セダンは時代とともに……
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「報道部畑中デスクの独り言」(第343回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、「セダン」という車種について---
先月(9月)の小欄で、トヨタ自動車のフラッグシップ「センチュリー」新モデルの話題をお伝えしました。見た目はSUVのようでしたが、トヨタは頑なに否定。私は新しいセダンのカタチではないかという持論を展開しました。
セダンという車型は、17世紀ごろの欧州で使われていた上流階級の人物=VIPを人力で運ぶためのいす付きのカゴ……これを「セダンチェア」と呼んでいたことに由来します。転じて、現在では主に駆動部、乗員室、荷室が分けられた3ボックスの乗用車をセダンと呼ぶようになりました。先月の小欄で申し上げた通りです。
さて、私は「主に」と申し上げました。つまり、これ以外のセダンというのも当然あるわけで……今回はそれについて掘り下げます。
まずは「主な」セダン……真っ先に思い浮かぶのは、乗員室と荷室に段差がある「ノッチバックセダン」ではないでしょうか。ノッチとは「切れ目」「段差」の意味。段差があって両者がはっきり分かれているように見えるため、このように呼ばれます。
これに対し、段差がはっきりせず、屋根とテールがひと続きに傾斜しているものは「ファストバックセダン」と呼ばれます。これら2つのセダンは、乗員室と荷室に隔壁があり、(スルー機構を持つものもあり)荷室のドアがトランクリッドになっています。
一方で、荷室の扉が跳ね上げ式になっているのは「ハッチバック」。船の甲板から船室につながる入口=ハッチに由来するもので、宇宙船から宇宙ステーションに入室する際に開けるドアもハッチと言います。
ハッチバックの多くは乗員室と荷室の間に隔壁がなく(トノカバーで後席から荷物が見えないようにする仕掛けもある)、以前はセダンとは明確に区別されていましたが、最近は「ハッチバックセダン」と呼ばれることもあります。
また、ハードトップという車型があります。オープンカーの屋根(幌)=トップが柔らかい布製なのが“ソフト”トップ、金属でできた硬い屋根が“ハード”トップ(またはメタルトップ)です。乗用車でもこれに似ている車型がハードトップと呼ばれるようになりました。
側面中央の柱(Bピラー)がなく、ドアの窓枠もありません。よって「ピラーレス・ハードトップ」と呼ばれることもあります。窓を全開にすると邪魔なものがなく開放的というのが売りで、特に4ドアハードトップはおしゃれなイメージもあり、かつて大流行しましたが、衝突安全性や剛性の面で劣るとされ、最近はあまり見なくなりました。
このハードトップ、経緯からBピラーがないのが本来の姿ですが、強度を保つためにあえて柱をつけた車型もあり、これは「ピラードハードトップ」「サッシュレス(窓枠のない)ドアのセダン」と呼ばれました。ピラーがないという定義なのに「ピラード」とはこれいかに? ですが、これらも現代はセダンの一種に数えられることがあります。
逆に、セダンと“名乗らせた”ケースもあります。日産自動車ではかつての大衆車サニーの派生車種として、1979年に「サニー・カリフォルニア」が登場しました。商用車のバンとは明らかに違う後部ドアのスタイリッシュな傾斜、リアサスペンションもバンの定番のリーフ(板ばね)式ではなく、セダンやクーペと同じ4リンクコイル式という本格的なものでした。
当時、アメリカのステーションワゴンで流行していた、車体側面の木目調パネル(オプション)も新鮮で、黄色のボディと相まって明るい「カリフォルニア」の雰囲気を狙ったのでしょう。
しかし、当時もステーションワゴンにしか見えなかったこの車種を、日産は「5ドアスポーツセダン」と銘打っていました。当時のワゴンはバンと変わらぬメカニズムに装備や加飾でお茶を濁していたものも多く、“お手軽ワゴンとは違う”という矜持からの命名であったと思われます。
同じく、日産からは1982年、新たなジャンルの車種が登場します。多人数が乗れる乗用車としてワンボックスカーが主流だった時代に、ボンネットのある背の高い乗用車が発売されたのです。車名は「プレーリー」。日本ではいまやすっかり定着した「ミニバン」の草分け的存在のクルマです。
後席と荷室の隔壁はありません。しかし、日産はこの画期的な車種を広告では「びっくり BOXY SEDAN(ボクシーセダン)」というキャッチコピーをつけていました。ミニバンという概念が日本になかったころ、日産は新しいセダンとして提案していたことになります。
つまり、セダンと一言で言っても多種多様であり、時代の流れやメーカーの都合で解釈されてきたものもあるということです。それをセダンと決めるのは、結局はユーザーということになるのでしょうが……。
ただ、セダンに一貫しているのは冠婚葬祭に使えるフォーマルさ、クルマとしての「基本」というイメージだと思います。冒頭のセダンチェアのそれと、昔もいまも変わらないのかも知れません。そういう意味では、センチュリーの新モデルも、いつかはセダンとして認知される可能性があるのではないか……先月の小欄に至った次第です。
「セダン離れ」と言われて久しいなか、日産自動車の星野朝子副社長は昨年(2022年)夏の新車発表会の席で、セダンについてこのように話していました。
「これぞ日産のセダンというものがつくれたときには、皆さんの前に日産のおもしろいセダンが登場するかも知れない。期待していいと思う。“日産、こう来たか”というような技術で、日産のセダンができるようになったときに、新しいセダンの世界が展開できると思う」
セダンとは何か……カタチだけでないもっと柔軟な発想があっていい……復権のカギはそこにあるような気がしますが、いかがでしょうか。(了)
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