あけの語りびと

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

「旦過 負けるか!」前掛け(写真提供:株式会社 小倉縞縞) (C)TAKAKURA PROMOTION

「北九州の台所」と呼ばれる、小倉の「旦過市場」。その一帯の旦過地区で4月と8月、わずか4ヵ月の間に2度も大規模火災が起きました。1度目は42店舗、2度目はそれを上回る45店舗が被災。昭和30年代に建てられた長屋式の商店は、無残にも焼け落ちてしまいました。

旦過市場は全長約180メートルのアーケードを中心に、横道の路地があり、さらに枝道が伸びています。

迷路のような場内には、魚屋さん、八百屋さん、お肉屋さん、お惣菜屋さん、乾物屋さん、くだもの屋さん。角打ちと呼ばれ、店内で昼間から立ち飲みもできる酒屋さん。お菓子屋さん、お茶屋さん、花屋さん、郷土料理のぬか床屋さん。食堂もあり、飲み屋さんもあります。昭和の風情を漂わせながら、およそ120店舗が肩を寄せ合って働く人を支えていました。

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

写真提供:株式会社 小倉縞縞

昔ながらの対面販売で、裸電球の柔らかい明かりの下、夕餉を買い求めるお客さんとお店の人とのやりとりが見られる……そんな多くの人に愛される旦過地区が2度の火災に見舞われて、被災された方々は「心が折れてしまった」と言います。

それを見て「お金の支援も大事だけれど、心の支援も必要だ」とすぐに立ち上がったのが、「小倉織」の染織家・築城則子さんです。

小倉織は、たて糸の密度がよこ糸の2倍以上ある綿織物で、独特の「たてじま」が特長です。江戸時代は武士の袴や帯として人気がありましたが、昭和初期に一度途絶えてしまいました。それを40年ほど前に復元・再生させたのが築城さんです。

丈夫で滑らか、使うほどに風合いが増してくる小倉織で被災された方々を励ましたいと思った築城さんは、すぐ行動に出ます。

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

小倉織の染織家・築城則子さん 工房織り風景(写真提供:株式会社 小倉縞縞)

北九州と言えば、映画俳優・高倉健さんのふるさとです。今回の火災で焼け落ちた老舗映画館「小倉昭和館」は、高倉健さんの主演作品を数多く上映してきました。

「天国の健さんに力を借りたい!」と思った築城さんは、以前から親交のあった高倉プロモーション代表取締役・小田貴月さんへ、火災の翌日に連絡を取りました。

「健さんが一緒に立ち上がろうと言ってくれたら、どれだけうれしいかな」と築城さんが相談したところ、小田貴月さんから「こんな言葉があるのよ」と言われます。高倉健さんが厳しい映画撮影に挑む際、自分を鼓舞していた言葉……「負けるか、この野郎」です。

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

写真提供:株式会社 小倉縞縞

小田貴月さんの話によると、「故郷・遠賀川流域の石炭採掘で働いていた荒々しい男たちは、『川筋気質(かわすじかたぎ)』と呼ばれていたそうです。高倉は小さいころからそんな光景に触れてきたので、『反骨心が養われた』と本人が言っていました。だから高倉もこの言葉を選んだはずです」とのこと。

「負けるか、この野郎」……「この言葉こそ、いまの私たちの気持ちだ」と築城さんは確信します。小倉織に添える言葉は決まりました。

翌日に連絡を取ったのが、世界的イラストレーターの黒田征太郎さんです。ニューヨークから上海、現在は北九州市の門司に移り住んでいる黒田さんに会って、健さんの言葉を伝え、黒田さんの文字で命を吹き込んで欲しいと頼みます。

快諾した黒田さんは、すぐに13パターンの「負けるか、この野郎」を描いてくれました。しかも無償だったそうです。

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

支援グッズを身につけて、上ちゃんも応援!

次に、北九州出身のグラフィックデザイナー・野口剣太郎さんの手で色や配置をデザインしてもらい、門司にある印刷所で1つ1つ、手作業でプリント。支援グッズの1つである小倉織の「前掛け」が完成しました。2度目の火災発生から10日後のことです。

用意できたのはまだ数枚でしたが、すぐに旦過市場へ届けられました。お店のご主人が真新しい前掛けをギュッと腰に締めると、あふれる笑顔とともに、こんな言葉が出たそうです。

「健さんがくれた言葉に救われたような気がします。この言葉と一緒に、また明日から頑張ります!」

「負けるか、この野郎」……旦過地区の再生は、この言葉とともに始まります。

「負けるか、この野郎」2度の火災に見舞われた地区を鼓舞する「高倉健さんの言葉」

写真提供:株式会社 小倉縞縞

■株式会社「小倉縞縞」オンラインショップ
https://shima-shima.jp

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