まともな2次試験問題を作れない大学の多さがむしろ課題~共通テスト記述式見送り

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月17日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。大学入試共通テストでの国語・数学の記述式問題導入延期について解説した。

【大学入学共通テスト・試行調査】東京都内の高校で「大学入学共通テスト」導入に向けた試行調査(プレテスト)が行われた=2017年11月13日午前、東京都目黒区の都立桜修館中等教育学校 写真提供:産経新聞社

大学入試共通テスト、国語・数学の記述式導入の延期を発表

2020年度開始の大学入学共通テストをめぐり、萩生田文部科学大臣は「国語と数学への記述式導入を見送る」と正式に表明した。安倍政権が推進する「大学入試改革」の象徴でもあった共通テストだが、「英語の民間試験の活用」と「記述式問題の導入」の2つの柱が折れる形になった。

森田耕次解説委員)この記述式問題は国語と数学1、数学1・Aでそれぞれ3問出題する予定でした。国語はもっとも長くて80字から120字で記して段階別評価を行い、数学は主に数式で答えて正誤を判定する予定でした。採点は通信教育大手、ベネッセコーポレーションのグループ会社、学力評価研究機構が2024年3月末までの契約期間で引き受けており、受注額はおよそ61億6000万円でした。学生、アルバイトを含むおよそ8000人から1万人の担当者を集め、20日間で作業する計画だったということですけれども、萩生田文部科学大臣は民間企業が担う採点でミスが起こる懸念、受験生による自己採点の精度が低くなる課題への抜本的解決策が見いだせなかったということで、記述式問題導入を見送ると発表しました。

 

萩生田文部科学大臣)採点ミスを完全になくすところに至るまでには限界があるとのことでした。現時点では実際の採点体制を明示することができません。自己採点の不一致を大幅に改善することは困難であるということでした。これらのことから、再来年1月実施の大学入学テストにおける記述式問題の導入については、受験生の不安を払拭し、安心して受験できる態勢を早急に整えることは現時点において困難であり、記述式問題は実施せず、導入見送りを判断しました。見送りを決断したのは私ですから、私に責任があると思っています。現時点で私が責任者ですから、私の責任で立て直しをしていきたいと思っています。

 

森田)この他、「採点をする学力評価研究機構が担当者を確定させるのが来年秋以降にずれ込んで、採点体制への不安の高まりもあった」と萩生田大臣は言っています。結局記述式も見送りということになってしまいました。

佐藤)ここで勘違いしてはいけないのは、英語を「話す能力」、記述式などの「書く能力」は絶対に必要なのです。だから、その方向性が間違えていたわけではないのです。技術的な落とし込みが不十分だったのです。率直に言うと、自己採点のところでミスがあるというのはちょっと違うと思います。実際の問題は80字から120字で頭とお尻が決まっているから、実質どこまでが記述かということが問題なくらいの客観試験なのです。それから、自己採点で不安があるときには学校の先生に聞くべきです。あるいは、受験産業が発達していますから、無料診断してくれるわけですので、実際にそういった問題は生じないと思います。今回はむしろ、早く幕引きをしてこの制度をやめてしまおうという意図が働いていますね。

森田)事前に調査したときには、実際の評価と自己採点がずれた生徒が最大3割に上ったということです。

佐藤)でも、そこは恐らく受験産業が手伝っていない状況ですからね。

英語民間検定試験、延期へ  大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入延期について記者会見する萩生田文科相=2019年11月1日午前、文科省  写真提供:共同通信社

作問を予備校に丸投げする私立大学の多さ

佐藤)あの出題を実際に見てみると、自己採点の問題はあまり出てこないと思います。むしろ不安なのは、各大学に丸投げしたでしょう。国公立大学間の格差が物凄く出ます。要するに、まともな2次試験の問題を作れない大学がかなりあります。

森田)基本的に国公立の場合は、2次試験で記述式を課していく形になりますよね。

佐藤)東京大学や京都大学、一橋大学や東工大学はもともとやっているのですが、2次試験にはほとんどそういうウエイトがない、あるいは小論文だけの学校というのは先生が出題をしていないのですよ。だから高校の科目のことはわからない。55万人センター試験を受けるので記述式ができないと言うのですが、例えば私立の同志社大学は3万人の試験が記述式なのですよ。私立大学は記述式でやっているところがいっぱいあるし、それで採点できるのだから、その10倍になったってできるはずなのですよ。最大の問題は、私立大学でも作問を予備校に丸投げしているところがあるのです。そうすると、その予備校がその大学の対策講座を持っているわけです。これは完全に利益相反ですよ。そうすると、大学格差が広がって、記述の能力を評価できて英語力を評価できる大学が資質の高い学生を採っていくわけです。そうでない学校は1次のところで実質2次ができないから、そこの能力関係なしに採ってしまう。しかも、大学内の教育体制も整っていないということで、大学格差が広がる可能性がありますね。

森田)文部科学大臣は、この記述式が果たす役割は重要だということを改めて説明していて、各大学独自の試験で記述式問題の積極的な出題を今後も求めていく方針を示しています。それから、文部科学大臣の下に検討会議を設けて、これから大学入試で記述式問題を充実させる方策を話し合うということを会見でも言っているのですが、実際に大学によって格差があるわけですね。

佐藤)これは1979年に共通1次試験を導入したときがまさにその議論だったのです。一部の国公立大学が難問奇問、問題がつくれなくなってしまいました。標準的な問題をつくって2次試験で大学独自で問うということだったのですが、人は易きに流れます。そういう2次試験の問題を出せる大学は限られていました。最終的にこの方向で大丈夫なのか、非常に不安を感じます。

ベネッセコーポレーション東京ビル(東京都多摩市)-wikipedia「ベネッセコーポレーション」より

55万人の採点が可能なのはベネッセ1社のみ

佐藤)受験関係の業界では55万人を採点できる会社は1社しかないのはみんなよく知っている話なのです。だから、いずれにせよベネッセ、進研ゼミの系統でしかできないから、スペックの仕様のところで1社しかありませんので、根本的に問題がありますよね。

森田)我々がよく聞いていた名だたる予備校が、かなりベネッセのグループ会社になっているのですね。

佐藤)そうじゃないところは受験生の数が限られているのです。ですから、55万人の試験をやることはできません。

森田)英語の方も、読む、聞く、話すという民間試験の導入を見送るということで、2本柱が失われてしまった形ですね。

佐藤)超難関校の場合、今回のためにネイティブの教師を入れて英語の教育体制を変えてしまっていますから、そういうところはますます強くなってくるのです。だから結果として、教育格差が強くなってしまった。最大の問題は、かつてなく教育行政に不信が生じてしまっていることです。これは野党が教育を政争の具にしたことが非常に大きいと思います。この制度で試験に走っていても、私はそれほど深刻な問題にはならなかったと思います。英語の民間試験の問題も、確かに経済格差の問題はあるのです。しかし、それを言うならば予備校や私立の難関校に通っている人たちはそれだけたくさんのお金を使っているわけです。ですから、英語を是正しながらこの制度でやっていっても落としどころはあったと思うのです。数学の記述試験にしても、むしろこれでは記述が判定できない客観試験に近いということですが、例えば5択の問題だと3番の回答が多いのです。これは、作る側としては1番や5番になかなか置けないからです。まぐれ当たりでなく最低限の力をチェックするためにも、悪い話ではなかったと思うのです。ただ、これは感情を刺激することになって、ここまでの不信が受験生や保護者のところであったら、これは1回すべて仕切り直すしかないです。

ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20

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錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。

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