フランスの“いま”を描いた、“レミゼじゃないレミゼ”
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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第786回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、2月28日公開の『レ・ミゼラブル』をご紹介します。
現代社会の闇を鋭く切り取った、衝撃の問題作!
タイトルを聞いて「あの有名なミュージカルの映画化?」と思った人も多いかもしれません。しかし、本作『レ・ミゼラブル』は、まったくの別物です。
「第72回カンヌ国際映画祭」ではポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』とパルムドールを競い、「コンペ最大のショック!」との称賛を受けるほどのセンセーションを巻き起こし審査員賞に輝いた“レミゼじゃないレミゼ”が、ついに日本公開となりました。
本作の舞台となっているのは、ヴィクトル・ユゴーの傑作大河小説「レ・ミゼラブル」で知られている、モンフェルメイユ。
“孤児の娘コゼットをこき使うテナルディエ夫婦が営む安宿がある場所”として知られるこの地は、現在ではパリ郊外の犯罪多発地区の一部とされています。
我々が思い描く“花の都”のような華やかなイメージは存在せず、そこにあるのは、権力者によって抑圧されている弱者と、社会で居場所を失った人々の姿。“世界の縮図”とも呼べるような“ミゼラブル(悲惨)”な現状が反映されている場所と言えるでしょう。
パリ郊外に位置する、モンフェルメイユの警察署。移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域の犯罪防止班に、地方出身の警官ステファンが新たに加わることになる。
気性の荒いクリスや警官である自分の力を信じて疑わないグワダと共にパトロールをするうちに、ステファンは複数のグループ同士が緊迫した関係にあることを察知。
そんななか、イッサという少年が引き起こした些細な出来事が、大きな騒動へと発展することに。ステファンたちは事件解決のために奮闘するが、事態は思わぬ方向へと進んで行く…。
監督・脚本を務めたラジ・リ監督は、このモンフェルメイユで生まれ育ち、現在も住み続けています。ラジ・リ監督いわく、この映画に描かれていることはすべて実際に起こった出来事に基づいているとのこと。
2018年ワールドカップ勝利の歓喜に沸くことも、その背景にある格差社会や移民問題も。あのヴィクトル・ユゴーの名作に描かれた時代から200年の時を経ても、フランス社会が抱える問題の本質は何1つ変わっていないことが伝わって来ます。
圧倒的な緊迫感とスタイリッシュな映像で見事に描き切った、フランスの“いま”。日本にとっても、もはや他人事として済ませては観られない1作です。
『レ・ミゼラブル』
2020年2月28日(金)から新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督・脚本:ラジ・リ
出演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール
原題:Les Misérables
(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
公式サイト http://lesmiserables-movie.com/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/