思いやりってなんでしょう…『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
公開: 更新:
【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第401回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、4月28日から公開となる『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を掘り起こします。
シュールかつエレガントな、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作
スウェーデン、ストックホルム。現代アート美術館のキュレーターであるクリスティアンは、離婚歴はあるものの2人の娘の良き父親で、電気自動車に乗り、慈善活動を支援していて、周囲からは尊敬を集めていた。そんな彼が次の展覧会で手がけるのは、「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品。それはすべての人が平等の権利を持ち公平に扱われるという、利他主義へと導くインスタレーションだった。
ある日、クリスティアンは街中で携帯電話と財布を盗まれる。その犯人をあぶり出そうと彼が取った行動が、やがて大騒動を巻き起こし…。
『フレンチアルプスで起きたこと』で注目されたスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の最新作が、いよいよ日本上陸。昨年の第70回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた本作は、アート界で成功を収めたエリート男性が遭遇するさまざまなトラブルを通じ、他者への無関心や欺瞞、階層間の断絶といった現代社会の問題を、痛烈な皮肉を込めながらもエレガントに描いています。
オストルンド監督自身「シネマティック(映画的)な映画を撮りたかった」と語るように、ユーモア、社会風刺、政治的問題とさまざまなテーマが融合している本作。なかなか先の展開を見通すことが出来ず、主人公が手がける展覧会「ザ・スクエア」が要所要所でしっかりと絡んでくるその筋運びの巧みさには唸らされるばかり。150分と長尺ながら、片時も目が離せない秀作です。
一見すると非の打ち所のない主人公が自分で撒いた“タネ”をきっかけに、彼に内在するズルさや傲慢さが次々と明るみになり、負のスパイラルへと追い込まれていく。ストーリーが進むうちに、この男がエゴの塊のように見えるだけに、その情けない姿にイラッときたり、逆にスッキリさせられたり。
しかし映画館内の明かりがついた瞬間、ハタと気づくのではないでしょうか。この映画の主人公を笑えるほど、自分は上出来な人間なのだろうか、と。
“思いやりの聖域”は、あなたの人間性が“試される”領域なのかもしれません。
ザ・スクエア 思いやりの聖域
2018年4月28日からヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティほか全国順次公開
監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー ほか
©2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS
公式サイト http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/