月面探査への第一歩……宇宙飛行士候補者決まる

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「報道部畑中デスクの独り言」(第318回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、宇宙飛行士候補者について---

太陽光を模した人工照明で月面のイメージが再現された

画像を見る(全8枚) 太陽光を模した人工照明で月面のイメージが再現された

昨年(2022年)4月から始まった新しい宇宙飛行士候補者の選抜試験。約10ヵ月が経ち、ついに男女2人が候補者として合格しました。

男性は世界銀行上級防災専門官の諏訪理さん46歳、女性は日本赤十字社医療センターの外科医・米田あゆさん28歳です。2月28日、東京・御茶ノ水の「ソラシティ」1階のホールで記者会見が開かれました。宇宙飛行士候補者の誕生に、100人近くの報道陣が詰めかけました。

午前11時40分、チャコールグレイのスーツに身を包んだ米田さんが、やや緊張した面持ちで姿を見せました。一方、諏訪さんはリモートでの参加で、米田さんの隣のモニターに諏訪さんの姿が映し出されました。

記者会見場には多くのカメラが並んだ

記者会見場には多くのカメラが並んだ

諏訪さんによると、電話で合格の連絡を受けたのは会見の24時間前で、夜は気持ちが高ぶって眠れなかったと言います。

諏訪さんは「驚いた。大きな責任を負うことになった。大きなキャリアシフト(過去の経験を活かしながら新しい領域にチャレンジすること)になっていく。しっかり仕事をしていかなくてはいけない」。米田さんは「喜びと驚き、その後、責任感、使命感に身が引き締まる思いがした」と、率直な感想を語りました。

どんな宇宙飛行士になりたいか……そんな質問に対し、諏訪さんは「(先輩の)宇宙飛行士にモチベーションをいただいてきた。自分も同じようなことができれば」。米田さんは「友だち感覚のような、もっともっと身近に感じる宇宙飛行士になりたい」と抱負を語りました。月への飛行についても、米田さんは「道のりは簡単ではない。しかし、可能であれば月に行きたい」と意欲を見せました。

記者会見場には100人近くの報道陣が駆け付けた

記者会見場には100人近くの報道陣が駆け付けた

今回の宇宙飛行士候補者募集は間違いなく、将来の月面探査も視野に入れたものです。私は2人の抱く「月のイメージ」について聞きました。

「日本人にとって特別な思い入れのある、不思議な感覚を与えてくれる天体」

諏訪さんはこのように話します。今回の募集に際し、体を鍛えようと、夜に近所をランニングしていたそうですが、上空に浮かぶ月を見て「あそこに行く宇宙飛行士を選抜するプロセスに自分がいる」という感覚を持ったそうです。

「月はいつも変わらず優しい光を届けてくれる」

こう話すのは米田さん。「月から見た地球はどのように見えるのか、優しく光っているのか。月に立てるのであれば、経験を伝えていきたい」と語りました。

JAXA相模原キャンバスに設けられた宇宙探査フィールド 模擬スタッフがスタンバイ

JAXA相模原キャンバスに設けられた宇宙探査フィールド 模擬スタッフがスタンバイ

1月には神奈川県のJAXA相模原キャンパス内で訓練がありました。宇宙探査フィールドと呼ばれる訓練場所は報道陣にも公開され、そこには山形県からの砂400トンあまりが盛られて、月面を模したスペースが設けられていました。太陽を模した人工照明を当てると、まさに月面のイメージそのものの場面が浮かび上がります。そのなかで、最終選考に残った10人がさまざまなミッションに挑んだわけです。

フィールドに立った感想を英語でレポートするのもその1つ。会見で諏訪さんは「その場で思いついたことを言葉にして、うまく表現するのはなかなか難しい」と苦労談を明かしました。その上で、「漆黒のなかに浮かぶ地球を球体として見ることができたら、どんな思いを抱くのだろう」と感じたそうです。

私の質問に2人は我が意を得たりとばかり、饒舌になりました。この回答は、すでに訓練中に培われたものかも知れません。それぐらい熱の入った“プレゼンテーション”でした。

宇宙探査フィールドを模擬スタッフが歩く ここで諏訪さん、米田さんも試験に臨んだ

宇宙探査フィールドを模擬スタッフが歩く ここで諏訪さん、米田さんも試験に臨んだ

プレゼンテーション……2人にとっては記者会見も訓練の1つ、“面接の延長線上”だったのではないでしょうか。会見は1時間あまり。諏訪さんは「THE 安定」で、会見中はリモート参加ということもあり、音声トラブルに見舞われましたが、終始冷静。何事にも動じない“軸”を感じました。

選考に関わったJAXAの佐々木宏理事は「総合的に判断した。医学的な部分、操作能力、面接・プレゼン能力を見て選んだ」と選抜の理由を話していましたが、諏訪さんの冷静さも合格の決め手だったかも知れません。リアルで会する機会があれば、また違ったイメージがわくことでしょう。

右からJAXA・山川理事長、諏訪さん、米田さん、佐々木理事

右からJAXA・山川理事長、諏訪さん、米田さん、佐々木理事

一方の米田さん、会見では育った場所が京都であることが明かされました。なるほど、はんなりした雰囲気です。角度によっては若いころの岸田今日子さんに似ていると思いましたがどうでしょうか。マイクを両手で握り、回答する姿は誠実さを感じます。

隣にいたJAXAの山川宏理事長の発言を、米田さんはうなずきながら真剣な表情で聞き入っていましたが、宇宙飛行士について理事長が「彼女が言っていたように、より一般的な、身近な存在になっていって欲しい」と述べたときには、“私の思いは間違っていない”……ほっとしたような笑顔を見せていました。

”リモート握手”をする諏訪さんと米田さん 『E.T.』を思い出した(古い?)

”リモート握手”をする諏訪さんと米田さん 『E.T.』を思い出した(古い?)

今回の選抜試験は学歴不問とするなど、応募条件の門戸が大幅に広げられ、当初は4127人の応募が集まりましたが、最終結果は理系出身の2人。諏訪さんはプリンストン大学大学院地球科学研究科修了、米田さんは東京大学医学部卒業です。ある関係者が「応募条件は緩和されても、試験の厳しさは変わらない」と語っていたことを思い出します。

一方、最終選考に残った10人には営業職、コンサルタントなど、自然科学系出身ではない人もいて、JAXAの佐々木理事は「誰がなってもおかしくないレベルだった」と語ります。

今回の選考が宇宙飛行士の能力向上の底上げにつながったかどうかは、まさにこれから。諏訪さん、米田さんの2人はこれから約2年間、宇宙飛行士として認定されるため、さらに厳しい訓練に臨むことになります。(了)

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