野口聡一宇宙飛行士インタビュー②「55歳の宇宙滞在、バイタリティの秘密。そして今後の宇宙ビジネスは?」

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【報道部畑中デスクの独り言】

野口聡一 報道部 畑中 デスク

インタビュー後に撮影

――話は変わるんですけど…野口さんの健康法って何ですか?――

(野口)何て言うんでしょうか?その…無理が効かない年ですのでとにかく1日1日、暴飲暴食を避ける、ちゃんとよく寝てよく起きる、食べる、その繰り返しじゃないですかね
1日1日でかっちりとその日にやることをやれれば、健康でいられるんじゃないかと思います。

――何を食べている時が一番幸せですか?――

(野口)何を食べている時…そうですね、いい質問ですね。結構肉好きなんで、健康って言った割には肉ばっかり食べているんですけど。
ただ、やっぱり野菜とか食べるようになりましたね。ですからまあ、肉食べてると幸せですけど、野菜も食べてます。そういう感じでまとめていただければ。ハハハ。

――80超えたおばあちゃんも肉食べて長生きしているって話もありますから。肉も大事なようですよ――

(野口)ああ、それを聞くと安心ですね。じゃもう肉食べて宇宙目指します。

――私も50になって50代になるとなかなか体もガタがきたりとか、このインタビュー、「上柳昌彦のあさぼらけ」という番組で流れるんですが、野口さんのバイタリティと言いますか、なぜここまで頑張れるのかというのをぜひ聞いてきてくれと…――

(野口)なるほど、はい(笑)。体が若いころのように動かないというのは真実ですよね。そこは否定しようがない。ただ、宇宙飛行3回目を目指すにあたって無理なことをしてるつもりはないんです。自分の中で2回の経験を踏まえて宇宙に行くというのはこういうことだと、かかるGとか、無重力に暮らすことのリスクとかというのは認識した上で、自分としてどういう体の準備をしていくってのはわかっているつもりなので、それを着実にやっていこうと。
今の一番大事なことは1日1日をしっかり食べてしっかり休養とってしっかりと寝ると。ストレスためないと。自分でためるくらいなら人に与えろという感じです。ハハハ。ともかくそういう意味では心身ともに1日1日充実して生きるのが多分一番大事なことじゃないかと思います。
宇宙に行ってもおんなじですね。宇宙に行っても1日1日、無理をせずストレスをためず確実に1日を過ごしていくことが大事じゃないかと思います。

JAXA 記者会見

記者会見場には多くの記者が詰めかけた

――逆にやってはいけないことは何ですか?――

(野口)「無理」ですよね。無理しちゃいけない。 暴飲暴食がいい例ですよね。だから昔ほどは朝まで飲むことはできなくなりましたね。そういう意味では昔と違うと。二日酔いしやすくなるとかね。なので無茶のみはしなくなりましたし。午前様というのはあんまりなくなったので。そういう意味では変わっていると思いますね。

――それは50代の男性に向けてのメッセージでもあるわけですか?――

(野口)そうでしょうね。はい、難しい質問ですね。単純に体力とか、バイタリティで20歳に勝とうと思ったらそれは負けると思います。
だけど自分なりにペースをしっかりつかんでどこまでならいけるというその限界をしっかりしっかりその日その日見極めて、もしかしたら限界が1日1日短くなっているのかもしれないけどその日その日にできることを限界一杯試すと、いまの私にとって宇宙飛行はまだ限界の中にあると思っているんで、だからこそ3回目に向かおうと思っています。

――これだけはやってやるという情熱みたいなものはありますか?――

(野口)おお、それは宇宙飛行に関してですか?

――生活に関してでも――

(野口)逆にそういう意味では、がつがつした達成意欲がなくなってきたというのも、長続きの秘訣なのかもしれませんね。何が何でも一等賞とってやるというのはむしろなくなってきているので。
1日1日、無理せず、ストレスなくベッドに就ければそれが勝利になるんじゃないですかね。

――それがまた秘訣ですか?――

(野口)あ、それは秘訣かもしれないですね。ハイ。

JAXA 記者会見

11月9日の記者会見

――では最後に、宇宙ビジネスの世界は特に中国が台頭していたりして競争が激しくなっていると思いますが、その中で日本という国ができるプレゼンスと言いますか、アピールできることは何でしょうか?――

(野口)実は今回アサインされて54歳で宇宙ということで。毛利衛飛行士が50歳過ぎて宇宙に飛んだ時に「50歳からの再挑戦」という本出されていてその本読み返しているんですけど、
宇宙ビジネス…「宇宙はお金になるのか」とか「こんなにお金を使ってどうするのか」とか、毛利さんの時から言われてるんですよね。ですから我々過去20年間、ずっと同じことの答えを探し続けているんですけど。
いまは日本が強いところいっぱいあると思います。ロボットも強いですし、宇宙飛行士に関しては「和」を生かした宇宙飛行士運用については若田さんが素晴らしいところを見せています。そういう意味では強みがいっぱいあるんですけど。
何といっても時代としては、宇宙利用がちょっと前まで「金食い虫」だと、「ISSは金食い虫だ」と言われていたのが、いま特にアメリカでは「金のなる木」になってきています。
つまりビジネスが、政府なり宇宙機関が旗降って使ってもらう時代からメーカーの方がどんどんやってくると、なぜかと言うと彼らの判断で宇宙を使うのが費用対効果上、利益が出ると思ってるからこそアメリカの企業がどんどん入っている、そういう時代に移ってきているわけですよね。
小型衛星の打ち出し、日本がそれこそ強い分野ですけど。大学の先生のために利益を度外視して協力するという日本の立場から、アメリカはもう年間何百個っていうビジネスベースで、これだけ打ち上げるとペイするという前提での運用に変わってきている、そういう意味では宇宙がお金になるビジネスとしてのチャンスが広がっているという時代にアメリカは移っているので、「我々は追っかけていかないと」いう気持ちはありますね。

――まだまだこれからで、訓練も始まると思いますけどこれからもウォッチしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。――

(野口)一緒に50代も夢を見ていきましょう。

――ありがとうございます。――

飄々と力が抜けた様子ながら、ユーモアも交え、しかし与えられた仕事はきっちりこなす…これが野口さんの魅力だと改めて感じます。

一方、世界の宇宙開発事情を聞くにつけ、考えさせられる部分もありました。なるほど、アメリカはすでに宇宙開発を商業ベースにのせつつある、さて日本は…政府の成長戦略には挙げられているものの、まだまだ緒に就いたばかりという感じがします。問題意識を持つ野口さんの目は真剣でした。

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