日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が8月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月16日に行われた連邦下院選の共和党候補を決める予備選で大敗した共和党のリズ・チェイニー下院議員について解説した。
予備選大敗のアメリカ共和党チェイニー氏、大統領選への出馬を検討 ~想像以上に強いトランプ人気
アメリカ共和党のリズ・チェイニー下院議員は8月17日、2024年大統領選挙への出馬について「いま考えていることであり、数ヵ月中に決断する」と述べた。チェイニー氏はワイオミング州で16日に行われた連邦下院選の共和党候補を決める予備選で、トランプ前大統領が推薦した刺客候補に大差で敗れたばかりだが、「トランプ氏の再選を阻止するためにはどんなことでもしていく」と強調している。
飯田)ディック・チェイニー元副大統領の娘が、リズ・チェイニーさんとのことです。
秋田)私がワシントンに駐在していた時代はブッシュ政権でしたから、チェイニー副大統領とは少人数の取材などで接する機会がありました。保守のなかの保守ということで、ブッシュ政権を支えていたのが当時のディック・チェイニー副大統領でした。リズ・チェイニー氏はその娘さんで、前回の下院選挙では圧勝しているのです。
飯田)前回は。
秋田)しかし、今回は惨敗した。それは彼女が変わったのではなく、アメリカの政治風景が変わったということです。何が変わったかと言えば、トランプさんの人気は我々が想像する以上に強く、それに歯向かうような候補は次々と共和党のなかで孤立しているというのが現状だと思います。
共和党支持者の7割がバイデン政権は非合法政権だと思っている ~不正があったとして選挙結果を認めていない
飯田)トランプさんに関しては、米連邦捜査局(FBI)が家宅捜索に入るなどのニュースが出ていますが、特に共和党内への影響は見られないということですか?
秋田)世論調査によれば、共和党支持者の半分以上、7割ぐらいという数字もありますが、7割ぐらいが2020年の大統領選挙は盗まれたものだと思っているそうです。
飯田)盗まれた。不正があったということですか?
秋田)不正があって、トランプさんが負けてしまったと。共和党支持者が仮に有権者の半分だとすると、アメリカ全体の有権者の半分近くの人が、「バイデン政権は非合法政権だと思っている」ということです。選挙結果を認めていないわけです。
飯田)正当性がないではないかと。
秋田)半分とまでは言いませんが、共和党支持者の7割ともなると、4割くらいになります。
飯田)5割×7割で3.5割となると。
秋田)これが現状で、チェイニーさんが負けてしまったのも、まさにそういう共和党の構図があったからだと思います。ただ、ここで思うのは、なぜトランプ支持者がそんなに強いのかということを、私たちは真剣に注目すべきだということです。
トランプ支持者である中流以下の白人が怒る2つのこと
秋田)コロナ禍前にオハイオやテキサスへ出張に行き、トランプ支持者の人に会って取材して思ったのですが、彼らは本当に怒っているのです。
飯田)怒っている。
秋田)2つのことに怒っています。中流以下の白人の人たちが多いのですが、自分たちが一生懸命働いてアメリカをここまで支えてきたのに、不正な貿易や一部のエリートの人間によって、自分たちが格差で下の方に追いやられている。
飯田)一生懸命働いてきたのに。
秋田)山登りで言えば、自分たちが一生懸命に山を登ってきたのに、ズルをした人がいる。それが移民であり、勝手に入ってくる中国製品だと。それに怒っていました。そういう格差に対して「このまま俺たちは没落してしまうのか」と怒っているのは、「自分が中流だ」と思っていた中流以下の白人の人たちです。
格差や白人・非白人の人口構成の問題
秋田)もう1つは、人口構成で黒人・ヒスパニックが増え、非白人の人口がまもなく白人を逆転すると言われています。そうすると、どこかで「自分たちは没落していくのではないか」という焦りが生まれ、それがよくも悪くも8年間のオバマ政権によって強まった。その塊の人たちが「トランプさんは負けていない」という共和党支持者の7割のコアな人たちだと思います。
飯田)人口構成で白人が非白人に逆転されることから。
秋田)よくも悪くも、格差や白人・非白人の人口構成の構造問題です。善悪の問題ではなく、そういう怒りが充満して分裂が起きているという状況を、私たちは理解するべきだと思います。
アメリカで格差改善が進まなければ日米同盟にも影響する ~2024年には、トランプ政権もしくは新トランプ的な政権が誕生する可能性も
飯田)バイデン政権は、そこに対しても包摂していくのだという姿勢は見せて就任しましたけれど、うまくいっていないということですか?
秋田)いくら包摂しようとしても、一気に格差を縮められるわけではありませんし、人口構成で白人が減ることに焦りを抱いている、特に極右的な白人の人たちの気持ちは包摂しようがありません。まずは時間をかけて格差を是正するところから始めなければならず、簡単な道ではないと思います。
飯田)しかもコロナ禍で、むしろそれが広がってしまったのではないかという指摘もあります。
秋田)すべてがバイデン政権の責任ではないと思うのですが、アメリカが時間を掛けて格差を改善していかないと、日米同盟にも影響します。日本にとっても他人事ではありません。
飯田)日本にとっても。
秋田)今度の中間選挙、そして2024年の大統領選では、怒っているトランプ支持者はトランプさんないしトランプさん的な人に投票しますので、2024年に再びトランプ政権、あるいは新トランプ的な政権が生まれることもあり得ると考え、注意深く見ていかなければならないと思います。
タダ乗りを許さないアメリカ ~バイデン政権とトランプ政権は言うことは違うが、やっていることは同じ「アメリカ・ファースト」
飯田)そことも上手く付き合わなくてはならない。
秋田)日本はたまたま安倍さんがトランプさんといい関係を築いて、あの4年間を乗り切ったのですが、今度はどうなるかわからない。要するに、これからのアメリカに対して「タダ乗りは許されない」ということでしょうね。
飯田)「日本は何をしてくれるのだ?」と厳しく問われる。
秋田)「自分たちに一生懸命」なアメリカ人の方々がいるわけですから、そういう人たちが支持する政権は、日本だけでなく中国やヨーロッパに対しても、「タダ乗りを許さないアメリカ」という姿勢になるでしょう。いまもそうですし、これから強まっていくと思います。
飯田)その空気は民主党、共和党問わずそうなっていく流れですか?
秋田)トランプ政権とバイデン政権は言っていることは違いますけれど、対中政策や、北大西洋条約機構(NATO)に対して「もっと防衛費を負担しろ」と求める姿勢は、まったく変わっていません。継続性の方が強いと思います。
飯田)なるほど。
秋田)言っていることが違うだけで、やっていることはほとんど同じです。
飯田)表現が違うだけで、「お前ら増やせ!」と言うか、「一緒にやっていこうよ、増やしてくれるよね?」と言うかの違いだけですね。
秋田)中間層のための外交を進めるのがバイデン政権ですが、これは「アメリカ・ファースト」です。アメリカの中間層を豊かにするのが外交だと言っているわけですから、トランプさんの「アメリカ・ファースト」と変わりません。
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