先月の水戸に続いて、今月は九州・鹿児島からお届けしている「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
水戸と鹿児島は、遠く離れていますが、実は「黒豚」というキーワードで繋がります。
鹿児島の黒豚がメジャーな存在になった背景には、「水戸藩」の存在があるんです。
幕末の政治に影響のあった水戸藩主・徳川斉昭公、息子の慶喜公が薩摩の黒豚ファンでした。
特に(一橋)慶喜公は、あまりの豚肉好きゆえ、「豚一殿」と呼ばれていたほどだといいます。
慶喜公は、頻繁に黒豚を「おとりよせ」していたとも言われますが、ある意味、時代の先駆者。
今では鹿児島の黒豚駅弁が、東京駅などでも普通に買えるようになりました。
その1つに、出水駅弁「松栄軒」の「鹿児島黒豚 赤ワインステーキ弁当」(1,080円)があります。
この包装をパッと見て、販売駅を当てた方は、相当な「松栄軒」マニア!
実はコレ、博多駅バージョンの「鹿児島黒豚 赤ワインステーキ弁当」なのです。
それというのも、博多駅で九州全体の駅弁を販売している「駅弁当 博多口店」では、冬場、レンジによる温めサービスがあるため、「店内で温めできます」のステッカーが貼られているんですね。
この「鹿児島黒豚 赤ワインステーキ弁当」の製造現場に立ち会うことが出来ました。
京王百貨店の駅弁大会をはじめ、様々な駅弁人気ランキングで高い評価を得てきたこの駅弁の魅力は、何と言っても、南国の豊かな風土で育った出荷証明書付きの鹿児島産黒豚。
その黒豚が3日間、赤ワインに漬け込まれて、いい色合いに染まってきました。
さァ、いよいよ「焼き」にかかりますよ。
湯気と共に、いい匂いが厨房に広がりました。
スマホやPC画面に「匂い機能」が無いことが申し訳ないくらい、素晴らしくいい匂い!
今すぐにでもつまみたいところですが、衛生面・保存性の観点から、これを冷まさないと、「駅弁」として食べられないのが、ちょっぴりもどかしい気分です。
もちろん素材の良さは、十分伝わってきましたよ!
秘伝の醤油ダレで焼き上げられた「鹿児島黒豚 赤ワインステーキ」。
特製ソースが彩りよくサッとかけられ、お好みでマスタードを付けていただきます。
黒豚の下にサフランライスが敷かれ、おかずには山菜ナムル、香の物に高菜漬け。
〆のデザートとして、鹿児島らしくサツマイモのレモン煮も入っていて、これも美味!
肉料理でこってりした口の中を、サッパリさせてくれます。
水戸藩の有力者を虜にして、広く世に知られるようになった薩摩の「黒豚」。
薩摩と水戸が繋がっていた背景には13代将軍の後継者を巡る「将軍継嗣問題」もありました。
このドロドロの争い、人呼んで「牛と豚の遺恨試合」だったとか!?
薩摩藩をはじめ、徳川斉昭公の子・一橋慶喜公を推す「一橋派」は、「豚肉好き」。
彦根藩・井伊直弼を筆頭に、紀州藩主・徳川慶福公を推す「南紀派」は、「牛肉好き」。
江戸時代は肉食が禁じられていたと思いがちですが、薩摩藩では黒豚、彦根藩では近江牛を食べることが例外的に認められていたんです。
ちなみに、今年の大河ドラマは井伊直虎ですが、来年は西郷隆盛が主人公。
“先物買い”気分で、今から鹿児島の黒豚をしっかりチェックしておくのもいいかも!?
(参考文献・・・「拙者は食えん!サムライ洋食事始」、熊田忠雄著・新潮社刊)
もちろん、「鹿児島黒豚 赤ワインステーキ弁当」は、出水駅でも販売されています。
販売されているのは、出水駅の新幹線高架下に設けられた出水市の観光特産品館「飛来里(ひらり)」と、駅構内のキヨスク。
「飛来里」の素晴らしい点は、駅弁をイートイン出来るフリースペースがあること。
一緒に廉価なコーヒーも販売されているので、列車の待ち時間にもピッタリです。
次回は、この出水駅のすぐ近くにある「松栄軒」の社長に、たっぷり話を訊いていきます。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/