佐藤優 トランプ大統領の生き残り戦略とは?
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8/24(木)FM93AM1242ニッポン放送『高嶋ひでたけのあさラジ!』今日の聴きどころ!③
トランプ大統領は白人至上主義をめぐるデモ事件に関してメディアを批判
7:10~やじうまニュースネットワーク:コメンテーター佐藤優(作家・元外務省主任分析官)
アリゾナ州で支持集会 トランプ大統領はメディアを批判アメリカのトランプ大統領は、メキシコと国境を接するアリゾナ州で支持者集会を開き「国境での壁の建設は絶対に必要だ」と述べました。また白人至上主義者と反対派の衝突事件をめぐり人種差別容認とも取られる自分の発言に非難が集まっていることに対し、発言をきちんと伝えなかったとしてメディア批判を繰り返しました。
高嶋)何やらやり込められると根強い自分の支持者の下に行って、持論を展開して拍手大喝采を受けると。何だかそれでバランスを取っているのかなというような感じも無きにしも非ずですが。トランプさんの人種差別発言でアメリカが揺れ動いています。まずニッポン放送報道部の森田耕次解説委員です。
森田)今月12日に南部バージニア州で起きました白人至上主義者と反対派の衝突について、トランプ大統領が「双方に責任がある」と述べたことに対し、最新の世論調査では支持しないという回答が50%以上、6割近くに上っております。
先程入ったニュースですと、トランプ大統領は23日に西部ネバダ州で開かれた退役軍人の集会で演説しまして「私たちは肌の色や小切手の金額で判断されない」と述べ「アメリカを分断する傷を癒す時だ」と国民に結束を呼び掛けたということです。
これに先立つ22日にメキシコと国境を接する西部アリゾナ州フェニックスで支持者集会にて演説しまして、この中ではこのバージニア州で起きた事件についてトランプ大統領に批判的なニューヨークタイムズやCNNテレビなどを次々に名指ししまして「事件直後、偏見を非難すると私は言ったのに、不誠実なメディアが伝えなかった」と、このように自らを正当化したということです。
このフェニックスの会場周辺では抗議デモが一部過激化し、警官隊が催涙弾で制圧する一幕もあったということです。この演説の内容は「国境の壁は必要」だとか「雇用を取り戻す」といったように選挙戦の主張と同じ話が延々と続いたということですが、会場の中は9割以上を白人が占めていたとうことです。
支持者以外は眼中に無い トランプ大統領のしたたかな戦略高嶋)佐藤さん、トランプ大統領の苦境ですが、普通の大統領だったら本音と建て前というか、アメリカにはずっと人種差別の底流というのは何をやっていても流れているわけで、それを上手く理想とか希望とかいろんなものにまぶして治めていきます。しかし、トランプさんは如何せん剥き出しの表現しかできないという、これで苦境に陥ってしまっている気がするのですけど。これから先これをまとめ上げていくということは可能ですか?
佐藤)トランプの戦略としてはまず自分の最大の支持基盤であるそういう偏見を持っている人たち、そこをぶっちゃけトークみたいな形でがちっと固める。それで3割ありますから。それであとの人たちは積極的にトランプを潰すという行動に出るのは面倒臭いと、こういうような感じに思えば生き残れると、こんな計算でしょうね。そういう意味では「あんなもの相手にしてもねえ……」というような、皆が眉をひそめるような状況はトランプにとっては有利なのです。
高嶋)そうか、むしろまともな批判ではなくてもう匙を投げられるような。
佐藤)そういう風になれば「しめしめ」と。つまり匙を投げられるような状況を作ると。その代わり全員に匙を投げられたら困りますから、コアな3割は固めておくと。
だって3割を固めておいて残りの7割の内8割が政治に関心が無くなれば、それは政治に関心のある層の中では自分は圧勝ですからね。こんな計算でしょう。
南北戦争の傷跡 アメリカ南部の人々が抱く本音とは?高嶋)映像で観たアリゾナ州フェニックスの支持者の前での演説、後ろに人がいっぱいいて、もちろん反対の人が外でいろいろと騒いではいたのですけど、あの中の熱狂というのは本当にすごいのですよね。
佐藤)何か自己啓発セミナーとか、最近できたすごく熱烈な宗教団体とか、そういう感じですよね。
高嶋)じゃあトランプさんは要するに我々が社会常識で考えるような困り方はしていないということですね。
佐藤)していないですね。非常識をベースとして立っていますから、彼にとって我々の考える常識は非常識で、我々の非常識は彼の常識ですから、そういう世界で生きていますよね。
高嶋)あれだけ周りがいなくなったら普通少ししょんぼりするものですけどね。
佐藤)逆にバノンさんのような極端な人がいなくてもやっていけるくらい力が付いたということかもしれませんよ。実際問題としてバノンさんなんかが白人至上主義者的な人たちを上手くまとめていたわけですよね。バノンを切ったって逆に白人至上主義者の今回の衝突のことで「どっちもどっちだ」みたいな形で、気持ちはどっちかというと白人至上主義に傾いているという、この雰囲気を出すことに成功したので、バノンを切ったことに対する批判は無いじゃないですか。上手く渡っていますよ。
それにやはりアメリカというのは難しい国なのですよ。「おたまじゃくしは蛙の子」という歌があるでしょう。あれは例えばアリゾナとか南部で歌えないですからね。あれは「リパブリック賛歌」、すなわち“北軍賛歌”なのです。あれは北軍の軍歌だから、それを南部で歌うと「その歌は聴きたくない」と。高嶋)あの可愛い歌が北軍の軍歌なのですか。
佐藤)そうなのです。それからリンカーンと言うと奴隷解放で立派な人物というイメージでしょう。ところが南部からすると、リンカーンというのは“民間人を含めて総攻撃をする”という戦略を考えた人なのですよ。だからアトランタで火を放つとか、そういった形で戦闘員だけでなく非戦闘員を攻撃したのが実は北軍が勝った要因なのですよね。
高嶋)「風と共に去りぬ」が上映禁止だとか聞きましたね。
佐藤)それはやはりアメリカの分断を深めてしまうわけですよ。それを観るとアメリカの分断が起きるのです。そうすると、南北戦争の傷というのは実はまだ癒えていないのですよ。
でもそういうところに今度はトランプが手を突っ込んで、どちらかというと日が当たらなかった南部の感情を刺激する、それで生き残りを図っているのです。高嶋)中々“敵もさる者引っ掻くもの”ですね。
佐藤)したたかです。自分が持っているところの支持基盤がどこかというのを冷静に見極めて、それ以外の人は諦められて匙を投げられるという形で生き残ると、こういう戦略ですよね。
高嶋)普通の人にはちょっとできない作戦ですけどね。
高嶋ひでたけのあさラジ!
FM93AM1242ニッポン放送 月~金 6:00~8:00