ニッポン放送「飯田浩司の OK! Cozy up!」(8月23日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。ロシアのプーチン大統領が中距離核ミサイル開発を表明したニュースについて解説した。
ロシアのプーチン大統領が中距離ミサイルの開発を表明
ロシアのプーチン大統領は、アメリカが中距離核戦力(INF)全廃条約が失効してからわずか16日後となる8月18日に、地上発射型中距離ミサイルの発射実験に踏み切ったことについて、「新たな脅威だ」と述べた上で、自らも「中距離ミサイルの開発を行う」と表明した。その一方、プーチン大統領はアメリカが配備に踏み切らない限り、ロシア側も配備しないと自制を求めている。
飯田)中距離ミサイルですけれども。
宮家)プーチンさんもよく言うよ、ですね。アメリカもいろいろ言われているけれど、INF全廃条約を作って、一応はそれを守って来ましたよね。しかし残念ながらロシアは、はっきりとそれに反する形で、これまで新しい中距離ミサイルをどんどん開発して、もう実際に配備し始めているわけですよ。しかも、そのコピー版が北朝鮮に流れている可能性があるのだから、そのような状況でよく言うなと思います。もっとも、アメリカも16日後によく実験をやるよとは思うけれども…。いずれにせよ、鶏が先か卵が先かは別として、こうした開発競争、近代化競争は続くと思います。
東アジアでもINF条約のようなものを作るべき
宮家)ヨーロッパでは再び中距離ミサイル配備の可能性が出て来るので、1980年代の状態に戻ってしまうかもしれないけれど、実は同じようなことが東アジアで起き始めているのです。北朝鮮だって精度はともかく、その種のミサイルをおそらく何百発も持っていると思います。もっと大事なのは、中国ですよ。核ミサイルかどうかは別として、地上発射の中距離ミサイルを1000発以上持っていると言われますからね。空母キラーと呼ばれる空母をターゲットにするミサイルを合わせれば、中国は圧倒的にあの海域で有利です。南シナ海も東シナ海もですよ。ロシアもさることながら、アメリカの中距離ミサイル開発は、やはり中国を念頭に置いていると考えるべきです。日本にとってもかなり死活問題ですよ。もちろん、日本が中距離ミサイルで核武装するという話は、いまの段階では有り得ません。そうなると、せめて中国の圧倒的有利を、ある程度バランスを取って抑止し、中国をその気にさせないことが大事です。最終的には、東アジアでもINF条約のようなものを作って、中国のミサイルを削減する方向に動いて行くのが筋論だと思います。
圧倒的な中国優位のもとでいいのか
飯田)ヨーロッパで80年代に起こったことと言うと、NATO各国に中距離ミサイルを配備しようとアメリカが動いた。もし同じようなことがアジアで起こるとしたら、日本でもあり得るわけですよね。
宮家)あり得ます。あくまで仮定の話ですが、日本は南に島があって、その周辺で中国の船がうろうろしている。向こうが空母を狙うと言うのであれば、こっちだってやるぞ、ということは抑止理論的にはあり得るのですよね。それが軍拡を招くのだという指摘はその通りかもしれないけれど、圧倒的な中国優位を放置していいのかという、現実的な問題もあります。こちらもある程度の力を持って、最終的にはミサイルを削減して行き、双方のバランスを取って安定させ、相手を抑止するということになるのでしょう。ヨーロッパの歴史を見ていればね。ただ、それに中国が応じるかどうかは別ですよ。
飯田)そのときにどんな反応を見せて来るか。それから80年代のNATOに関しては、弾頭に何を乗せるかも問題でした。核を、ある意味でシェアリングしていましたよね。
宮家)結局はINF全廃条約ができましたが、当時欧州で、もし地上配備の中距離核弾道ミサイルをアメリカが配備しないとしましょう。中距離ミサイルはお互いになくなったかもしれないけれど、ソ連は欧州各国を狙える核兵器を持っていた。それに対してドイツ、イタリアは核を持っていないわけです。そこでアメリカの核を借りた、これが実態ですよね。それが核抑止になったかどうかは歴史が判断することだけれども、ある程度の効果があったことは事実です。実際にヨーロッパで戦争はなかったですからね。それと同じようなことができるかは別として、日本周辺でもそういう動きが出て来てもおかしくはない。最初にそれを言い出したのは韓国ですよね。北朝鮮の核に対して、アメリカの核兵器を配備してくれという意見があった。もちろん公式ではないけれど、一部の専門家がそのようなことを言い出していたと思います。ですから、核兵器共有という考え方は決して絵空事ではないということですよね。
核の先制不使用を信じすぎてはいけない
飯田)日本国内での議論も、非核三原則などを含め、果たしてこの国を守れるのかというところまで行きますよね。
宮家)でも残念ながら、その種の議論は戦後ずっと思考停止して来ました。それを現実的な議論にするには、相当な時間がかかるのではないでしょうか。今そんな暇はないと思いますけれども。
飯田)中国が核を持っていることは1960年代半ばからありましたけれども、一方で核の先制不使用を明言していたこともあり、それを信じていた部分もあったのかもしれませんが。
宮家)そんなものを信じてはダメですよ。
飯田)そういうことですよね。
宮家)先制不使用はどの国だって言えるのだから…、でもそれを信じるのは無理です。先制不使用は、特に劣勢の国の人たちはよく言うのですよ。劣勢で核兵器を撃とうとしたら、その前にやられてしまうのから。だけど力がついて来たら、一気に先制攻撃するというオプションもあるのです。核抑止理論のなかではね。ですから中国が先制不使用論について、態度を変えても全然おかしくはない。持っているミサイルの数、その破壊力などを考えてその種の戦術を変えることは、十分あると思います。
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