盛岡から「IGRいわて銀河鉄道」の普通列車に揺られて30分あまり「いわて沼宮内(ぬまくない)」駅にやってきました。
「IGRいわて銀河鉄道」は東北新幹線・八戸開業以来、元・東北本線の盛岡~目時(めとき)間を担っている第3セクターの鉄道。
IGR7000系電車を中心とした普通列車は、青い森鉄道の八戸まで直通運転を行っているほか、盛岡~好摩間にはJR花輪線の列車も乗り入れます。
「いわて沼宮内」駅は岩手県岩手町の代表駅で、JR東北新幹線の駅もあります。
ただ「いわて沼宮内」に停車する「はやぶさ」は2時間に1本程度なので、時間帯によっては盛岡で在来線(IGRいわて銀河鉄道)に乗り換えたほうが早く着く場合もあります。
実はこの「いわて沼宮内」駅、「駅弁」にゆかりのある駅。
今の駅名は新幹線が開業した時に改められたもので、それまでは「沼宮内(ぬまくない)駅」といいました。
この辺りで「落語」に詳しい方なら、ピンと来た方も多いことでしょう。
蒸気機関車の時代、峠越えを前にした列車が沼宮内駅に停車すると、駅弁の立売りさんが「ベントー!ベント―!」。
一方で、沼宮内の駅員さんは「ぬまくない~、ぬまくない~」。
せっかく駅弁を食べようと思ったのに「ベントー!ぬ(う)まくない~、ベントー!ぬ(う)まくない~」と聞こえちゃうというあの噺です。
落語に詳しいニッポン放送の栗村智アナウンサーによると、元々は七代目橘家圓蔵がよくやっていた「地噺(じばなし)」なんだそう。
七代目橘家圓蔵は林家三平や、ニッポン放送ではおなじみ月の家円鏡(八代目橘家圓蔵)の師匠。
実際に七代目圓蔵のネタ帳を見たことがあるという関係者は「国訛(くになまり)」というネタ名で沼宮内の噺が書いてあったといいます。
昭和40~50年代に寄席通いをしていた人は、「沼宮内」と聞くと、とても懐かしさを感じるかもしれません。
では果たして、実際の沼宮内の”駅弁”のお味は「うまい」のか?「うまくない」のか?
いわて沼宮内駅は時刻表に「弁」マークこそありませんが、週末を中心に駅隣接の「プラザあい」の物産コーナーに弁当が置かれています。
ココの弁当を調製しているのが、岩手町の中心部にある「肉のふがね」。
前日までに予約すれば「プラザあい」で受け取り可能、当日予約の場合は店での受け取りとなります。
いわて沼宮内駅からお店までは歩いて20分あまり、駅待ちのタクシーで5分強、1,000円程度。
新幹線を1本落とすなら、次の列車まで2時間ありますから歩いて往復できそうです。
いわて沼宮内駅で販売されているのは「岩手短角牛やわらか煮弁当」(1,500円)。
「いわて短角和牛」のルーツは、南部藩の時代にさかのぼります。
南部藩では三陸・野田村で作られた「塩」を内陸に運ぶために「南部牛」が飼育されていました。
*野田村の「塩」については「8/11」の記事でもご紹介しました↓↓
震災から復活した名物「のだ塩」のたれが美味!~陸中野田駅「のだ塩 ほたて弁当」(800円) 【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「南部牛」と明治以降アメリカから入ってきたショートホーン種を掛け合わせて品種改良を重ねたのが「いわて短角和牛(日本短角種)」。
この「いわて短角和牛」を柔らかく煮込んで作られた駅弁です。
「肉のふがね」では元々、盛岡冷麺向けのチャーシューを納めていました。
しかしある時、間違って肉を煮過ぎてしまうトラブルが発生。
納める予定だったものを仕方なく店の人たちで食べてみると・・・「意外にイケる!」となったのが「やわらか煮」が生まれたきっかけなんだそうです。
そして、平成23(2011)年の京王百貨店新宿店の「元祖有名駅弁とうまいもの大会」に出展、以来、大好評を博しています。
初めて出た時にはチラシにもあまり載っていなかったそうですが『クチコミ』で美味しさが広まったのだとか。
口の中に入れるとしっとりとした食感で歯ざわりも心地よく、とても優しい味わい!
黒毛和牛がテンションの上がる味とすれば、いわて短角和牛は食べていて「ホッとする味」かも。
付け合わせのふき、椎茸、人参も岩手産で、梅干しも岩手の「及川農園」のものを使用しています。
沼宮内で「駅弁」のシチュエーションを考えた場合、東京方面への「帰り」に買うケースが多い筈。
岩手の山海の幸を満喫後、旅の〆にお腹に優しい「岩手短角牛やわらか煮弁当」はピッタリ!!
他に予約が無い場合は最低2個からの調製となるようで、この日は2個購入、時間を置いて1つずついただきましたが、冷めても肉はしっかり柔らかいままでした。
今回は突然お邪魔したにもかかわらず、府金伸治専務取締役にお話を伺うことが出来ました。
「いわて沼宮内だから食べられる弁当」にしたいという思いがあって、現在、他の駅での販売は行っていないそう。
ぜひ「岩手短角牛やわらか煮弁当」が「いわて沼宮内名物」としてもっと知られるようになり、沼宮内で乗り降りするきっかけになってほしいもの。
現地を訪れて、実際にいただいた以上、私、断言しましょう。
「沼宮内(ぬまくない)の駅弁はうまい!」
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
「ライター望月の駅弁膝栗毛」
(取材・文:望月崇史)
【ごあいさつ】
はじめまして、放送作家の望月崇史(もちづき・たかふみ)と申します。
ニッポン放送には、昔の有楽町の社屋の頃から、かれこれ20年お世話になっています。
最近では月~木・深夜24時からの「ミュ~コミ+プラス」で放送された、
「ルートハンター」のコーナーに5年ほど出演させていただきました。そんな私がライフワークとしているのが「駅弁」の食べ歩き。
1年間に食べる「駅弁」の数は多い年でのべ500個。
通算でも4,500個を超えているものと思います。
きっかけとなったのも、実はニッポン放送の番組。
2002年~05年に放送された「井筒和幸の土曜ニュースアドベンチャー」の
番組ウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載することになり、
本格的に「全国の駅弁をひたすら食べまくる生活」に入りました。
以来、私自身のサイトや、近年は「ライター望月の駅弁いい気分」というブログで
「1日1駅弁」を基本に「駅弁」の紹介を続けています。
”駅弁生活15年目”、縁あってニッポン放送のサイトで連載させていただくことになりました。
3つの原則で「駅弁」の紹介をしていきたいと思います。①1日1駅弁
②駅弁は現地購入
③駅弁のある「旅」も紹介「1日1駅弁」ですので、日によって情報の濃淡はありますが、
出来るだけ旬の駅弁と鉄道旅の魅力をアップしていきますので、
ゆるりとお付き合い下さい。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/