通園バス園児死亡事件にある「2つの問題」

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中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也が9月8日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。静岡県牧之原市の通園バス園児死亡事件について解説した。

会見の冒頭、頭を下げて謝罪する増田立義園長(左)と杉本智子副園長=2022年9月7日、牧之原市静波の川崎幼稚園 写真提供:産経新聞社

通園バス園児死亡事件、国が安全対策チーム設置へ

静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で園児の川本千奈ちゃんが通園バスに取り残され死亡した事件を受けて、政府は再発防止のため、関係する府省によるワーキングチームの設置に向けて調整に入った。主にバスで送迎する際のマニュアルの策定など、具体的な安全対策について検討するとみられる。

新行)去年(2021年)の7月にも、福岡県中間市で園児が送迎バス内に取り残され、熱中症で亡くなった事件がありました。

今回の事件にある2つの問題 ~マニュアルに頼ると人はミスをする

野村)今回の事件では、問題が2つあると思います。1つは、人がミスをすることを前提とした政策になっていないということです。

新行)ミスをすることを前提にした政策になっていない。

野村)「バスから降りるときには、必ず複数の人で点検しましょう」というマニュアルをつくると、人がその通りにやると思ってしまい、そこで終わってしまうのです。でも、人はそこでミスをします。「やらなければいけない」と言われても、やらないこともあるから事故が起こるのです。

アメリカでは同様のバスの場合、到着後、最後尾のブザーが鳴る ~運転手が最後尾まで行き、止めなければならない

野村)人がヒューマンエラーを起こすかも知れないという前提で政策をつくらなければいけないのだけれど、役所はこういうとき、必ず「マニュアルをつくりなさい」で終わってしまうのです。例えばアメリカでは、スクールバスなどにはいちばん後ろにブザーがついていて、到着するとブザーが鳴るのです。

マニュアルで「点検してください」と言うだけでは不十分

野村)ブザーを止めるためには、運転手の人がいちばん後ろまで行かないとブザーを止められないわけです。後ろまで行く間に、当然のごとく誰か残っていないかどうかを見ることになります。絶対に人がやらなければいけない行動をさせるような仕掛けをつくらないといけません。マニュアルで「必ず点検してください」と言うだけではダメなのです。

登園管理システムでは「全員出席」と登録されていた ~いないことを誰もチェックしなかった

野村)今回、まず降りるときの点検が不十分であったことははっきりしていますが、もう1つの問題として、この幼稚園には「登園管理システム」というものがあります。「きょうは誰が登園しているか」ということを登録するものです。

新行)登園管理システム。

野村)登録作業では「全員来ました」と登録しているのです。バスのなかに居残りがいるのに、全員登園したと。先生はそれを見て、園児がいなければ本来は「居ないのではないか」とチェックしなければいけないのに、何もしないで結局、発見するまでに何時間もかかっているわけです。

「システムに登録すること」が仕事になって、本来の確認をしていない ~仕事が形骸化している

野村)何が問題かと言うと、「システムに入力する」ということが仕事になってしまっているわけです。つまり「何のためにやっていた仕事なのか」ということをいつの間にか忘れてしまい、「システムに登録してくださいと言われているから登録しました」となっている。仕事が形骸化しているのです。

新行)形骸化している。

野村)この2つの部分を塞がないと、今回のような事故は防げません。ところが、役所がおそらくまた新しい仕組みをつくっても、「マニュアルをつくりなさい」で終わってしまうのです。それではダメだと思います。

「子どもの安全第一という緊張感を持ち続ける」仕組みをつくるべき

新行)メールもいただいています。我孫子市にお住まいの会社員、“チェチェネコ”さんからです。「幼稚園バスに3歳児が置き去りにされて亡くなった事件について、うちの子と同い年なのでとても悲しいニュースです。うちも妻が子どもをあずけると通知が来るようになっています。ご両親は当日、無事に子どもが登園したものだと思っていたのに、あり得ないですよね。昨日(7日)の会見も危機感がない腹立たしい会見でした」といただきました。

野村)本当ですよね。「危機感」がキーワードだと思いますが、子どもの安全第一という緊張感を持ち続けるような、そういう仕組みをつくらなくてはいけないのです。

新行)命をあずかっているのだと。

野村)まさにその通りです。命を守るためにシステムにも登録しているわけですし、点検もしているわけです。でも、それが仕事なのだということ、子どもの命をみんなで守っているのだというところが、「スポッ」と抜けてしまうのです。これは日本人にありがちなことです。だから書類出しの際、ハンコを押していないことを気にするわけです。「ハンコを押していませんよ」というような。ハンコは気にするのですが、何のために書類を出しているのかはみんな忘れてしまうのですよ。

新行)中身ですよね。

野村)「書類さえ出せばいいのでしょう」と形を整え、全部チェック欄が埋まっていて、ハンコが押してあれば終わりという感じで、何のチェックだったのかはどうでもいいわけです。そうすると、いつの間にか本当に点検しなくても、書類をつくるだけで「仕事が終わった」となってしまう。こういう状態であるのなら、もう1回、緊張感を取り戻す。まさにメールでもいただきましたが、緊張感というのは大事なキーワードだと思います。

通常の運転手が休みで園長が代理で運転 ~より慎重に行うべきだった

新行)園の説明によりますと、バスの運転手が急に休みになり、増田理事長が代わりに運転したということです。理事長と添乗した70代の女性派遣職員が、降車時に乗車名簿と下車する園児を照合する園の決まりがあったのだけれども、それをしなかった。また、2人とも車内に園児が残っていないか確認しなかったということです。「日ごろ、運転していなかったから」という説明があるわけですけれども、人が変わったとしても、お子さんの命を守るという仕事に変わりはないわけですよね。

野村)逆に言うと、いつもやっていない人が代わりに行う場合は、「より慎重でなければいけない」と普通は考えるものです。

新行)そうですよね。

野村)むしろ、そういうときにエラーが起こりやすいわけではないですか。だからこそ二重三重にやらなければいけないのです。いつもと違うから、ミスがないように点検係をもう1人入れるとか、あるいは降りるときに迎えに誰かが出ていて、全員で確認するとか。

新行)いつもより入念に。

野村)そういうことをやらなければいけなかった可能性はあるわけです。ところが、まったく放置されてしまったし、園長先生だったから他の人たちは任せきりにしてしまった。要するに、「上に立って管理する人(上司)がいない立場の人」がミスを犯すことの恐ろしさもあるわけです。そういう点も含めて、より慎重に対応しなくてはいけないことだったと思います。

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