【ライター望月の駅弁膝栗毛】
平成27(2015)年3月の北陸新幹線開業に伴って、新潟~金沢間の特急「北越」に代わり、新潟~上越妙高・新井間で運行を始めた特急「しらゆき」。
上越妙高で北陸新幹線「はくたか」に接続する形となって、早くも3月で丸5年となります。
「しらゆき」を雪のなかで…と思い浮かべながら新潟市の郊外を訪れてみましたが、この日も暖冬の影響か、雪のない越後平野をE653系電車が駆け抜けて行きました。
特集企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第21弾は、新潟・新津を拠点に駅弁を製造する「株式会社三新軒」の遠藤龍司(えんどう・りゅうじ)社長のインタビューをお届けしています。
社長が懐にしのばせているのは…「三新軒」の名物駅弁「雪だるま弁当」の容器。
この容器、じつは6つのカラーがあるのだそう。
今回は、この「雪だるま弁当」の開発秘話をたっぷりと伺いました。
●新潟らしさを追求して生まれた駅弁「雪だるま弁当」!
―三新軒といえば、「雪だるま弁当」も有名ですね?
平成7(1995)年に発売した「雪だるま弁当」(1080円)は、新潟を訪れて下さったみなさんに「もっと新潟らしさを感じていただける駅弁はないか?」というところから生まれた駅弁です。
当時は「新潟のよさ」についてアンケートを取ると、「食べ物が美味しい」というお声を多くいただいたのですが、新潟は魚も野菜も米も美味しいのが当たり前で、なかなか「新潟らしさ」を打ち出せていませんでした。
―なぜ、「雪だるま」型の駅弁に…?
アンケートのなかに、新潟らしいものに「雪」を挙げた回答がありました。
ただ、雪を召し上がっていただくわけにもいきません。
もう、どうしようか悩んでしまいました。
そこで当時、日本でいちばん売れるものを作っているところはどこか考え、「トヨタ自動車だ!」と思いついて、工場を見学させていただいたんです。
●大手自動車メーカーの製造ラインが、新作駅弁開発のヒントに!
―クルマから「雪だるま」…どう結びついたんですか?
製造ラインから出来上がってくる自動車の形を見て、「丸い」ことに気づいて、質問しました。
すると、「お客様のニーズが丸いものを好む傾向にある」こと、そして、「以前と比べ、プレス技術が向上したことで、丸いものを作りやすくなった」ことを教えて下さいました。
そこで、「これからは丸いものが流行る!」と直感しまして、雪で丸いもの…「雪だるま」を思いついたというわけなんです。
―確かにあの雪だるま型容器は、丸くて愛らしいですよね!
最初は平らな「雪だるま」を図面で描いたのですが、これがまったく面白くない。
確かに平面だと重ねることができるので、駅弁を売る上ではいいんです。
一方、立体ですとかさばりますので、販売員はどうしても嫌がる傾向があります。
でも、売り出したところで、売れるかどうかわかりませんから、(お客様のために)少しでも「面白いもの」を売りたいという気持ちが勝りまして、あの「立体」の雪だるまを作りました。
●ミリ単位の工夫で、お客様が自由に「楽しめる」駅弁容器に!
―じつは「雪だるま弁当」の容器って、いろいろな表情が楽しめますよね?
形を工夫することで、寝かせることもできれば、立たせることもできる「雪だるま」としました。
顔の形も、30通りくらい考えました。
雪だるまって、眉毛と鼻と口だけなんですけど、全然表情が変わって来るんですよ。
結局、どの表情がいいかわからなくなってしまったので、お客様に決めていただこうとなって、“可動式”の眉毛、鼻、口とすることになりました。
―あれは、わざと動くようにしていたんですか!
いちばん工夫したのは「目」で、丸い目が動いても丸は丸ですから、全く変化がありません。
でも、回転軸の中心をずらせば、目の位置が変わって表情が変わることに気づきました。
そこで目が数ミリ動くようにできないか交渉しましたが、ピンが折れるため最初はNGでした。
でも、(そこを何とかと頼んで)ギリギリ耐えられるという、1ミリ少々の可動幅を設けました。
だから「雪だるま弁当」の雪だるまの目をよくご覧いただくと、少~しだけズレてますよ!
(三新軒・遠藤社長インタビュー、後半につづく)
【おしながき】
・ご飯(新潟県産)
・鶏そぼろ
・鶏照り焼き
・ミートボール
・味付け数の子
・うずらの卵
・錦糸玉子
・かに風味かまぼこ
・煮物(椎茸、こんにゃく)
・山菜
・チェリー
世代を超えて楽しめる鶏と錦糸玉子のそぼろご飯をベースに、鶏の照り焼きやミートボール、さらに新潟らしく数の子も載った「雪だるま弁当」。
思わず容器に目を奪われてしまいますが、じつは中味も飽きがこない実力派の駅弁です。
うずらの卵とチェリーをどのタイミングでいただくかは、食べる方で好みが分かれそう。
その意味でも、自由な楽しみ方ができる「雪だるま弁当」です。
●容器は30万円相当貯められる貯金箱に!?
―「雪だるま」の容器は、貯金箱にもなるんですよね?
ここまでこだわって作った「雪だるま」でしたので、とにかく捨てられるのがイヤでした。
当時500円玉貯金などが流行っていたので、「貯金箱」にしようとなったんです。
「雪だるま弁当」の容器を厚く作っているのは、500円玉に耐えられるようにするためです。
じつは取引銀行にも足を運びまして、どのくらいの500円玉が入るか試してもらったところ、600枚の500円玉…つまり30万円相当が入ることがわかりました。
―「雪だるま弁当」のカラーは何種類あるんですか?
全6種類で、色の個数やどの色を使うかは、すべて調理場の方にお任せしています。
「思いついたら、色の雪だるまを入れて下さい」ということで、これを“徹底”しています。
ですので、調理場の方のその日の気分次第で、色の雪だるまが混じることがあります。
なお、「黒の雪だるま」は、駅での販売は行っておらず、鉄道のまち・新津にちなんだ「鉄弁」という弁当として、イベントのときや、事前にご予約いただいた方のみに販売しています。
(三新軒・遠藤龍司社長インタビュー、つづく)
駅弁は鉄道の一部ではありますが、鉄道の世界に凝り固まらず、自動車の形状にヒントを得て開発された、三新軒の「雪だるま弁当」。
今年(2020年)で発売から25年を迎え、すっかりロングセラーの域に入ってきました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第21弾・三新軒編、遠藤社長のインタビュー、次回は駅弁作りのこだわりなどを伺っていきます。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/