ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月28日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。安倍総理が全国小中高の休校を要請したニュースについて解説した。
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新型コロナウイルス感染症対策本部で発言する安倍晋三首相(手前)。感染拡大を防止するため、全国すべての小中高校や特別支援学校を3月2日から休校とするよう要請すると表明した =2月27日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社
安倍総理がすべての小中高校に3月2日からの臨時休校を要請
安倍総理)政府といたしましては、何よりも子どもたちの健康、安全を第一に考え、多くの子どもたちや教員が日常的に長時間集まることによる感染リスクにあらかじめ備える観点から、全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう要請します。
安倍総理は27日、総理官邸で開かれた新型コロナウイルス感染症対策本部で、私立を含めた全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校に、3月2日から春休みに入るまで臨時休校とするよう呼びかけた。また感染拡大抑制などのため、必要な法案を早急に準備するよう関係閣僚に指示している。
飯田)かなり強い危機感の表れとも言えます。
宮家)私は当然だと思います。世界的に拡散しているウイルスなので、日本については、ここで止めなければいけないということです。少なくとも感染はスローダウンしなければいけない。某新聞には「その根拠を説明すべし」と書いてあります。根拠を説明しろと言うけれど、これはあくまで「要請」です。要するに「命令」できないのです。なぜ命令ができないかと言うと、強制する法律がないからです。「子育て中の医療者が休んでどうするのだ」と言いますが、「子育て中の医療者の子どもたちが感染したらどうするのだ」ということと同じですよ。今となってはそういう批判のための批判をしても意味がないのです。
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」
非常事態に強制力を使える法律を準備するべき
宮家)「これは強制力がないではないか、無責任だ」とよく言うけれど、強制力があって責任があることをやるためには、強制力のある法律をつくらなければならないのです。役人は法律を執行するのであって、法律にないことをできるわけがないのです。それを仮にやったら法律違反になるし、それで被害が出たら国家賠償になりかねません。そんなことを役人ができるわけがないのです。こういう事態を想定するのであれば、非常事態のときには強制力を使えるようにして、国民が理解できるようにあらかじめ法律を準備しておく。これが本来あるべき姿です。どこの国だってやっていることで、戦後やっていないのは日本だけです。この新聞もそうかもしれないけれども、こういうことに反対して来た人たちもいるわけですよ。
飯田)緊急事態の法制というのは、自分の権利の制限も伴うわけだから…。
宮家)当然、基本的人権の制限が入ります。
飯田)緊急事態ですからね。ただそれをやると、リベラルな新聞やメディアはいままで大反対をして来ました。
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【新型肺炎】羽田空港から出る救急車=2020年1月29日午前、東京・羽田空港 写真提供:産経新聞社
これまで非常事態に対応する法律をつくらなかったツケが回って来ている
宮家)個人の人権と公共の利益、国益と呼んでもいいでしょうけれど、その二つの利益のバランスを日本は取って来なかった。何も起きないときはそれでいいのです。だけど、緊急事態が起きたときには対応できない。学校をどうするかということも根拠法がないから、要請せざるを得ない。要請したら何の根拠だと批判される。でも、根拠などと言っている場合ではないでしょう。それよりもいちばんリスクの大きい、例えば多数が集まる大きな施設、もしくは狭いところで多くの人が集まるときに、子どもたちをどうやって守るかと考えたら、これは苦肉の策ですよ。法律がないんだから。だけどもしちゃんとした法律があれば、もっと早い段階で説明ができて、それが実施されていたかも知れない。
飯田)「段階を踏んでここまで行くかも知れません」というアナウンスがあれば。
宮家)「こういう法律があります。この法律に従ってやることにします」と。「検討した結果、強制が必要でした。法律に従ってやるので」と言えば、それで説明になるではないですか。戦後の日本は緊急事態や国家安全保障に関係するような、非常事態に対応する法律をことごとくつくって来なかった。そのツケですよ。これを教訓にして、いまからでも遅くないですから、今後は然るべく法律をつくって、国民に理解を得られる形で強制措置を取るべきです。このようなことをまた10年後、20年後に繰り返したら、大変なことだと思います。
飯田)諸外国であれば緊急事態法制なり、場合によっては戒厳令を出して軍隊が出ることだって、可能性としてはあるわけです。
宮家)法律があれば、行政府の裁量のなかでできるのです。そして他の国は大体はそうした法律があるのです。
飯田)そういうものは法律にあるのか、あるいは憲法に書き込まれているという国もあるのか。
宮家)普通の国では常識ですからね。
飯田)国を守るという意味では。
宮家)日本は1945年以来、常識が変わってしまいましたから、それは仕方がないにしても、いい意味でこれから元に戻すことは可能だと思います。
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新型コロナウイルス感染症対策本部で発言する安倍晋三首相(列手前から2人目)=2020年2月25日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社
国会が閉鎖される前に法律の整備を
宮家)それから、「強制力で全部やれ」と言うけれども、アメリカだって「疾病対策センターが全部やる」と言っているわけではないのです。基本的には医療の問題は、各州や各地方でやる。状況がまるで違うのに、全国一律で何かをやれと言っても、うまく行くわけがない。日本だって都道府県が責任を持ってやっているでしょう。そういう意味では、構造的に難しい部分はある。それは認めます。だからこそ、「そういうときにどうするか」というルールをはじめからつくっておかなければならない、ということです。国会が閉鎖される前につくるべきです。
飯田)国会議員に感染者が出た場合には、ということをやっていましたけれども。議場にいた人たちは全員、濃厚接触者になってしまいます。
宮家)そうしたらどうするのだということです。「そんなことを考えたことがない」と言うならば、いまの話と同じでしょうと。
飯田)国権の最高機関に業務継続計画がない、というのとほぼ等しい。