【嶋浩一郎さん】 “無駄”こそがクリエイティブ。企画やアイディアを生み出すのに一番大切なこととは?

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『スルミ presents トップジャム』は、ビジネスのトップシーンで活躍する方や気になる時事問題を読み解くスペシャリストを毎回ゲストに迎えて、お話をうかがっていく番組です。

今回のゲストは、博報堂執行役員の嶋浩一郎さん。企画の立ち上げやPRなどに長年携わられてきた嶋さんですが、本屋大賞を設立したり本屋さんを経営していることでも知られています。広告とは一見関わりがなさそうに思いますが、実はそうでもなさそうです。
さて、いったいどんなお話が聞けるでしょうか。

【嶋浩一郎さん】 “無駄”こそがクリエイティブ。企画やアイディアを生み出すのに一番大切なこととは?

福田:本日のゲスト、博報堂 執行役員 嶋浩一郎さんのプロフィールをさっそくご紹介したいと思います。嶋浩一郎さんは東京都出身。1993年に博報堂に入社し、コーポレートコミュニケーション局で企業のPR活動に携わります。2004年には本屋大賞の立ち上げに参加し、2006年には既存の手法にとらわれないコミュニケーションを行う博報堂ケトルを設立。カルチャー誌『ケトル』やニュースサイト「赤坂経済新聞」で編集長を務めるなど、メディアコンテンツの制作にも積極的に携わっています。
これまで数々のアイディアを企画として立ち上げてこられた嶋さんですが、翼さんは何から聞いていきたいですか。

石塚:本屋大賞は、本屋さんを活性化させるために作られたんでしょうか。

嶋:本屋大賞って自分だけが作った仕事っていうよりは、全国の本屋さんと一緒に作った仕事なんです。僕、本屋ってすごい大好きで。日常生活の中で知らない情報とか知らない物語に出会える場所って本当にあると幸せじゃないですか。それまでいろんな文学賞があったんですけど、作家が作家の作品を選ぶみたいなところがあって。作家がマニアックな視点で選ぶのもいいとは思うんですけども、読者のことを一番よく知ってる書店員の人が「これが面白いよ」「自分も読んだけど、お客さんも読んだら面白いと思うよ」って言ってくれる本が実は一番面白いんじゃないかなっていう。それでこの出版不況のなか、本の目利きにみんなで頼ってみようと。本屋さんひとりひとりも、出版不況に対してやれることがないか、みたいなことを考えている方がいっぱいいたんで、本屋さんの視点で盛り上げていこうって。

これは、全国の本屋さんが自分で読んでお客さんにも読んでほしいなっていう本を投票して選ぶんですね。本屋大賞のすごいところは、選ぶことより、その後、みんなで頑張って売るっていうところで。全国の本屋さんがその本を仕入れて自分で売り場を作って、「本屋大賞です」って言って売っていく、っていうところがポイントだなっていうふうに思うんですよね。

【嶋浩一郎さん】 “無駄”こそがクリエイティブ。企画やアイディアを生み出すのに一番大切なこととは?

福田:そういった企画を生む中で、嶋さんが大事にされてることやポイントはあるんですか。

嶋:「実はみんなこう思ってた」ってことを発見するのがすごい大事かなと思ってて。本屋大賞も作家が選ぶ本もいいと思うんですけども、「それちょっと難しいかな、やっぱり」みたいに思ってる人がいるかもしれなくて。それより本屋さんが自分と同じ立場で選んでくれた本の方がいいかな、みたいなことが世の中にいっぱいあると思うんですよね。だから「実はこう思ってた」ってことを見つけるのが、本当に企画のキモかなって。

博報堂ケトルの仕事で「絶メシ」って企画があるんですけども。これ、元々は高崎市さんが町の振興のために何かやれないかっていうご相談で始まってます。普通は観光の活性化を考えると、大きいお祭りをやったり施設を作ったりみたいなことになっちゃうんですけど、自分たちが旅行行ったら普通に町の人が地元で行くような居酒屋さんに行った方が楽しかったりするのに、仕事になると大型の観光施設作ろうとかって言っちゃったりするじゃないですか。

なので、地元の個人営業のちっちゃい飲食店を観光資源に使うのが一番で、本当は多くの人が楽しいと思うんじゃないかと。それで「絶メシ」っていうコンセプトで、個人経営の店が後継者不足で悩んでるってとこも含めてみんなで応援しようとウェブサイトを作ったらすごいお客さんが来てくれるようになって。テレビ東京さんでも「絶メシロード」ってドラマ化されたりしました。

僕ら、マーケティング用語で「インサイト」って言いますけど、実は本音ではこう思ってたみたいなことの発見ってすごい大事なんじゃないかなと思うんですよね。

【嶋浩一郎さん】 “無駄”こそがクリエイティブ。企画やアイディアを生み出すのに一番大切なこととは?

