番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、岩手で学んだ、牛に自然の草を食べさせる酪農を、地元・神奈川の山で新たに始めようとしている20代女性の、グッとストーリーです。
丹沢山地と丹沢湖に囲まれ、面積のほとんどが山林の神奈川県・山北町。ここで酪農を始めるため、おととしから山北町の大野山に移り住んだ若い女性がいます。島崎薫(しまざき・かおる)さん・29歳。神奈川県相模原市出身で、地元の高校を卒業後、東京農業大学の食品科学科に進学。北海道網走市のキャンパスで4年間過ごしました。
「本当は、東京の世田谷キャンパスにある学科を受けて、栄養士になりたかったんですけど、北海道の農家でアルバイトもできるし、網走もいいかなあと思って……」という島崎さん。子供の頃から牛乳が好きで、卒業したら乳製品を扱うメーカーに入社したいと思っていました。
そんなある日、島崎さんは人生を変える一冊に出逢います。「この本、酪農のことが書いてあるよ。面白いから読んでみたら?」とクラスメートに勧められたのが、岩手県の北上山地の中洞(なかほら)牧場で「山地(やまち)酪農」を実践する、中洞正(なかほら・ただし)さんの本でした。
山地酪農とは、一般的な酪農と違って、牛を牛舎に閉じ込めるのではなく、自然の中で放牧。牛は海外産の穀物で作られた飼料ではなく、山に生える芝や草を食べて暮らします。日本は国土の7割近くが山林ですが、最近は林業の衰退によって、山林の荒廃が進んでいるという現状があります。その荒れた山林に牛を放牧すると、草を食べてくれて、大地を踏みしめ、豊かな土壌を作ってくれるのです。自然の中でストレスもなく育った牛からは、おいしい牛乳が搾れる上に、森林の再生にも役立つ……そんな循環型の酪農を目指すのが、山地酪農です。
「私、酪農家さんたちがどうやって牛乳を作り、どんなシステムで流通しているかを、この本を読むまで知らなかったんです。こんなことも知らずに牛乳を飲んでいたんだ…と目からウロコが落ちる思いでした」。当時3年生だった島崎さんは、さっそく岩手に行って中洞牧場を訪ね、冬休みを利用して住み込みで研修を受けました。酪農のイロハを一から勉強するうちに、この牧場で働きたいと思うようになり、大学卒業後、そのまま就職。中洞牧場長の指導のもと、山地酪農を学んでいったのです。
「自然の中で育った牛から搾った牛乳は、食べた草の色と香りがそのまま出るんですよ」という島崎さん。緑色の草は、青と黄色の色素を含んでいますが、その黄色い色素が牛乳に表れます。
「本来の牛乳は真っ白じゃなくて、ちょっと黄みがかった色をしているんです。食べた草の種類や季節によっても風味は変わるんですよ」
ただし、牛に負担をかけないこのやり方だと、乳牛一頭から一日に搾れる牛乳の量は10リットル程度。通常の乳牛は50から60リットルですから、かなり少なくなります。そのため、なかほら牧場では直販形式で牛乳を販売。720ミリリットル瓶が1本千円以上しますが、牛乳本来のさわやかな風味とコクが味わえると評判で、経営も十分、成り立っています。
おととし9月、島崎さんは5年間働いた中洞牧場を卒業。地元・神奈川の大野山に移住し来月から、山地酪農をスタートさせることになりました。たまたま、山北町の人たちが「大野山を酪農に使えないだろうか?」と中洞牧場を訪ねてきたのがきっかけで実現したUターン。島崎さんは2年近くかけて、町の人たちにもなじみ、一から始める酪農。牛は、中洞牧場から5頭を譲ってもらいましたが、その中には、島崎さんの最愛の牛「たらちゃん」もいます。
「偶然ですけど、私のアダ名も『たらちゃん』だったんです。なんか、他人とは思えなくて(笑)。地元の山で、牛のためにも、人のためにも、山のためにもいい酪農を定着させていきたいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年5月19日(土) より
番組情報
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