アメリカとイランの首脳会談~実現困難を示すこれだけの理由

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月27日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカとイランの今後の関係について解説した。

アメリカとイラン~首脳会談は実現困難か

アメリカのトランプ大統領は25日に行った国連総会を総括する記者会見で、「総会での会談数の記録をつくったと思う」と自画自賛し、日本やイギリスなど28ヵ国の名前を挙げた。しかしながらトランプ大統領は26日午後、ワシントンに戻る予定で、最も注目されたイランのロウハニ大統領との会談は実現しない見通しだ。

飯田)中東情勢はいろいろ動いておりまして、米軍がサウジの支援で200人の増派と、イランをにらんで防空ミサイル部隊を出すのだという話があったり、シリアに関して5月に化学兵器を使用したことをアメリカが確認したなどという話も出ています。

宮家)実質的には大きな動きではないですよね。パトリオットミサイルの部隊を持って行くと言ったって、日本にもあるものと同じで1人では操作できませんから、200人くらいになるわけでしょう。しかし、それで本当に低空から来るドローンや無人機、巡行ミサイルなどに対処できるのか。全く対処できないことはないのかもしれませんが、難しいでしょう。どちらかと言うとこれはイランに対するメッセージ、「攻撃は二度とやるなよ」という警告ですが、どれだけ効くのでしょうか。

アメリカとイランの首脳会談~実現困難を示すこれだけの理由

イランのロウハニ大統領(右端)と会談する安倍晋三首相(左端)(アメリカ・ニューヨーク)=2019年9月24日 写真提供:時事通信

首脳会談が行われなかったことで喜んでいる人たち

宮家)今回、ロウハニさんとの会談がなかったことで、喜んでいる人がたくさんいると思います。テヘランの近くにゴムという都市があるのだけれど、あの辺のイスラム法学者の強硬派の人たちは、トランプさんとロウハニさんが会って変な妥協をされたら大変ですから、今は喜んでいると思います。イスラエルのネタニヤフさんも、アメリカとイランにはもっと対立してもらわないと困るので、話し合いなんてされたら困ってしまう。補佐官を辞めたボルトンさんも話し合いをしなくてよかったと思っているでしょう。虚々実々の駆け引きがあるなかでこうなったということなので、イランと米国の対話の実現は困難ですよ。

米・イランどちらにとっても実現不可能

宮家)イランの穏健派は最後は再交渉してもいいと思っているかもしれないけれど、その再交渉の過程で、アメリカの思い通りになるまでイランに対する制裁がなくならないということならば、やる前から負けではないですか。イランはそんな負け戦はしませんよ。経済制裁をまず解除してくれと言うのは、イランからすれば当然のことかもしれません。でもそんなことをしたら、先に美味しいところだけ「食い逃げ」しやがって、となるわけですから、アメリカはそんなこと絶対にしません。あまり期待し過ぎてはいけないですね。

アメリカとイランの首脳会談~実現困難を示すこれだけの理由

無人機の攻撃を受けたサウジアラビア東部アブカイクの国営石油会社サウジアラムコの施設から上がる黒煙(ビデオ映像より)(サウジアラビア・アブカイク)=2019年9月14日 写真提供:時事通信

それでも戦争する気はない両国

宮家)それでは戦争をやるのかと言うと、やれるものならやってみろと私は言いたいですよ。まず、イランがサウジアラビアの石油関連施設を攻撃したのだとしたら、「よくやるよ」と思います。一歩間違えたら戦争になるんですからね。アメリカの方もよく自制した、というよりは、戦争を始めるのは簡単だけれど、簡単には終わりませんからね。イランと戦争やったら、あの人たちは力の信奉が強いから簡単には終わりませんよ。イラクとの戦争だって、いまだに終息していないですよね。くすぶっているというか、内戦が続いています。イランでそれをやったらイラク以上に大混乱になることは間違いありません。だからアメリカも、うかつには攻撃できない。平和でもない、戦争でもない、グレーで閉塞感の強い関係が当分続くのだろうという気がします。

イギリス、フランス、ドイツ首脳が新たなイラン核合意を支持

飯田)イランとアメリカの関係に関して、イギリス、フランス、ドイツの首脳の共同声明で、新たな枠組みの核合意、もう少し期間の長いもので作るべきなのではないかという呼びかけもありましたけれども。

宮家)それはトランプさんもやりたいことだと思います。トランプさんの本音は戦争をしたくないですからね。選挙の前に戦争をすることは、戦争を利用したとして逆に政治的に傷つきますから、愚の骨頂です。一方、ヨーロッパ諸国も腹を括ったのですよ。イランが簡単に化けの皮をはがされるとは思いませんが、彼らが攻撃をやったことはほぼ間違いない。それがヨーロッパもわかって来て、これでは駄目だと。しかし戦争を回避するにはどうしても新しい、いままでの合意よりもさらにイランにとって厳しい、抜け穴の少ないものを作らなくてはいけないということになったのでしょうが、この方向は間違っていないと思います。イランは困りますけれどね。イランは最後の最後になっても、核兵器をつくるだけの技術的レベルだけは維持したいのだと思います。そういうことを考えると、まだまだ前途多難ということでしょうね。

アメリカとイランの首脳会談~実現困難を示すこれだけの理由

総選挙の遊説を行うイスラエルの中道政党連合「青と白」のガンツ元軍参謀総長(イスラエル・北部イェスドハマアラ)=2019年9月11日 写真提供:時事通信

イスラエル大統領はネタニヤフ首相に組閣命令

飯田)イラン情勢をめぐるいろいろな変数があるなかで、イスラエルの政権交代が起こるかもしれない。これも1つの大きな変数になると。

宮家)ネタニヤフさんの与党とガンツさんの野党が拮抗していて、大統領がどちらの候補に組閣を要請するのかが焦点でした。ネタニヤフさんは選挙で獲得した議席数では負けていますから、本来はガンツさんにまず要請が行くはずだったのですけれど、私が聞いた話では、どうせうまく行かないから、まずはネタニヤフさんにやらせる。そしてうまく行かなくなったところで、ガンツさんの野党が中心になって組閣をしたいと思っているのではないかということです。これもまた狐と狸の化かし合いですね。

飯田)ネタニヤフさんに組閣指示という記事が出て、驚きましたが。

宮家)どうせネタニヤフさんにはできっこないと思っているのですよ。恐ろしい人たちだ。

飯田)ガンツさんの方が首班になって、内閣組閣ができればまた少し変わって来る。

宮家)でもイデオロギー的、政治的立場としては、両者ともほとんど変わらないのですよ。もちろん労働党とか、アラブ政党は別ですよ。それを除く連中は大体、強硬派か穏健派かということではなくて、むしろネタニヤフ派か反ネタニヤフ派かなのですよ。ですから表面的にはニュアンスが変わるかもしれないけれど、根本のイラン敵視、イランに対する厳しい姿勢はどちらがなっても変わらないと思います。

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