石塚:日本って、本がこれだけあって、本屋さんがあって、好きな本を読むことができるって、私たちは当たり前ですけど、これは出版の自由があるから、言論の自由があるから、自由の象徴だと思っていて。私は子供の頃から本屋さんに何度も行って、ひと月30冊ぐらい読んでた文学少女だったんです。だから嶋さんが下北沢で本屋さんをやられていたり、本にこだわってる理由って何なのかなと思って。

嶋:僕、無駄なものが大好きなんですよ。人が価値を感じないものとか分類されてないものとかすごい大好きで。分類されてるものって誰かが価値を感じてるから、名前がついてたりとかフォルダに入れられてたりする。でも結局、イノベーションとか新しいアイディアは、みんなが注目しているものより、みんなが今注目してないものから生まれてくるじゃないですか。だから、端っこのものとか分類されてないものが大好き。つまり無駄なものがいっぱいある世の中の方がクリエイティブな世の中になると思ってます。

皆さん、本って価値のあるものとか思ってるけど、僕は基本、無駄なものだと思ってるんですよね。読むまで役に立つかどうかわかんないし。だからそういう無駄なものが増えてるっていうのが本屋の素晴らしいところだと思っていて。

福田:今思い出したんですけど、高校時代のミシマっていう同級生がすごく本が好きで。本はネットでも買えるけど、本屋に行ってわざわざ本を買う理由は出会いがあるから。ジャケットを見て買いたくなったり、タイトルを読んで買いたくなったり、っていう出会いがあってわくわくするからあの場が好きなんだよね、っていうふうに言ってて。

【嶋浩一郎さん】 “無駄”こそがクリエイティブ。企画やアイディアを生み出すのに一番大切なこととは?

嶋:わかる。何と出会うかっていうと、実は自分と出会うんですよね、本屋で。人間て自分の欲望とか興味関心を言語化できないんですよね。だけど本屋って、自分が欲しいものがすごくわかりやすい場所なんですよ。町にある駅前の本屋とか本当にちっちゃいと、10分ぐらいで全部見れちゃうじゃないですか。でも、10分で見れちゃう空間の中に、恋愛小説はあるわ、経営者の本はあるわ、歴史の本はあるわ。自然科学の本、法律の本もあるし、経済の本はあるし、経営者の哲学の本もあるし。世の中を構成するありとあらゆる本が山ほど詰まってるわけじゃないですか。僕が思ういい本屋の定義は、買うつもりのなかった本を買っちゃう本屋。店に入る前に、この本を買おうって一言も言語化してないのに、本屋のなかを歩いてる間に見つかっちゃうじゃないですか。まさにさっき言ったように、ちっちゃい空間でものすごい情報量を浴びれるんですよね。だから、例えば待ち合わせの時間が5分あるとき、目の前の本屋に入ったら発見があるかもしれないって思うんです。

福田:次から待ち合わせは本屋にします! 最後にお知らせがあればお願いします。

嶋:博報堂に入ったとき最初、PRパブリックリレーションズの部署に配属されたんですけど、PRっていうのはコミュニケーションや合意形成の技術としてすごく大事だなと思ってるんです。去年、「「あたりまえ」のつくり方 ——ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書」っていう本を書きました。世の中にキャッシュレスとか2拠点生活とか、今までなかった当たり前がどうやって浸透していくのか、そのメカニズムとか、それをより進めるための補助線の引き方みたいなことをまとめた本です。マーケティングとかPRに興味のある方は読んでいただければと思います。

番組情報

スルミ presents トップジャム

毎週木曜日21:00-21:30

番組HP

フリーアナウンサー・福田典子が自身初のレギュラーラジオパーソナリティに挑戦!

「ビジネスの“トップ”が、ラジオで“ジャム”る(トークセッションする)番組」という意味が込められており、社会に新たな風を吹き込むビジネスシーンを紹介していきます。

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