H3ロケット再び成功……「日本版GPS」も進化を続ける
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第484回)
夜明け前、漆黒の空に火の玉のように輝く機体が打ち上がりました。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「H3ロケット」9号機が8月11日午前4時21分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。約29分後、搭載された衛星は予定の軌道に投入され、打ち上げは成功しました。

種子島宇宙センターから打ち上がるH3ロケット9号機(JAXA公式YouTubeから)
■実運用としてのプレッシャーがかかった打ち上げ
今回搭載された衛星は「日本版GPS」と呼ばれる準天頂衛星システム「みちびき7号機」です。みちびきは昨年暮れに5号機がH3ロケット8号機で打ち上げられましたが、軌道投入に失敗。今年2月に予定されていた7号機の打ち上げも延期されていました。
H3ロケットは今年6月に小型衛星を搭載した6号機でリベンジを果たしますが、今回はみちびきという「実用衛星」を載せていました。そのプレッシャーは相当だったようで、JAXAのロケット開発責任者、有田誠プロジェクトマネージャー(以下 プロマネ)は「打ち上げの前にこんなに胃が痛い打ち上げは初めてだった」と心境を吐露しました。衛星が無事軌道投入され、内閣府で準天頂衛星システムを担当するの岸本統久企画官と握手した後もすぐに座り込んでしまったといいます。「本当にうれしいが、ふっと何かが抜けてしまうような感触を覚えた」と話していました。
未明の打ち上げだったことで、発射場への機体移動は日中となり、炎天下で行われました。有田誠プロマネによれば、熱中症対策として現場にはポカリスエットの「樽」が用意され、スタッフが飲みながら作業に臨んでいた……、そんな“ウラ話”も明かされました。

左:真夜中に打ち上げを待つH3ロケット9号機(JAXA公式YouTubeから)
右:打ち上げの瞬間(JAXA公式YouTubeから)
■衛星の台座を支える仕組みを変更、その成果は?
昨年暮れの8号機の失敗は、搭載した衛星を機体に結合するPSS(衛星搭載アダプタ―)と呼ばれる台座が破損したことが原因とみられています。PSSは「スプライス接着」というアルミニウムの部材を炭素繊維強化プラスチックではさんで接合する構造でした。しかし、接着不良によるはく離が生じ、それが衛星を保護するフェアリング(衛星を保護するカバー)分離の際に進展、破壊に至った可能性が極めて高いとされました。
接着不良による対策として、6月の6号機では搭載物が比較的軽量であることからPSSに樹脂を充填する「補修方式」が採られましたが、今回はボルトで固定する「ファスナ結合方式」が採用されました。これはかつてのH2Aロケットで実績があり、確実性を重視したというわけです。

無事衛星が予定の軌道に投入され、喜びにわく管制室(JAXA公式YouTubeから)
「結果をみれば、まずは合格点ではないか」
有田プロマネは打ち上げ成功を受けて、今回のファスナ結合方式をこのように評価しました。実は「ファスナ結合」と「スプライス接着」はトレードオフの関係で一長一短があります。ファスナ結合は品質の安定性という強みがある一方で、多くの穴を開けてボルトを使うことから工数がかかります。一方、スプライス接着は低コストで軽量という特徴がありますが、8号機の失敗による原因分析の中で、見た目より工数がかかる部分もあったということです。
安全性はもちろん最優先ですが、その上で、国際競争に勝ち抜くため、コスト削減もH3ロケットの大きなテーマの一つです。具体的なコストの違いは明らかにされませんでしたが、今後について、有田プロマネは両者を様々な面で比較しながら、検討する考えを示しました。

打ち上げ後の記者会見(オンライン画面から)
■7機体制、そして11機体制へ……、みちびきの進化は続く
搭載された準天頂衛星システム「みちびき」も進化を続けます。初号機の打ち上げは2010年。準天頂衛星とはその名の通り、天頂に準ずる=日本の真上に近い所に常に見える衛星のことです。1つの衛星で日本の上空に見え続ける時間は約8時間。つまり、最低3つ打ち上げれば、1日で最低1機が見えることになります。
「当時では想像もできないぐらい進んだ世界になっている」
JAXAで測位システム部門の開発責任者を務める明神絵里花プロマネは記者会見で感慨深く語りました。日本からただ1機が見えているだけではアメリカのGPSに依存する状態が続きます。正確な位置を測定するには正しい緯度・経度・高度に加えて正しい時刻が必要で、これをすべて自前に賄うには最低4機の衛星からの電波を同時に受信する必要があるわけです。7機体制になれば、日本の上空に常時4機以上の衛星が見え、他国の衛星に頼ることなく“自前”でスマートフォンやカーナビに位置情報を提供できるようになります。そもそもアメリカのGPSは軍事目的から民生用への流用、いわゆる「デュアル・ユース」です。世の中の地政学的リスクを考えれば、自前のシステムが求められるのは自明です。
それだけに昨年のみちびき5号機の軌道投入失敗は関係者にとっては大きなショックで「茫然自失になった」(明神プロマネ)といいます。内閣府の岸本企画官も今回の打ち上げに際し、「この衛星を失ったらわが国としての“みちびき”のみの測位サービスが壊滅的になってしまう」と危機感をあらわにしていました。

JAXA有田誠プロジェクトマネージャ(オンライン画面から)
打ち上げ成功により、軌道上のみちびきはこれで6機となり、政府が目指す7機体制に、あと1機となりました。これまでの5機は2機が静止軌道、3機が準天頂軌道を回っています。そして今回の7号機は静止軌道をわずかに(1~10度)傾けた準静止軌道で回る予定です。JAXAの山川宏理事長は「みちびき7号機を軌道に届けられたことをJAXAとしても非常に重要なステップと考えている」と語りました。
ちなみに7機体制の先にはバックアップ強化と利用エリア拡大を念頭に「11機体制」を視野に入れます。さらに、精度を高めるシステムとしてASNAV(Advanced Navigation System アスナブ)も控えます。これは衛星間測距=衛星同士の距離を測る機能と、衛星と地上との間の距離を測る機能を備えるものです。私たちが普段使っているスマートフォンは測位精度が現在5~10m程度とされていますが、システムが構築されることにより、これを1mにまで縮めることが期待されています。
一方で、7機体制になるのはまだまだ先。次回の8号機の打ち上げはスケジュールの関係で2031年度になる見通しで、5年ほど待たなくてはなりません。三菱重工業の江口雅之防衛・宇宙セグメント長は「現場の生産能力は年6機がほぼ限界」と語り、生産能力の増強が課題という認識を示しました。JAXAの山川理事長は「ロケットエンジンの燃焼試験設備をさらに充実させていく必要がある」と述べました。

JAXA山川宏理事長(オンライン画面から)
■日本の国際競争力を高めるために
みちびきの生産能力、燃焼試験設備は喫緊の課題でしょう。と同時に日本の国際競争力という面で求められるのは発射場ではないかと思います。現在、日本にあるロケット発射場は鹿児島県にあるJAXAの種子島、内之浦。民間ロケット用を加えても北海道大樹町、和歌山県串本町の計4か所です。現状のロケットの打ち上げ能力は年間で多くても8回程度。年間30回レベルのアメリカや中国に比べると少なさは否めません。国際競争力を高めるにはやはり“場数”が必要です。高市政権が掲げる成長戦略の17戦略分野の中には「航空・宇宙」が含まれます。細目には「ロケット・射場」も明記されています。
(了)





