「片手で開閉できる」ランドセル開発 孫のために「じいじ」が尽力
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
ピカピカのランドセルを背負った新1年生が入学式を迎える季節。今回は、孫のためにランドセルをつくった、おじいちゃんの話です。
兵庫県豊岡市……城崎温泉や「コウノトリの飛ぶまち」として知られる街に生まれ育った、細川晋さん・62歳。
豊岡市はカバンやバッグの一大産地でもあります。細川さんは25年間カバンメーカーに勤め、10年前の2013年、ずっと憧れだったカフェを夫婦で始めました。
そんなある日、地元の救命救急センターのドクターヘリに乗る看護師さんがお店に来ました。細川さんがかつて鞄職人だったということで、「相談に乗って欲しい」と言われます。
救急現場には医療器材をたくさん持っていくのですが、医療の進歩とともに器材がどんどん増えて、いま使っているバッグでは入りきらなくなってしまいました。しかも使い勝手が悪く、ポケットも少ない。現場の声を活かした「医療救急用バッグ」をつくってもらえないか……という相談でした。
「それなら、私よりカバンメーカーに頼んでみてはいかがですか?」
「もちろん相談しましたが、どこからもいい返事をもらえないんです」
カバンメーカーは、大きな工場で多くの職人さんを抱え、100個~1000個単位でカバンをつくっています。そのため、1個や2個の注文では採算が合わず、「そんな仕事は受けられない」と言われるそうです。
人の命に関わることであり、無下に断ることもできないと思った細川さんは、喫茶店の空いた時間を使って久しぶりにバッグをつくってみました。型紙をつくり、生地を裁断し、ミシンで縫い……だんだん形になるにつれて、モノをつくる面白さが蘇ってきました。
完成したバッグを見てもらうと、「これこれ、こういうバッグが欲しかったんです!」とたいへん喜ばれました。人命救助に役立つことが嬉しくて、細川さんの眠っていた職人魂に火がつきます。
口コミで仕事が増え、本業のカフェを閉じることになった細川さんは、2017年に1個からオーダーメイドの医療救急用バッグをつくる会社「マルスバッグ」を立ち上げました。名前の「晋(すすむ)」に「丸」で「マルス」だそうです。
役所関連の仕事が多く、予算の関係もあって年度末に仕事が集中します。朝8時~夜8時まで不定休で働く細川さんに、「お父さん、無理だと思うんだけど……」と長女から相談がありました。
実は、孫の咲真くんがもうすぐ小学1年生になります。咲真くんは、日常生活に不便はないのですが、右手がちょっと不自由で片手でランドセルのふたを開け閉めするのが難しい。また、重たいランドセルを背負わせるのも可哀想です。
「お父さん、何か考えてみてくれない?」
「おいおい、何を遠慮しているんだ。孫のためなら、どんなに忙しくても俺がランドセルをつくってやるさ。まかせろ!」
去年(2022年)の12月からランドセルづくりを始めました。順調にランドセルが出来上がっていきましたが、懸念だった「片手でのランドセルの開け閉め」をどうするか……難題が残っていました。
さすがの細川さんも「困ったな」と考えあぐねていたとき、たまたまバッグの金具を扱っている業者から「医療救急バッグに使えないか」と、ドイツ製の金具が送られてきました。磁石とひもを組み合わせた「マグホック」という、救急時でも片手でバッグのふたが簡単に開けられる金具です。
ひもを引っ張ると「パカッ」とふたが開き、ひもを放すと元通りに閉まります。「これはランドセルに使える!」とすぐに孫を呼び寄せ、マグホックを試してみたところ、「じいじ、これいいよ!」と目を輝かせました。
改良を重ね、素材も見直しました。通常のランドセルは1キロをゆうに超えますが、細川さんがつくったランドセルは870グラム。軽量化にも成功しました。教科書やノートの重みでランドセルが肩からずり落ちないように、孫の体型に合わせて肩ベルトをカーブさせるなど、日本に1つだけのオリジナルランドセルが完成しました。
じいじがつくってくれたランドセルにたくさんの夢や希望を詰め込んで、咲真くんは4月10日に入学式を迎えます。
■マルスバッグ
住所:兵庫県丹波市柏原町柏原34 田中ビル2F
電話:0795-86-8212
営業時間:8:00~20:00
定休日:不定休
■「マルスバッグ」ホームページ
https://marusubags.deci.jp/
■「マルスバッグ」YouTubeチャンネル(製作工程)
https://youtu.be/w0BlHWkmqZU
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