1人の命も奪わなかった、幻の戦闘機「震電」……実物大模型が展示に
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2022年は終戦から77年を迎えます。昭和20年8月は連日、アメリカのB29爆撃機が飛来していました。8月6日は広島に、9日は長崎に原爆が投下され、終戦の15日まで激しい空襲に晒されます。
上空1万メートルの高高度を、最大速度・時速587キロで飛行するB29。これに対抗できる日本の戦闘機はほとんどなく、捨て身の体当たり攻撃で命を落とす搭乗員もいました。
この苦境のなか、新型戦闘機の開発が進められていました。幻の戦闘機と呼ばれた「震電」です。
その計画要求書を見て驚くのが、最高速度です。当時、ピストンエンジンの限界は時速700キロと言われていましたが、「時速740キロ以上」と要求されています。
ちなみに零戦の最高速度は565キロ。高速性に優れた飛燕でも610キロ。アメリカのP51マスタングが703キロですから、とんでもない要求です。
高速を可能にするのは「エンテ型」という形状でした。エンテとは、ドイツ語で「鴨」の意味。鴨が飛んでいる姿に似ていることから「エンテ型」と呼ばれていました。
普通の戦闘機はエンジンとプロペラが前にありますが、エンテ型はその逆で、後ろに取り付けます。そうすることで先端が尖ったように細く絞り込めるため、空気抵抗を極力小さくすることができます。
同じエンジンでも、さらに早く飛べる……理論上、時速740キロが可能だった「震電」は、果たしてB29を迎え撃つことができたのでしょうか?
日本でエンテ型を研究していたのは、海軍航空技術廠に所属していた鶴野正敬技術大尉。東京帝国大学工学部航空学科を卒業したエリートで、当時20代後半でした。訓練を受けて戦闘機も操縦できるので、自ら実験機に乗り込み、エンテ型の研究を続けていたそうです。
「前例がない」と上層部から反対意見も出ますが、画期的な戦闘機でなければB29に対抗できない……結果として昭和19年5月、「震電」の開発が認められます。三菱も中島飛行機も手一杯で、戦闘機をつくったことがない九州飛行機に白羽の矢が立ちます。
鶴野大尉が開発責任者として福岡に出向し、九州飛行機側も技術者を総動員させて専門チームを編成。通常1年半はかかる設計図を、わずか半年で完了させます。そして6000枚にも及ぶ図面をもとに、「震電」1号機がつくられていきます。
ジュラルミン板のヤスリがけなど地道な作業に当たったのは、九州各地から学徒動員で集められた中学校や女学校の生徒たちでした。いつB29が飛来し、工場が空爆されるかもわからない。それでも昭和20年6月、13ヵ月という短期間で「震電」1号機が完成します。
いくつかのトラブルを乗り越えて8月3日、初飛行に成功。8月6日と8日の試験飛行も成功し、これからというときに終戦を迎えます。時速740キロは幻となりました。
終戦後、「震電」はアメリカ軍に接収され、調査・研究のためにアメリカ本土へ船で送られました。いまはスミソニアン博物館で、尖った頭の部分だけが展示されています。
その「震電」を里帰りさせたいと、スミソニアン博物館に打診したのが福岡県筑前町の「町立大刀洗平和記念館」です。この町には、旧日本陸軍が東洋一と誇った「大刀洗飛行場」がありました。
昭和20年3月の空襲で壊滅状態になり、小学生を含む多くの犠牲者を出しました。ここに九州飛行機の関連会社があったことから「震電を里帰りさせたい」と願ったのですが、実現できませんでした。
そんな折、東京の映像制作会社が「震電」の実物大模型を製作したという情報を得て、購入を考えます。しかし、輸送・設置費なども含めて約2200万円が必要でした。
町の予算では難しい……そこで、クラウドファンディングによる支援を呼びかけたところ、予想より早く第一目標額の500万円を達成。「震電」ファンの多さに驚きます。現在はネクストゴールの1000万円に挑戦中です。
多くの支援によって購入することができた実物大模型の「震電」は、7月6日から展示が始まっています。記念館の企画学芸担当・藤上利美さんにお話を伺いました。
「最近は若い家族連れの方々が目立ちます。小さなお子さんが震電を見て『うわぁ、かっこいい! 大きい!』と目を輝かせています。そんな小さな子どもたちに、平和の大切さを教えるのはとても難しいことですが、ありのままをありのままに伝えようと心がけています。二度と戦争が起きないように、この記念館が平和の大切さを語り継ぐ情報発信基地でありたい……そう思っています」
1人の命も奪うことはなかった最新鋭戦闘機「震電」は、ふるさと・福岡の地で平和のための任務に就いています。
■筑前町立大刀洗平和記念館
所在地:福岡県朝倉郡筑前町高田2561-1
営業時間:9時~17時(入館は16:30まで)
定休日:年末のみ(12/26~12/31)
電話番号:0946-23-1227
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