静岡~甲府間を結ぶ身延線の特急「(ワイドビュー)ふじかわ」。
373系電車には、今では貴重な存在となった絵入りのヘッドマークもあります。
「ふじかわ」は、普通車のみの3両編成で、甲府寄りの1号車が指定席。
また、2・3号車の車端部はテーブル付のボックス席(セミコンパートメント)で、ココも指定席となっており、グループなどで使うことが出来ます。
山梨県に入って、身延線最大の途中駅・身延からさらに北上。
今回は、下部(しもべ)温泉駅にやってきました。
下部温泉は、1200年の歴史を誇るという古くからの湯治場。
特に戦国時代は、武田家公認の温泉だったとされ、多くの将兵が傷を癒したといわれます。
源泉の多くは30℃台のぬる湯で、特に夏の暑い時期は、気持ちよく入れることでしょう。
ただ、今の時期は正直、30℃台のお湯はつらい・・・てことで、乗り込むのは早川町営バス。
南アルプスの深い谷に沿って広がる早川町は、今年1月1日現在の人口が「1,121人」!
日本一人口の少ない「町」として、広く知られています。
この早川町への貴重な公共の足となるのが、「早川町営バス」。
JR身延駅から下部温泉駅を経由、最奥の奈良田温泉まで、1日4往復運行されています。
下部温泉駅からバスで1時間あまり、終点の奈良田温泉までやってきました。
この日、お世話になったのは、「日本秘湯を守る会」の宿でもある「白根館」。
身延線沿線随一のお湯と、南アルプスの懐に抱かれた場所ならではの素朴な料理が魅力です。
私自身もここ数年、ほぼ毎年お邪魔しています。
チェックインが13:00と早いのも嬉しいんですよね。
「白根館」へ来たらまず堪能したいのが、お風呂エリアの一番手前にある露天風呂!
フワッと香る硫黄系の匂いと共に、ゴボッ!ゴボッ!という地球の息吹が聞こえてきます。
注がれているのは、47.8℃、ph9.1、成分総計3,905mg/kgの含硫黄―ナトリウムー塩化物泉。
駐車場南側、地下500mの源泉から、毎分75リットルの温泉が動力揚湯されています。
男湯と女湯は、毎日夕食後に入れ替わるので、宿泊すれば男女ともに入浴可能です。
“七不思議の湯”と呼ばれる、「白根館」の温泉。
気候や条件によって、お湯の色が“変わる”と云われます。
ココのお湯独特のにゅるにゅるした肌ざわりがクセになって、泊まると何度もお風呂へ・・・。
見た目、優しく癒されるお湯でありながら、温泉がズシリと体に沁みるようでよく眠れます。
温泉成分の関係上、15歳以上の大人で少量のみですが、飲泉することも可能です。
さて、東京から奈良田の玄関口・下部温泉へは、中央線の特急「あずさ」~身延線「ふじかわ」の乗り継ぎのほうが早く着きます。
「ふじかわ」には車内販売がありませんので、甲府や新宿で、駅弁を押さえておきたいもの。
このエリアでよく見かける山梨の駅弁といえば、「甲州ワインで育った牛と豚の弁当」(1,200円)。
調製元は、おなじみ小淵沢駅弁の「丸政」です。
牛丼とメンチカツがメインのこの駅弁、サブタイトルに「まんぷく甲斐?」と付いているだけあって、全部広げると、「あずさ・かいじ」の大きい背面テーブルからもはみ出しそうなくらいの勢い!
牛肉には「甲州ワインビーフ」、豚肉には「ワイントン」と、山梨のブランド肉を使用しています。
ワインビーフはワインを絞った後のぶどう粕が飼料、ワイントンは白ワインで育ったのだそう。
そんなこと聞いちゃうと、いただく前から、何となくいい気分になってきたり!?
牛丼は「甲州甘辛牛丼」というやや甘めの味付けなので、お好みで付添のわさびを・・・。
山梨県の皆さんは、「甘めの味付け」が好み。
恐らくコレ、山梨のみならず、静岡まで含めた富士川流域に共通の食文化なのかも。
私自身も、故郷・静岡に帰ってくると、煮物の味付けが本当に「甘い」ことに気づきます。
その意味ではこの駅弁、甲府側から「ふじかわ」に乗る時には、一緒に「食文化」の旅も楽しめる、いい「お供」になってくれそう。
加えて、特筆すべきは「山梨のカツ丼」!
「山梨のカツ丼」は卵とじではなく、ご飯の上に揚げたカツとキャベツを載せたユニークなもの。
ただ、この極めて独特な食文化をそのまま駅弁化しても、旅行者には「???」となりますから、冷めても美味しく食べられるソースメンチカツと野沢菜という形で再現しているんですね。
山梨の食文化を学べる点で、お腹だけでなく、実は頭も「まんぷく」になれる駅弁なんです!
現行ダイヤで日中、奈良田行のバスに乗り継げるのは、新宿9:00、11:00発の「あずさ」。
共に甲府駅では、数分待ちで、特急「ふじかわ」に接続しています。
甲府の身延線ホームは新宿寄りですので、1・2号車など若い号車の指定を取るのがお薦め。
乗車券は『中央線~身延線~東海道線』と回る、一筆書ききっぷを発券してもらうのもアリかも。
いっぱいの温泉といっぱいの富士山を満喫しながら、身延線の旅をのんびり楽しんでみては?
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/