ロシアが必要に応じて折々取る手段~共同通信記者拘束
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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月30日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。ロシアでの日本人記者拘束について解説した。
ロシアが日本人記者を一時拘束~抗議が目的か
共同通信の男性記者がロシアの軍事機密を得ようとしていた疑いで、12月、一時拘束されていたことがわかった。大手通信会社・ソフトバンクの元社員がロシア側に情報を漏えいした事件をめぐるロシア側の抗議の一環と見られる。
森田耕次解説委員)この男性は共同通信の記者で、共同通信によりますと、ロシアの当局者を取材したこの記者は12月25日に事務所へ連行されて取材目的などの調べを受け、およそ5時間後に拘束が解かれたということです。このタイミングでロシア当局が発表してきたということは、やはりロシアへ情報を漏らした事件に対する抗議ということでしょうか。
佐藤)発表したことは抗議です。ただ、拘束したことは抗議ではなく、ロシアはしょっちゅうやっているのです。例えば、ウラジオストクは高度国防都市ですから、駅の写真を撮る、鉄橋の写真を撮る、港の写真を撮る、これはすべて違反です。普段はお目こぼししているのです。ところが、日本との関係で面倒くさいことがあると、法規を厳格適用してとりあえず捕まえておくのです。72時間以内には追放、今後ロシアには入れなくなるということをしています。ですから、何か原因になるような取材はしているのです。通常、こういったところへ行くときには1人で行動してはいけません。私は、ロシアへ行くときには絶対にカメラを持ちません。それは、余計なことに巻き込まれないようにするためです。
森田)1人で行動してもいけないと。
佐藤)特にウラジオストクでは、必ず複数人で行動をして、その状況についての目撃証人をつくっておかねばなりません。これは同じ日本人でも構いません。
森田)この記者はウラジオストクで軍事的な機密情報を得ようとしたということで拘束されて、72時間以内の出国を求められたのですね。
佐藤)以前にも例があるのですよ。私自身もある公共放送の記者を助けたことがあります。朝放送していたら、突然画面が切り替わってしまうのですよ。その場で拘束されてしまったのです。そういうことがウラジオストクではよくあるので、行くときには要注意しなければいけません。この共同通信の記者は少し軽率ですね。
荒木容疑者逮捕はむしろ日露関係悪化を防ぐため
森田)一方で、ソフトバンクの機密情報が在日ロシア通商代表部職員の男に漏えいしたという事件で、荒木豊容疑者48歳が不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。
佐藤)これに対してロシア側は「大した秘密なんて盗んでいない」と反発しています。ソフトバンクも「大したものは盗まれていない」と言っています。しかし、これは深刻な問題です。この荒木さんは部長級ということで、いろいろな情報を知っているのです。いま、育成している段階だったのですよ。まずは「マニュアルなどの普通の公開情報をください」と言うのです。それをくれたらお礼に食事をごちそうして、車代などとして少額のお金を渡すのです。それを何度も繰り返して貰い慣れするようにして、次は個人情報や顧客情報に触れない程度の社外秘のデータを取るのですが、それが今回です。その次には社内の個人情報に関するものを取って、次は国でやっている仕事関係のものを取る。報酬もその都度増やすという協力者の養成なのですよ。
森田)だんだんと要求のハードルも上げていって。
佐藤)今回、警視庁が摘発したのは非常に早い段階なのです。これは日露関係を悪くするために摘発しているというよりも、これ以上荒木さんが深入りすると大スパイ事件になるからいまのうちに枝切りをしておくということで、むしろいまの日露関係改善に配慮していると思います。ロシア側対しても「これ以上やるなよ」というメッセージなのでしょう。
森田)スパイ機関のSVR(対外情報局)は社会のインフラを取るのが目的だと言われています。
佐藤)それは彼らの仕事の一部です。さまざまな合法的な手段でも盗りますが、盗れるところにあれば非合法な手段でも使います。諜報機関はそういうものです。日本の外交官だって、いろいろな方法でいろいろな秘密を取っているので、お互い様です。
森田)けっこうそういうことをやっているのですね。
佐藤)SVRの人たちはよく訓練されたプロです。今回、ロシアと日本の文化の違いがあるのです。共同通信の記者のことをロシアが発表したのは、プーチン大統領が決裁したからです。ロシアでスパイ事件が表に出るときは、大統領案件なのです。ところが、日本は安倍総理はもとより、官邸はまったく知りません。警視庁が違法行為として摘発したという、せいぜい警察庁長官くらいまでしか知らない話です。この非対称でロシアがいま見ているのは、安倍総理は一方において警察出身の北村さんを送って関係改善のメッセージを送って、30日の鈴木宗男さんの答弁のところではロシアへ行く方針を出して、他方ではスパイ摘発でロシアとの関係を悪化させようとしているのかという深読みをしているのです。それは違うのだ、SVRの人がやり過ぎているから、大ごとにならないうちに処断したのだということを日本政府としてメッセージを伝えておけば大きな騒動にはなりません。
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。