茶事とは「今日出会ったの旬のものを人の口に運ぶこと」
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5月15日放送 ゲスト:茶事の出張料理人 半澤鶴子 第2回
日本で数少ない茶事の出張料理人。
おもてなしの原点と言われる「茶事(ちゃじ)」に人生をかけて全国行脚。懐石から始まり、酒を振るまい、最後にお茶でもてなす…千利休が確立した4時間ほどの茶会。茶事とは何か、半澤鶴子氏の生き様から人生のヒントを探す——。
「今日出会ったものを、今日人の口に運ぶ」
黒木)毎日、さまざまなジャンルのプロフェッショナルにお話を伺っていくあさナビ、今週のゲストは茶事の出張料理人、半澤鶴子さんです。
茶事を始めたきっかけを伺いたいのですが、半澤さんはいろいろなご職業に就かれているのですよね。満州で生まれたあと広島へ行き、大人になってからはまず保育園へ就職。保育士の仕事から、料理講師に。
半澤)お人に育てられてきましたから、お人を一生懸命好きになること。そして食べ物は一生ついて回るので、食べ物を作れるということは、お人に力を与えて喜んでもらえます。この2つだけをとにかくやってまいりました。
お金が無くてもできる努力は笑うこと、楽しむこと。そして、楽しんでもらうには料理がいいかなと。シンプルです。
黒木)料理講師から、40歳になって、現在のようなお仕事に転身なさったのですが、それはいま仰ったような、人に楽しんでいただけるようにと思われたのですか?
半澤)そうですね。振る舞うということと、ときどき頼まれて出張すると、スゴく楽しいのですよ。料理講師より、無から全部世界を作り上げていく楽しさみたいなものに魅せられて。そうこうしているうちに、「ケータリングではちょっと違うな」と思いはじめました。日本は季節が豊かなので、昨日でも明日でもない、今日出会ったものを掬い取って、お人の口に運ぼうと思ったことが、茶事に限られてきた動機かな。
今日の出会いを大切に
黒木)今日のものを、今日掬い取って……半澤さんがお出しになっている講談社の『人生に愛される 幸せはお人から運ばれてくるものよ』という本を読ませていただきました。このなかに「今日のものを今日に出す。明日はまた明日考えよう」ということが書かれています。
半澤)本当にそう。そして出会いは必然として、そのとき出会ったものに意味がある。やはり、旬のものが一番力がある。お人の口からお腹に入ったときに、ものすごく癒される。そういうものをお人の口にお運びするのが茶事かなと思います。
黒木)この本は1つ1つがいろいろなテーマになっていて、2ページで1つの話が書かれていますが、全部道しるべみたいに書かれています。なるほど、いまお話ししていてもそうですが、「苦労も苦労じゃなくて必然だった」とか。
半澤)実際そうですよ。私の顔見たら分かるでしょ? 本当に脳天気なの(笑)。
黒木)それで、こういう考え方ができるのですね。「スタートはいつも絶望感から」とか。
お礼の言葉を纏めたものが今回の著書
半澤)茶事はみなさんがお礼状をくださるんですよ。利休さんの時代から、「いい茶事に当たりました」とか、キチッとお手紙をくださる。全国に行っていると一通ずつ返事を書いていられないので、全国にお便りを発信し続けて20年。それをいくつか抜粋して、若い人にも難しくない、優しく平面な言葉で書いてあるものを、メッセージのような部分を、まとめてくださったのが今回の本。
ここにお便りがあるとしたら、その端っこにチョコチョコと一筆添えることで、5年会っていなくても、会うと、「昨日お会いしましたね」という感じで会えるものですから。1人ずつ書いていられないけど、お手紙をみなさんに発信し続けることで、それが20年続いています。毎月年賀状を書いているようなものです。
黒木)それを1つの本にしたということですか?
半澤)そうです。それを、ふわっと軽くあっという間に読めるようにまとめ上げてくださった。私は絶対に1人では本にしようと思わないし、恐れ多くてそんなことできない。お人の力ですね。
黒木)1つご紹介すると、「移りゆく日々のなかであっても、今日は今日の力を。明日は明日の力を信じて、心を惜しまず体を惜しまず働くのみ」。
半澤)それしかない。私は這いずり回ってナンボですから。
黒木)たくましい半澤さんのお話、身に、心に染みます。
半澤鶴子/茶事の出張料理人
1943年(昭和18年)・満州生まれ。
幼少期に両親と離別し、中学まで広島の養父母のもとで育つ。
中学卒業後に洋裁の学校で学び、20歳で結婚。一男一女をもうける。
結婚後に湘南高等学校(通信制)を卒業。
保母の資格と調理師免許を取得し、23歳から鎌倉の保育園に勤務。
30歳からは料理の道を志し、料理講師として働く。
40歳のとき、かねて興味のあった茶事一本にしぼって活動するため、出張料理人に転身。
現在は、千葉県東金市の鶴の茶寮や京都で茶事の実習や日本料理の講習会などを行いつつ、全国を行脚して、地の食材を使った「茶事」を行っている。
全国行脚の旅を始めたのは70歳から。茶事の神髄を極めるため。釜から茶道具まで車に詰め込んで、和服姿で自ら運転して移動する。
(2018年5月15日放送分より)
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