さぁ、N700系が充当された新大阪からの「さくら」号が、鹿児島県の出水駅に入ってきました。
ライター望月が、駅弁づくりのウラ側に潜入する「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
伊東駅弁「祇園」、小淵沢駅弁「丸政」、水戸駅弁「しまだフーズ」に続く第4弾をお届けします。
訪問するのは、昭和4(1929)年創業の「株式会社松栄軒(しょうえいけん)」。
出水を拠点に、鹿児島の駅弁を製造・販売しています。
*「駅弁屋さんの厨房ですよ!」シリーズはこちらから↓↓
シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.1「祇園」編)~伊東駅「いなり寿し」(600円)
シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.2「丸政」編①)~小淵沢駅「甲州かつサンド」(700円)
水戸駅「常陸牛 牛べん」(1,050円)~駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.3しまだフーズ編①)
九州新幹線には、博多、新鳥栖、久留米、筑後船小屋、新大牟田、新玉名、熊本、新八代、新水俣、出水(いずみ)、川内(せんだい)、鹿児島中央の12駅があります。
出水は、博多から「さくら」で1時間10分あまり、鹿児島に入って最初の駅です。
熊本以南が各停となる「さくら」を中心に、出水には、毎時ほぼ1本の列車が停まります。
新幹線の駅は、九州新幹線が平成16(2004)年に「新八代~鹿児島中央間」で先行開業した際に生まれているので、新幹線が通ってからは、既に13年となります。
出水といえば「ツル」の越冬地として有名ですが、実は駅弁好きにもたまらない町。
出水駅近く、ほんの少し熊本寄りの場所に「松栄軒」の本社工場があります。
最近は、鹿児島県内のみならず、熊本駅、博多駅、さらには東京駅の「駅弁屋・祭」でも、鹿児島の黒豚を使った、「松栄軒」の駅弁をよく見かけるようになりました。
実はこれらの駅弁は、ココで作られて、各地に輸送されているんです。
今回は「松栄軒」が誇る、昭和43(1968)年発売開始、まもなく50周年を迎えるロングセラー、「えびめし」(930円)を調製している厨房に潜入いたしました!
実はこの本社工場、平成25(2013)年に完成したばかり。
手を入念に消毒して、エアシャワーなどを完備した最新の衛生設備を通って、およそ30人の方がそれぞれの持ち場で、駅弁を作っている厨房に入ります。
出水は、鹿児島の中でも熊本県境に近い、不知火海に面した海の街です。
不知火海では、独特な「桁打(けたうたせ)漁」によって、クマエビが獲られてきました。
鹿児島には正月のご馳走・雑煮を作る際に、クマエビを焼いてだしを取る習慣があります。
実際の焼海老は1匹1,000~1500円という高級食材で、古くは島津の殿様にも献上されたそう。
この高級なエビをモチーフに作られたのが、出水駅弁の「えびめし」なんです。
普段「えびめし」は製造ラインで作られているそうですが、この日は調製風景を撮影しやすいよう、特別に食材を1か所にまとめていただきました。
小海老と一緒に炊き込まれ、程よくダシがきいて薄味に仕上げられた「えびめし」。
これに錦糸玉子、海老とグリンピースを乗せて、彩りよく調製されています。
その傍らでは、さつま揚げなどのおかずが迅速に盛られ、手早くきれいにまとめられていきます。
おかずが盛られると、「えびめし」独特の扇形容器の蓋が閉じられました。
蓋の下の真ん中に、赤いひもが付いて、蓋を開けやすくしています。
こんな何気ないささやかな配慮が、旅先ではホントに嬉しいもの。
ふたの上には、ロゴ入りの割箸とお手拭きをセロハンテープ止め。
さあ、筒状の紙パッケージにスッと挟み込んで・・・。
出水伝統の名物駅弁「えびめし」の完成です!
現在は、出水駅を中心に鹿児島エリアで販売中ということで、九州じゃないと味わえない味!
東京駅での販売はありませんが、1月に京王百貨店新宿店で行われた駅弁大会では、輸送駅弁として販売され、大きな人気を博したそうです。
「松栄軒」の松山幸右社長によると、出水の特性を活かした駅弁ということで、「松栄軒」の原点として、今もパッケージのデザインを変えていないとのこと。
そこで、およそ10年前、平成18(2006)年12月に、私が出水駅で購入した「えびめし」の記録を残していましたので、比較をしてみたいと思います。
確かにデザインは変わっていないけど、中味はすごく進化してる!!!
「えびめし」がセンターに配置され、エビやグリーンピースの盛り付けが格段に美しくなりました。
ご飯を控えめにして、おかずの品目を増やしているのは、時代の変化に合わせたものでしょう。
掛け紙のフレーズも「出水名産」だったのが、「鹿児島名物」となっています。
実はロングセラー駅弁ほど、時代に合わせて、どんどん魅力的なものに進化しているのです。
海老の炊き込みご飯をメインに、さつま揚げ、若鶏を素揚げにして煮含めた「若鶏の揚げ煮」、卵焼き、人参、煮豆など、いろんなおかずが楽しめるのが嬉しい「えびめし」。
香の物のつぼ漬には、鹿児島の老舗「中園久太郎商店」のものを使用しています。
これだけ手間暇かかって「1,000円」を切る価格設定なのは、東京ではまずありえません。
「九州駅弁グランプリ」では何度も上位入賞を果たした、鹿児島随一のロングセラー駅弁。
ふたを開けた瞬間、プルンとした可愛らしい海老がお待ちかねですよ!!
今週は、出水駅弁「松栄軒」の厨房を訪問しながら、松山社長に鹿児島、九州の駅弁について、たっぷり語っていただきます。
(取材・文:望月崇史)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/