双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦が3月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。マイナス金利解除で調整に入った日銀について解説した。
日銀がマイナス金利解除で調整か
日本銀行は3月18・19日に開く金融政策決定会合で、「マイナス金利政策を解除する方向で調整に入った」と時事通信が伝えた。2024年春闘で大企業を中心に2023年を大幅に上回る賃上げ回答が相次ぎ、2%の物価上昇目標の持続的実現の確度が高まったとの見方を強めている。連合が15日に回答する第1回集計結果を確認した上で最終判断する。マイナス金利解除となれば、17年ぶりの利上げという見方もできる。
「満額回答」が続き、連合の第1回集計結果は最終結果と変わらない ~第1回集計結果で決断してもいいのでは
吉崎)祭りが始まりましたね。私も3月か4月のどちらかだと思います。確率的に言うと、3対7か4対6ぐらいで「4月だろう」と感じたのですが、昨日(14日)が春闘集中回答日で、きょうはその集計結果が出るのです。20年ぐらいエコノミストをやっていますが、連合のホームページを見たのは去年(2023年)が初めてでした。そもそも賃上げが起きるなんて思っていなかったし、春闘が重要な役割を果たすとも思っていませんでした。ところが、最近ずっと「賃上げがなければデフレから脱却できない」という方針だった。今回、連合の第1回集計結果が出ますが、実は7回繰り返すのです。最後の結果が出るのは7月です。
飯田)そんなに先なのですね。
吉崎)ただ、1回目の答えと最後の答えはほとんど一緒で、変わりません。おそらく昔は労使で揉めることがたくさんあったので。
飯田)「まだ出ない」があったから。
吉崎)そのために何度もやるのですが、今年(2024年)は一発回答、満額回答ばかりです。日本製鉄などは要求以上に上乗せしており、揉めるはずがありません。おそらく、きょう(15日)出た数字でほぼ最後まで行くでしょう。であれば、日銀は「きょうの結果を見て決断してもいいのでは」と思います。
第1回集計結果で賃上げ率4%台の答えが出ても日銀が動かなければ、「何か理由があるのか」と疑われる可能性も
吉崎)マーケットの予想は平均賃上げ率3.7%ですが、そんなもので済むはずがありません(※編集部注:連合の15日の発表によると、ベア・定昇を合わせた賃上げ率は平均5.28%)。発表された数字を見て来週日銀が動かなかったら、「何か理由があるのか?」という反応を招いてしまうわけです。
飯田)逆に疑われてしまう。
吉崎)「4月まで待ちましょう」となれば、円安が進む恐れが出てくる。日本銀行的な発想では、「賃上げがこんなにある」となると「待て、地方の声も聞こう」という話になります。
日銀判断が4月より早まる可能性は「五分五分」
吉崎)4月1日に重要な日銀短観が出ますので、企業の採用動向も見たい。そして4月4日には、日銀の全支店長が本店に集まる支店長会議が予定されています。地方の状況を聞き、その上で決断するのが日銀的には正しい作法です。植田さんは慎重な方なので、「4月かな」というのがいままでの予想でしたが、五分五分ぐらいになってしまったので、週明けの新聞は大変ですね。どこがどう書くのか。
飯田)最近は紙面のみならず、各社「電子版で先に」という流れもあります。
吉崎)ピリピリしていると思いますよ。
飯田)夜中から先物でも相場が動きますからね。
吉崎)為替も何円か動いてもおかしくありません。
日銀の金融政策決定会合が4月25・26日で、補選が28日
飯田)政治的な話をすると、4月には補選がありますよね。
吉崎)日銀の金融政策決定会合が4月25・26日で、補選が28日です。これがまた微妙なのですよね。
飯田)直後というか。
吉崎)「いまのうちにやれるのなら、やっておいた方がいいかな」という方向も、わからなくはないですよね。
飯田)1回冷やして円高に振れておき、ジリジリ戻れば「マイルドでちょうどいい」と。
為替と株とを見ながらの神経質な動き
吉崎)マーケットがどう受け止めるかにもよりますが、かなり前から「マイナス金利解除」と言われ続けてきたので、肯定的な評価になると思います。利上げであれば株は売りかと言うと、「いや、我々は正しい道筋にのっている」という評価の方が強くなるのではないでしょうか。
飯田)一時4万円に乗り、そこから利益確定の局面になっていますが、もう一段上がる可能性もある。
吉崎)最高値から3円ほど円高に振れたのですよね。そうすると株価の方は少し下げる。日経平均が2月22日に最高値に到達した1つの理由は、みんなが考えなかったくらい円安に振れたことです。150円にもう1回戻ったことが大きいので、「為替と株とを見ながらの神経質な動き」になると思います。
よくない数字の実体経済 ~物価高の影響でコロナ禍の強制貯蓄も積み上がったまま消費されず
飯田)株や為替はそういった思惑も含めて動きますが、実体経済の部分では、例えば企業物価があまり伸びていません。修正されたGDPの数字を見ても内需はよろしくないようですが、いかがですか?
吉崎)実体経済の数字は確かによくない。政府が毎月出している月例経済報告の2月の基調判断は、下方修正ですからね。特に問題は消費で、やはり物価高が効いています。物価が上がることに日本の消費者は慣れていない。私も覚えがありますが、脳内物価というものがあり、「昔は160円だったのに、なぜいまは210円なんだ」などと思ってしまうのです。210円が払えないわけではなく、違和感をみんな引きずっている。そうすると「きょうはいいや」となってしまって買わないのです。
飯田)「100円台の牛乳がなくなったぞ」と。
吉崎)私は去年の夏ぐらいまで、日本にはコロナ禍で使えなかった貯蓄率の上振れが約50兆円あり、それが消費に回るので「消費はよくなる」と説明していました。しかし、計算を見るとほとんど使っておらず、積み上がったままです。アメリカ人はほぼ使い果たしていますが。アメリカの消費の凄さですね。
飯田)それがあのインフレ率につながった。日本人の場合、この堅実さがいいのか、悪いのか。
吉崎)結局、インバウンド頼りの消費になっているのです。
飯田)好循環まではあと一歩ですか?
吉崎)賃上げ後の消費にも注目したいですね。
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