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『顔ハメ百景』著者・塩谷朋之~なぜ「顔ハメ看板」を求めるのか
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
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「顔ハメ」仕様の名刺
街中や観光地などでよく見かける、「顔ハメ看板」。あの「顔ハメ看板」に、まさにハマった人がいます。塩谷朋之さん(36歳)は、自称「顔ハメ看板ニスト」。いただいた名刺にも丸い穴が空いています。
普段のお顔は、都内の会社に勤める総務部の課長さんです。顔ハメ看板を何となく撮り始めたのは、20歳の学生のころ。当時、看板に顔をハメて喜ぶような人は、あまりいなかったそうです。
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加須未来館の顔ハメ看板
塩谷さんが就職して、埼玉県の加須(かぞ)市へ出張したとき、農産物直売所のビニールハウスのなかに、壊れかけた顔ハメ看板が放置されているのを見つけました。近くに『加須未来館』があり、宇宙飛行士の顔ハメ看板でした。
「それを見たら何だか、かわいそうになっちゃってね。農家のおじさんに『あとで片付けますので、写真を撮らせて下さい』と頼んだんです。写真を撮って元に戻そうとしていたら、おじさんが『そんなに喜んでくれるのなら、壊れた脚を直して、また写真が撮れるようにするかな』と言ってくれて。それがとても嬉しくて、『よし、全国の絶滅しそうな顔ハメ看板を撮ってみよう!』と心に決めたんです」
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シンハービールの顔ハメ
そのころ塩谷さんが撮った看板は50枚ほどでしたが、いまではその数、何と4100枚! 絶滅するどころか、ツイッターやフェイスブックなどの登場で記念写真を撮る人が急増し、いまや人気アイテムになっています。
塩谷さんは会社の昼休み、早めにご飯を済ませ、残りの時間を利用。ツイッターなどから「#顔ハメ」で検索し、顔ハメ看板で写真を撮った人の情報を日本中から探し出します。その場所をグーグルマップで確認し、リストにまとめ、次の休みはどこへ撮影に行くか、計画を練るそうです。
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桜島SA下り 西郷どんではなく犬の「つん」が顔ハメに
普段、会社に行くときもカバンに三脚と一眼レフカメラを入れて、いつでも撮影ができるようにしています。顔ハメ看板は1人用がほとんどですが、2人用や3人用もあって、そんなとき塩谷さんは通りすがりの人に声をかけます。
「恥ずかしいと思ったことは1度もないんです。遊びではなくライフワークなので……。見知らぬ人に声をかけると、『え?』という顔をされますが、『あの看板、2人用なんです』と言うと、『ああ、いいですよ』と8割~9割の人が快くハマってくれるんです」
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川崎売店・アンコ娘の看板
2010年の年末、アンコ椿で知られる伊豆大島へ、アンコ娘の看板を撮りに行った日のことが忘れられないと、塩谷さんは言います。
港近くのお土産屋さんの看板で、いかにも素人が描いたペンキ画。アンコ娘の着物の裾から素足が見えて、ちょっと色っぽい。しかし海が近いせいか板はボロボロ、釘も錆びて、何度もペンキを塗り直しています。
「お店の女性に、いつからここに? と聞いたら、『私が嫁いだときからあるので、30年以上経っている』と言うんです。『この看板を作ったのは義理の父で、いまは寝たきりですが、わざわざ看板を見に来てくれた人がいたと言えば、父も喜ぶと思いますので伝えておきますね』……こんな出会いがあるのも、顔ハメ看板の旅の楽しさですね」
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古書 往来座・本の表紙になれる顔ハメ看板(塩谷さんのツイッターより)
塩谷さんは撮影だけでなく、作った人に会って話を聞いています。このほど、『顔ハメ百景』という文庫サイズの本を出版しました。第1弾が長崎県で、今後はシリーズ化して行く予定です。
この本をパラパラめくると、看板に顔をハメた塩谷さんはニコリともせず、能面のように無表情です。なぜですか? と聞くと、「主役は私ではなく、顔ハメ看板だからです」と笑います。
47都道府県でまだ行っていないのは、大分と宮崎……増え続ける顔ハメ看板を訪ねる旅は、永遠に続くそうです。
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著書の『顔ハメ百景』も発売中
■『顔ハメ百景』
(阿佐ヶ谷書院 定価1000円+税)
■塩谷さんのツイッターとフェイスブック
twitter:@shioya20
https://www.facebook.com/tomoyuki.shioya.7
■阿佐ヶ谷書院のホームページ
http://www.asagayashoin.jp
上柳昌彦 あさぼらけ
FM93AM1242ニッポン放送 月曜 5:00-6:00 火-金 4:30-6:00
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