慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が2月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。上川外務大臣がG20外相会合で表明したパレスチナ支援について解説した。
上川外務大臣が48億円のパレスチナ支援を表明
上川外務大臣は2月21日、訪問先のブラジル・リオデジャネイロで主要20ヵ国・地域(G20)外相会合に出席し、イスラエル軍の攻撃で人道状況が悪化しているパレスチナ支援として新たに3200万ドル(約48億円)規模の無償資金協力を検討していると発表した。
飯田)上川大臣はハマスのテロ攻撃を非難した上で、ガザの人道状況について「深刻に懸念している」と述べました。
細谷)今回の国連安保理決議では、アメリカが拒否権を行使する形となり、孤立しています。国際社会が結束してウクライナ情勢に対処しなければならないのですが、中東のパレスチナ問題ではアメリカが停戦に反対して孤立し、アメリカの国際的な威信に傷がついた。同時に中国・ロシアなどはそれを利用してパレスチナ側を支持し、「アメリカこそが戦争をしている」というようなプロパガンダの道具にする可能性があります。
飯田)当初はイスラエルの自衛権に対して支持もあったわけですが、「やりすぎではないか」という流れになっています。
細谷)日本はこれまでも政府開発援助(ODA)などで、パレスチナ支援を行っています。アメリカと日本の役割分担ではありませんが、日本において中東問題は国内問題、政治問題になりにくいので、中立的な立場から人道支援を行えるのは大きいと思います。
今回のように日本が「パレスチナを置き去りにしていない」というメッセージを出すことは重要
飯田)90年代には、パレスチナ自治政府とイスラエルの2国家で共存する形が理想だとして、「オスロ合意」が結ばれました。ただ、なかなかここには至らないですね。
細谷)2国家共存は既に破綻しているのです。ハマス側はオスロ合意に反対していますし、イスラエル政府も、特にネタニヤフ政権では批判的な声が強い。「だからこそ『2国家解決』でパレスチナ国家をつくらなければいけない」というイギリスのような立場がある一方、イスラエルが勢力を拡大するなか、「従来のオスロ合意の実現は難しい」とする国もあります。いまは岐路に立たされている状態かも知れません。
飯田)かつては中東各国において「アラブの大義」と言われた時期もありましたが、一方でサウジアラビアとイスラエルなど、関係を改善しようとしている国もあります。いままでの常識が通用しなくなっているのでしょうか?
細谷)トランプ政権が水面下で動いたアブラハム合意によって、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどが接近したわけです。これによってハマスが孤立したのだと思います。この5年ほど、中東情勢の大きな変化のなかで、パレスチナ問題が置き去りにされてしまった。それに対して異議申し立ての声を上げたのが、今回のきっかけだったと思います。そういった意味でも、日本の支援のような形で「パレスチナを置き去りにしてはいない」というメッセージを出すのは重要だと思います。
「中国に対抗するため、アメリカの限られたリソースをアジアに集中投入するべきだ」という意見も
飯田)中東が混乱すれば得をする国として、イランという存在が見えてきます。いろいろな形で反政府組織などを支援していますよね。
細谷)かつては国際社会が結束していたからこそ、イランあるいは北朝鮮に対する制裁決議ができたわけです。言い換えると、国際社会が分裂すればするほど、イランや北朝鮮への制裁は難しくなる。その結果、外交が活発化し、北朝鮮とイランが率先してロシアに兵器や弾薬を提供する国になっています。国際秩序がますます分裂し、法の支配が崩れてきている1つの兆候だと思います。
飯田)中東が混乱し、ウクライナ情勢もあり、アメリカは3正面を強いられる状況になります。東アジアで暮らす身としては、ここを安定させるのが日本の国益にもつながるのですか?
細谷)日本もそうですが、アメリカのなかでは「中国に対抗するため、アメリカの限られたリソースをアジアに集中投入するべきだ」という意見もあるのです。一方、アメリカが世界のリーダーとしての責任を果たさず、ウクライナや中東の問題を放置すれば、世界における法の支配が崩れ、結局は「アジアでも中国がより積極的に軍事行動を起こしやすくなる」という議論があります。どちらも一理あるので、アメリカ国内でも意見が分かれている状況だと思います。
政治的に二極化し、アメリカ政治の見通しが悪くなっている
飯田)アメリカは大統領選を控えています。どちらの政権になるかによって政策は変わるのでしょうか?
細谷)共和党・民主党とも内部が分裂しており、世代的にもかなり分かれています。特に民主党の若い人たちはパレスチナ寄りの意見が強い。また、若い人ほど国際社会でアメリカがグローバルなリーダーシップを果たすことに対し、やや躊躇しています。80年代のレーガン大統領の時代は、「偉大なアメリカ」として世界でリーダーシップを発揮し、冷戦を終わらせたと言われていました。アメリカの年配世代と若いZ世代では、世界の見え方が違うのかも知れないですね。
飯田)アメリカも世界のなかの一国であり、「普通の国に戻るのだ」という感じになっているのでしょうか?
細谷)そういう考え方が底流にあるので、民主党・共和党ともに党内で分裂があり、さらに世代で分裂し、経済格差も広がっている。政治的に二極化しているので、アメリカ政治の見通しがわかりにくくなっているのかも知れません。
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