訳アリ犬、歓迎! 倉庫でサロンを始めた熱血トリマーと犬たちの物語
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【ペットと一緒に vol.180】by 臼井京音
これまで8頭の犬と暮らして来たという、トリマーのフーリーれいこさん。2017年に迎えたのは、繁殖引退犬で、譲渡先から出戻った6歳のスタッフォードシャー・ブル・テリアでした。今回は、“訳アリ”な犬との縁が深いと語るれいこさんのストーリーを紹介します。
動物好きの少女が渡豪を経て……
ミニチュア・シュナウザー、トイ・プードル、コッカースパニエル、ボストン・テリア、ミニチュア・ダックスフンド、チワワ、そして猫。現在はトリマーとして活躍するフーリーれいこさんは、これまで多くのペットと暮らして来ました。
「昔から動物が大好きで、高校生時代にはペットショップでアルバイトをしていました。いま思えば、そこは営利目的だけのために乱繁殖させられるパピーミル(子犬工場)と呼ばれる施設だったのですが……。その経験が、もしかすると売れ残りの犬や、保護犬や保護猫をなるべく迎えたいという気持ちの原点になったのかもしれません」
専門学校でトリミングを学んだれいこさんは、21歳でオーストラリアへ。
「ワーキングホリデーの制度を利用して、シドニーに滞在していました。そのままオーストラリアでトリミングの職に就こうとも思ったのですが、ご縁がなくて帰国。動物とは関係のない、アパレル関係の会社に勤め始めました」
ところが、れいこさんはリストラにあって数年で退社することになったそうです。
「どうしようかと悩んでいたところ、知人が、ワインの倉庫だった場所を使って何かしてみないかと誘ってくれたんですよ。念願の犬の仕事にチャレンジするチャンスだと思い、2003年、東京都八王子市でトリミングサロンをスタートさせました」
フリスビーでの大失敗と大成功
新しい店舗にも移り仕事も軌道に乗って来たころ、れいこさんは念願だったブル・テリアのひなたちゃんを迎えたと言います。
「闘犬系の血も入っているテリア犬種ですから、トレーニングにも力を入れましたね。一体感を得られる競技がしたいと思い、フリスビーに挑戦したのが最大の思い出です。飛距離を競う“ディスタンス”では、残念ながら投げ手である私の技術が進歩せず……。さらに、ゴール間際でひなたが突然うんちを始めるというハプニングまで経験して(笑)。キャッチする動きの華麗さなどが評価される“フリースタイル”に転向しました。すると、大会で2位を獲得できるほどに上達したんですよ」
れいこさんは、ひなたちゃんが7歳になる位まで、フリスビーを楽しみ尽くしたそうです。
れいこさんにとっても夢のような毎日でしたが、ひなたちゃんはリンパ腫にかかり、2016年に10歳で旅立ってしまいました。
ひなたちゃんとの別れから1年半後、新しい家族を迎えようとれいこさんがネットでリサーチしたのは、スタッフォードシャー・ブル・テリアでした。
「ブル・テリアの祖先でもある犬種で、オーストラリアに滞在中に街でよく出会っていて、かわいいからいつか一緒に暮らしたいと願っていたんです」
こうして2017年に、繁殖引退犬の4歳のニーナちゃんがフーリー家にやって来ました。実は、最初は他の家庭で第2の犬生がスタートしたのですが、そこで子供とぶつかって倒してしまったとか。力が強く手に負えないということで、ニーナちゃんはブリーダー宅に出戻って来たそうです。
「ならば、訳アリな子が集まる我が家へぜひ! と、迎え入れました」と、れいこさんは笑います。
驚くほどにやさしい性格の“訳アリ犬”
れいこさんには、現在5歳になる娘さんがいます。
「最初は、娘が倒されないようにと気を遣っていました。でも、ニーナはとてもやさしい性格の犬だとわかって来たんです。いまは、娘とも、2017年末にペットショップの売れ残り犬として生後9ヵ月で譲り受けたチワワとも仲よしで、ふたりに何をされても無抵抗。チワワのトッポジーには、ドッグベッドを譲ることもしばしばですね(笑)」
ニーナちゃんは、皮膚が弱く、動物病院通いも日課になっているとか。
「体質改善や免疫力のアップを目指そうと、近所のアキ ホリスティック動物病院で、さまざまなケアをしてもらっています。私がトリマーだったことも不幸中の幸いで、毎日に近いシャンプー療法にも取り組み始めて、免疫抑制剤治療に頼らずともニーナの皮膚の状態はかなり改善して来ました」
今後は、アキ ホリスティック動物病院で開催されているイベントのひとつである“ノーズワーク”にも、れいこさんはニーナちゃんと参加する予定だと言います。
「犬もそれぞれ性格が違いますからね。ニーナは、きっとノーズワークが気に入ってくれるはず。それから、数名の方から、ニーナはセラピードッグにも向いていると言われるようになりました。海外でもたまに咬傷事故があるので悪名高いスタッフィーですが、実際に事故を起こすのはごく一部。穏やかでやさしい性格のスタッフィーだって、たくさんいるんですよ。そのことを、私自身がニーナから教えてもらいました」
そう語るれいこさんは、いずれ、ニーナちゃんと高齢者施設などを訪れる動物介在活動にも挑戦してみたいと微笑みます。ニーナちゃんとれいこさん家族との生活は、まだ始まったばかり。今後は、ひなたちゃんとは違う“ワクワク”や“ドキドキ”が待っていることでしょう。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。