自動車市場、中国で何が起きているのか?(後編)

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「報道部畑中デスクの独り言」(第334回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、中国からの視点で見る世界の自動車市場について---

BYDの電気自動車「アットスリー」(2023年1月 東京オートサロンで撮影)

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世界の自動車市場、自動車産業、中国からの視点で見ると、日本国内とは全く違う景色が見えてきます。これはむしろ、日本にいるだけでは肝心なことが見えてこないとさえ感じます。ジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰さんとの話を進めていくと、その理由が見えてきます。

「日本に入ってくる情報は、結果とプロセスのなかの“失敗例”が多く、すごく極端な判断になっている。本当に淘汰されるために生まれてくるような企業があって、雨後のたけのこのようにEVメーカーが出てくる。そのなかに必ず電池が爆発したり、ハンドルが効かなくなって崖から落ちたなどが必ず出てくるが、そういうニュースは日本に入ってくる。しかし、そうではなく着々とやっていることは意外と入ってこなくて、いきなりいいものがどんと出たときにニュースとして入ってくる」

もちろん電池爆発や事故の発生は安全性に関わることであり、断じて容認できることではありませんが、こうした中国社会のあり方は別にして、玉石混交、過当競争のなかに磨かれていくプロセスは、中国の持つダイナミズムであることは認めざるを得ないようです。そんな中国は日本市場をどのように見ているのでしょうか。

「ガソリンエンジンをつくったら、いまの段階でも、何年かかっても追い抜くのはなかなか難しいとみていると思う。ガソリンエンジンの車と電気自動車は全く別物で、自分たちは新たに生まれてくる新しい市場に入ったと。そこにはガソリンエンジンは存在しないような発想ではないか。実は日本の自動車メーカーに対するリスペクトはすごくある。だからこそ、EVだから自分たちの時代が来たとみていると思う」

中国の自動車市場は今後どうなるのでしょうか。富坂さんの展望には、まさに日本の自動車メーカーの持つ危機感が映し出されていました。

BYD「アットスリー」の室内

BYD「アットスリー」の室内

「これは非常に面白いのだが、自動車産業なのか……ということではないか。自動車が“走る家”になってくる可能性がある。主体が逆転する、いわゆる情報産業との綱引きもあるだろう。例えばバスも路線が決まらないバスが出てきてもおかしくない。乗っている人のいちばん近いところを通っていきながら行くようなこともあり得る。そういう発展の仕方が自動車産業ということで収まっていかないのが、多分これからの中国の自動車メーカー。総合的な生活の場になっていく可能性がある」

いま、トヨタやVW(フォルクスワーゲン)に代表される巨大自動車メーカーを、BYDや吉利などの中国勢がしのぐ時代が来るのか……富坂さんは「絶対に来る」と断言します。

「日本市場でどうかというとそうではないと思うが。輸出された自動車の数は、実際には中国がトップ。原動力は完全にEVになっている。これは来ないというように考えない方が、逆にいいのではないか」

では、そうなったとして、日本の自動車産業に活路はあるのでしょうか? 富坂さんの展望です。

「EVの次に来るのは何かということで、そこにめがけて一気に動く方が早いような気がする。それが何か、頭のなかにあるわけではないが、次を考えたときに、名前も聞いたことのないような企業がスタートアップで出てきて、短期間で化けるような、こういう体質を日本全体でつくって中国に対抗していくのがある意味、理想だと思う」

日本の自動車産業にとっては厳しい指摘が続きましたが、世界の自動車を取り巻く環境を示しており、あるべき方向性の1つと言えるかも知れません。

日産自動車・内田誠社長(第1四半期決算会見 日産公式YouTubeから)

日産自動車・内田誠社長(第1四半期決算会見 日産公式YouTubeから)

リープ・フロッグという言葉があります。「カエルの一足飛び」と訳されますが、ITなどの分野において、先を行く勢力に追い付くのではなく、飛び越える……その譬えとして使われます。

日本の電動化技術は決して低いとは言えませんが、仮にEVの先にあるものがあるとしたら……燃料電池に代表される水素社会なのか、別のエネルギーなのか。内燃機関の巻き返しがあるのか、あるいは空飛ぶクルマのような自動車の枠を超えた新機軸なのか……そんな時代に備えて、日本にリープ・フロッグのパワー、ダイナミズムが生まれるのか、注目されます。

大きく変貌を遂げている中国の自動車市場。日産自動車の内田誠社長は先月(7月)の第1四半期の決算発表で、新型車投入を急ぐ考えを示しました。

「市場全体ではローカルブランドのシェアはここ数年で大幅に増加しており、新エネルギー車についても幅広い選択肢をしっかりと提供していくことが大変重要。日産ブランドに新エネルギー車のラインナップを前倒しで投入していく」

日本メーカーで最も中国への依存度が高いとされる日産は対策が急務で、秋の中期経営計画にも具体策が反映されるということです。

中国からの視点、いわば隣の大国を知ることは、「100年に一度の大変革」の時代をどう生き抜くか、これからの戦略には欠かせないことであると思います。(了)

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