な水域ですが、そこで避難民を守りながら我々は輸送を行わなければならない。そこが陸路とは違うところですね。
小谷)陸路と海路はまったく危険性が違います。中国は台湾に欧米からの武器が入って来ないように海上封鎖をするでしょうし、それに対しておそらく米軍を中心に武器を運んで行く。その際に自衛隊には護衛が求められると思います。
飯田)自衛隊には。
小谷)日本に武器を集めて、船で台湾に運んで行く。その空になった船に避難民を乗せるというのが1つのやり方です。行きは武器を運んでいる船を守りながら、帰りは避難民を乗せている船を守るという役割も、自衛隊に求められると思います。
飯田)そのオペレーションも、かなり具体的なものが、既に求められるという段階なのですね。
小谷)ウクライナ情勢がなければ、ここまで具体的に検討されなかったのかも知れませんが、いまお話しした内容は、これから日米両政府で話し合っていかなければならないと思いますし、台湾とも話し合いをしていく必要があると思います。
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