トランプ関税、電動化戦略……、決算会見からみえた自動車各社の姿
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第420回)
今月初めは各企業の決算ラッシュで、自動車各社も大型連休の後、相次いで決算を発表しました。苦境にある日産自動車については小欄でも随時お伝えしていますが、他社についても今回改めてまとめます。各社の決算会見はアメリカの関税措置の影響をはじめ、まさに自動車業界の“いま”を映し出すものであったと思います。

トヨタ自動車の決算説明会(中央が佐藤恒治社長)
■泰然自若のトヨタ、HV戦略で自信のホンダ
まずは国内最大手のトヨタ自動車、2024年度決算で売上高は48兆円を超えて過去最高でしたが、純利益は3.6%減って4兆7650億円、去年はグループの不正問題のほか、いわゆる「人への投資」が影響したということです。
「基本動作を徹底することの大切さを改めて実感した。収益構造の変化が形となって表れた決算だった」
トヨタの佐藤恒治社長はこのように語ります。しかし、4兆円を超える純利益は他社から見るとまさに盤石に見えます。
一方、25年度の連結業績予想は純利益を3兆1000億円と見込みます。前期に比べて34.9%の減少。トランプ関税の影響は4月と5月の2カ月分のみを織り込み、営業利益1800億円を押し下げると予想しています。仮に影響が1年間続くと仮定すると、影響は単純計算で1兆円を超えることになります。
「先を見通すのは難しい。一番大事なのはとにかく軸をぶらさず、じたばたせずに、しっかりと地に足をつけてやれることをやっていくということ」(佐藤社長)
短期的には仕向け地の調整、中長期的には地域地域で商品を現地開発・現地生産で行っていく意向を示唆しました。また、かつて「石にかじりついてでも」と話していた300万台という国内生産体制については「揺るがずに守っていきたい」と語り、維持していく考えを示しました。
続いてはホンダ。こちらも24年度は売上収益が21兆円を超えましたが、純利益は前期より24.5%減って8358億円。一方で25年度の連結業績予想は営業利益5000億円、純利益を2500億円と見込みます。純利益は前期より70.5%の減少です。関税の営業利益への影響は6500億円と見込みます。
「短期的には完成車のアロケーション(生産配分)を最適化していく。長引く場合、アメリカ国内の生産能力を増やしていくなど、いろんなスタディはすでに始めている」
対策について三部敏宏社長はこのように話しました。なお、ホンダは二輪で絶対的な強みがあります。さらにトヨタとは構造が違うものの、「e:HEV」という競争力のある自前のハイブリッド技術を持ちます。経営基盤には自信を示しています。
「為替・関税の影響がないと、今期も1兆4000億円以上を稼ぎ出せる体質はある。(営業利益)5000億円はボトムとみていて、ここからどこまで上積みできるか」(三部社長)

ホンダ・三部敏宏社長(オンライン画面より)
■マツダとSUBARU 業績予想見送りも地道なブランド戦略で勝負
一方、マツダとSUBARUは「現時点で合理的な算定が困難」として、25年度の業績予想を見送りました。両社ともアメリカ向けは輸出に多くを依存しており、苦境は予想されていました。ただ、マツダには商品力やブランド、SUBARUは今後の新車攻勢で乗り切りたい構えです。
「(2024年度)の売上高は初めて5兆円を突破した。北米の販売が好調だった。ラージ商品(大型系の乗用車)が堅調に伸びた。販売の足腰がしっかり強くなったことを確認できた」(マツダ・毛籠勝弘社長)
「今年度は商品力の高い新型車を出せる準備は整っている。販売台数とインセンティブ(販売奨励金)とのコントロールを緻密にやりながら泳いでいく。アメリカの販売会社にその辺にたけた連中がいっぱいいる」(SUBARU・大崎篤社長)
関税による営業利益への影響はSUBARUがおよそ3700億円、マツダは4月の営業利益に限って90億から100億円としています。

左上:スズキ・鈴木俊宏社長、右上:マツダ・毛籠勝弘社長、左下:SUBARU・大崎篤社長、右下:三菱自動車・加藤隆雄社長(いずれもオンライン画面より)
■共同生産で活路を見出す三菱自、我が道を行く好調のスズキ
三菱自動車も東南アジア中心の戦略で、アメリカ市場はほとんど輸出に頼っていますが、提携する日産自動車のアメリカの工場でSUVを共同生産する検討を始めました。
「両社にとってウィンウィンとなる非常に前向きなプロジェクトではないか」(加藤隆雄社長社長)
日産の工場の稼働率向上、三菱の現地生産への足がかり……、利害が一致したと言えます。関税の影響は400億円とみており、日産との協業による現地生産で緩和したい考えです。25年度の業績予想は売上高2兆9500億円、営業利益は前期より28%減の1000億円、純利益は2.4%減の400億円を見込んでいます。
そして、スズキ、こちらはアメリカ市場には現在参入していません。24年度の決算は好調で売上高は5兆円超え、純利益も前期より31.2%増えて4160億円と過去最高となりました。しかし、関税の影響、今後について鈴木俊宏社長は厳しい見方を示しています。
「まわりまわって、影響は随時出てくると考えている。安定した状況であるという立ち位置ではない。(トランプ政権の)一挙手一投足に右往左往していてもしょうがない」
まさに「勝って兜の緒を締めよ」というところでしょうか。戦略は違えど、トヨタと同じ姿勢を感じます。25年度の業績予想は前期より32.1%減少の3200億円という見通しを示しています。
トランプ関税の影響については減益予想、業績予想見送りと各社温度差はあるものの、それぞれの強みで乗り切るとともに、生産体制の維持、雇用の確保などで今後への覚悟を示しているように感じます。

日産・イヴァン・エスピノーサ社長(日産本社で撮影)
■日産の苦境に見る“潮目”を読む難しさ
さて、最後は小欄でも再三お伝えしている日産自動車。24年度決算は6708億円の最終赤字を計上しました。25年度の業績見通しは見送り、関税による営業利益の減少が最大で4500億円に上る可能性があるとし、その上で、25年4月から6月期は関税の影響を加えて2000億円の営業赤字になる見通しを示しています。
日産はゴーン体制でハイブリッドを「つなぎの技術」と切り捨て、EVに舵を切りました。そのツケが回ってきているとも言えます。EVの伸び悩み、e-POWERという独自のハイブリッドはあるものの、北米で高速道路の燃費性能に優れた競争力のあるハイブリッド車の不在、国内生産体制の縮小……、現状はことごとく裏目に出ています。予定されていた福岡県北九州市のEV用バッテリー工場建設も断念しました。経営判断を見誤ったと言わざるを得ません。
EVについては、現在は普及のスピードが鈍っているとして、投資計画を見直す動きも出ています。
「EV市場の成長が当初想定以上に鈍化している。計画を後ろにずらすことを考えている」(ホンダ・三部社長)
「投資計画は少し見直しをする余地が出て来たかなという感じはしている」(SUBARU・大崎社長)
ホンダは5月20日に開かれた電動化戦略に関する記者会見で、2030年度までのEVを軸とする投資計画を10兆円から7兆円に減らすことを明らかにしました。一方で、EVそのものについては、いずれ普及していくという見方は各社一致しています。そういう意味では日産はむしろ先を走り過ぎたのかもしれません。自動車産業で時代の“潮目”を読むことがいかに難しいかを痛感します。
(了)