番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは、女手一つで二人の子供を育てるかたわら、地元に美容院を開業。髪を切るだけではなく、住民に「安らぎの場」を提供している女性の、グッとストーリーです。

駅から住宅街へ足を運ぶと現れた「ヘア・スペース cousin（カズン）」

JR松戸駅から1キロほど離れた閑静な住宅街に、レンガ調の外観をした一軒の美容室があります。「ヘア・スペース cousin（カズン）」。お店の中は、ゆったりした空間になっていて、席の数は3席だけ。「来てくださったお客さんに対して、納得の行く仕事をしたいので、この席数なんです」と語るのは、このお店を経営する美容師で、松戸生まれ、松戸育ちの草間浩美（くさま・ひろみ）さん・58歳。店名の「カズン」は「いとこ」という意味ですが、その名のとおり、草間さんはいとこの女性と二人だけで、お客さんの髪を切っています。

松戸生まれの松戸育ち　お店を切り盛りする草間浩美さん

人が喜ぶ顔を見るのが大好きな草間さん。憧れていた美容師の資格を取り、有名スタイリストが経営する美容室に入って、腕を磨きました。24歳のとき、地元で知り合った男性と結婚。男の子と女の子の2児をもうけましたが、長女を出産した直後に、わずか3年で離婚。

「夫は“髪結いの亭主”だったんですよね……」という草間さん。もらえるアテのない慰謝料・養育費は一切受け取らず、女手一つで2人の子供を育てていく決意をしましたが…長女の貴子（たかこ）さんが、生まれつき心臓に穴が開いている難病を抱えていることが判明。たびたび高熱を出し、泣き続ける貴子さんを連れて、病院へ通う日々が続きました。

「ある日、思ったんです。『なんでこの子は、こんな重い病気になったんだろう？　もしかすると、娘がお腹にいるとき、別れた夫を憎んでばかりいたせいかも…」

貴子さんの病気も良くなり、家族みんなが笑顔の草間家

それからは、憎しみの心を持つのをやめ、前を向いて生きるようになった草間さん。貴子さんの病状もやがて安定。心臓の穴も、成長とともにふさがり、元気に育っていきました。

二人の子供を育てている間、美容師の仕事は休んでいましたが、腕を鈍らせてはいけないと、近所の人たちに声を掛け、出張の形で、髪を切らせてもらっていた草間さん。料金は格安でも、一切手は抜かず、仕上げにもこだわりました。そしてこの経験が、のちのち、草間さんの大きな財産になったのです。

「美容室だと、お客さんに会うのはお店に来たときだけですが、近所の人ですから、カットした後にもまたすぐ会いますよね。そうすると、切った髪をその人がどうケアしているかが分かるんです」……その実例をたくさん見たことで、草間さんは、カットした後のことも考えた、よりキメの細かい仕事ができるようになりました。

全国コンクールでも1位に輝いた草間さん　ヘアカット中のご様子

子育てが落ち着くと、松戸駅前にある大手チェーンの美容室で、パートタイムの美容師として働き始めた草間さん。お客さんの要望に、親身になって対応。確かな技術と、カットの間に交わす会話も心が癒やされると評判になり、草間さんはパートから副店長に抜擢。そのチェーンの中で、個人売上げ・指名客数など、すべての部門で全国トップに立ち、全国コンクールでも1位になりました。

2001年、41歳のときに独立。かねてからの夢だった自分の美容室「カズン」を開業しました。駅前ではなく、あえて住宅街の中に店を構えたのは、理由があります。……それは、苦しいときにお世話になった、地元の人たちの「心のオアシス」でありたいから。

地元の人たちの「心のオアシス」でありたい　「ヘア・スペース cousin」の店内はこのようになっております

お客さんは、地元に住む年配の女性が多いですが、チェーン店の頃から指名してくれるお客さんや、若い女性、そして意外なことに、地元に住む男子学生もやって来るそうです。

「あの子たち、なんでうちに来るのかしら？」と不思議がる草間さん。まるでお母さんのように世話を焼いてくれる、そんな雰囲気が心地よいのかもしれません。草間さんは言います。

「美容師は、お客さんの髪を直接触る仕事です。髪に触れることで、その人の心の中も伝わってくるんですよ。カットをしながら悩みを聞いたり、励ますこともあります。この店がちょっとでも、お客さんの心の安らぎの場になったら、嬉しいですね」

髪に触れることで、その人の心の中も伝わってくる　これからもお客さんの心の安らぎの場になるため草間さんはヘアカットをし続けます

【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY　2018年5月12日（土）　より